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7話  妹が来た

 あれから数日経ったとある日の午後。

 今日も、四十度近くにもなる気温を記録する猛暑日となっていた。

 つばめが用事だと言って、家を開けることも最近は少なくなり、今日も昼過ぎに帰宅してきたのだ。

 今は午後三時前。帰宅したつばめが、昼ごはんを作って食べて、今キッチンで片付けをしている。


 志はと言えば、リビングのスクリーンで朝からずっとゲームをプレイし続けている。実は、千隼とやっているゲームに興味を持っていた志は、昨日わざわざ店までそのゲームを買いに行ったのだ。

 ここには、邪魔をしてくる妹もいなければ、勉強しろと言ってくる母親もいない。つまり、志にとってこの家は、ゲームにどっぷりと浸かれる天国みたいな場所なのである。


 ──しかし、そんな幸せの時間はインターホンの音によって、絶体絶命の危機に一変する。

 

「あぁ……俺が出ます……」


 インターホンの室内モニターに近い志が、ゲームコントローラーを置いて立ち上がる。

 しかし志は、画面を見た瞬間硬直して立ち尽くす。室内モニターの画面の向こうには志の妹が、笑顔で立っていた。


(な……な……なんで、いるんだ?)


 だが、志がここに住んでいるということは家族全員が知っているわけだし、妹がここに遊びに来るというのも普通にあり得ることなのだ。

 と、いうか志は、千隼が来たときには妹が遊びに来ていたということも言った。

 

「どちら様ですか?」


 つばめが手をタオルで拭きながら、こちらへと近づいてくる。

 志は慌ててモニターの画面をオフにする。


「あ、いや……あの……えっと、誰でもないよ」

「? なんでそんなに慌てて……」

「本当になんでもない……!! ちょ、ちょっと俺が追い返してきます……っ!!」


 志はリビングを飛び出し、靴を引っ掛けて外に出る。

 絶対に志の家族とつばめは会わせてはいけない。

 志の妹は中学二年生。自分の兄が美少女と同居していると知れば、確実に周りに言い降らしたくなるだろう。そして、それが息子のこういう話題に敏感な母の耳に入れば、絶対に家に押しかけてくる。

 そうなればつばめにも迷惑がかかるし、志自身のメンタルが崩壊する。


 今日この場で、妹とつばめの対面は志にとって、絶対に避けねばならないことなのだ。


「あ、お兄ちゃん」

「凛……何しに来たの……?」


 椎咲(りん)。志の妹。中学二年生。

 中学校での成績は良く、一応は優等生に分類される。ソフトテニス部に所属しており、部長をやっており、部活のエースである。

 一つの部屋を二等分し志と使用していたため、本棚も兄妹兼用だった。その影響で志のライトノベルを読みまくった結果、華麗に中二病へと引きずり込まれたのである。 

 

「何しにって……お兄ちゃんがラノベ全部持ってちゃうからでしょ」

「ラノベを借りに来たのか?」

「そ。でもそのついでに家の中見せてよ!」

「それは……駄目だ……」

「えー! なんでよー。あたしもこの家入りたいー」


 志も入れてあげたいという気持ちはある。というよりむしろ、自分の家の中を紹介して回りたいほどである。

 だが、つばめがいる。


「今ちょっと家の中が散らかっててだな……」

「そんなのいつも見てるよ! じゃお邪魔しまーす」


 凛は志の横をすり抜け、玄関のドアに手をかける。


「凛! 駄目だっ……」


 志は凛とドアの間に入る。志は屈んで凛と目線を合わせる。

 

「どうして駄目なの?」

「まぁ色々あるんだ。ラノベなら今から持ってくるから……な? ここで待って……」


 その時、志の後ろのドアが開いた。ドアの隙間から、つばめが視線を送る。


「あ……お兄ちゃん後ろ……」


 凛に言われ、志は後ろを振り返ると、つばめがいる。

 つばめと志の目が合う。そして、つばめは視線を凛へと変える。


「貴女は……?」

「えっ……えっ……誰?」


 あ、終わった。

 こんなに暑いのに、志は凍りつくような寒気が走った。

 想定していた中で、最悪の事態が発生してしまった。

 まだ、声を聞かれていたとか、姿を見られただけとかなら、なんとか弁解の余地はあった。

 だが、今はっきりと凛が『お兄ちゃん』と言った現場をつばめが目撃してしまったわけだ。

 これはもう、言い逃れはできない。


「まさか……お兄ちゃんの彼女……!?」

「違う!!」


 凛には完全に誤解をされているみたいだ。

 と、凛はつばめのほうへと向き直る。


「あたしは椎咲凛っていいます。名前を教えてもらってもいいですか?」

「恋鳥つばめ。貴女は、椎咲さんの妹?」

「はい!! つばめさんですね!! 恋鳥家のことはよく知ってます!!」


 流石のコミュ力だ。

 こんな妹を持ててお兄ちゃん嬉しいぞ。うんうん。

 じゃない!! どうすればいいんだ。

 志は動揺する心を抑え込んで、必死にこの状況を乗りきる術を考え始めた。


「ここは暑いですし、中に入りませんか? お茶とお菓子を出しますよ」

「いいんですか? ありがとうございます!!」


 つばめは凛を家の中へと誘導する。


「ほら、椎咲さんも行きますよ」


 つばめは志にも声をかけて、家の中へと入っていく。


(どうする……凛と恋鳥さんがこれ以上仲良くなれば、もっと大変なことが起きる気がする……。かといって、凛をこのまま帰らせるのはもう無理だ……)


 志も家の中へと入り、リビングに行く。リビングでのつばめと凛を見て、志は絶望を感じた。


「あ、駄目だ…………」



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