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4話  女神様はバレてはいけない

「ぅあー!! まーた負けたー!!」


 千隼がゲームコントローラーを手放して、ソファに倒れ込む。スクリーンには、パーティーの全員が戦闘不能状態になったことを意味する『部隊全滅』という表記が。


「お前のレベルでもまだ勝てないのか……」

「いや、スキルが発動しなかった」

「何回目だよそれ。流石にきついぞ」


 志と千隼は、もう一度コントローラーを持ち、スクリーンへと向かう。

 二人がプレイしているゲームは、バトルロイヤルとRPGの要素を、両方取り入れた新しいシステムを導入したゲームである。基本、二人か三人でパーティーを組み、フィールドに入り、他のプレイヤーを倒していく。そのフィールドで、自分たち以外の全てのプレイヤーを倒すと、ボスが出現する。そのボスに勝つと、次のフィールドに進むことが出来るのだ。

 志と千隼は、そのボスにさっきからずっと苦戦しているのだ。


「千隼、回復持ってない? 落下ダメ食らった」

「ちょっと待っとけ。こっちにまだ他パーティーがいるんだよ」

「あ、やべっ死ぬ! そのスキルは防ぎようがないって……」


 スクリーンの向こう側で、志の操作していたキャラクターが倒れる。

 と、その時廊下の向こう側から、玄関のドアが開く音が聞こえてきた。

 玄関のドアには、鍵をかけていたはず。

 まさかと思った志は確認のため、玄関まで行ってみることにした。


「悪い。ちょっと廊下出てくる」


 志が廊下に出て、玄関に目をやると、そこには帰宅したつばめの姿があった。


「こ……恋鳥さん!?」

「友人が来ているのですか?」

「え……あ、そうですけど。それより、今日はなんでこんなに早いんですか……」


 いつもなら、つばめは午後六時過ぎくらいに帰宅する。だが、今日はまだ午後二時半。つばめが帰ってくるはずのない時間だ。


「先生が急に来られなくなって、用事がなくなったのです。そんなことより、誰が来ているのですか? 挨拶くらいはしたいのですが……」

「あ、いやあの…………」


 その時、廊下のドアが開き、リビングから千隼が顔を出した。


「志ー? 全滅したぞ」

「千隼!! ストッープ!!」


 志はドアのところまで走っていき、千隼を無理矢理リビングへと引き戻した。

 志としては、何が何でもつばめと千隼を会わせたくない。


「……なんだよ?」

「あぁもう……先始めてていいから、今からリビング出てくんなよ?」

「……まぁ、人ん家のことだし、何も言わないけどさ……」


 志は千隼に釘を差し、玄関に戻る。


「どうかしたのですか?」

「恋鳥さんごめん! 千隼が帰るまで、自室にいてくれない……でしょうか……?」

「え?」

「これは……深い理由があって……」

「…………分りました。今日は確か貴方が夕食を作る日でしたよね。それまで自室にいます」

「助かります…………」


 つばめをなんとか説得することに成功した志は、リビングへと戻る。

 そして、ゲームを再開したわけだが、ここで問題が発生する。

 珍しく千隼が初動死をして、復活するまでの時間ができてしまった。ちょうどその時、自室へと向かおうとつばめが二階にいたのだ。

 この家のリビングは、吹き抜けになっている。つまり、自室に向かっているつばめは、リビングからおもむろに見えてしまうのだ。

 そして、運の悪いことに千隼は部屋に入ろうとしていたつばめを目撃してしまった。


「あれ……?」

「どうした?」


 もちろん志は、スクリーンを見ながらゲームをプレイしていたため、つばめの存在に気づいていなかった。


「今、二階に誰かいなかったか……?」


 この一言に志は背筋が凍りついた。えなんでだ?

 志は振り向き、ようやく二階がリビングから丸見えだということに気がついた。


「…………あ……」


 志は小さくつぶやき、どう乗り切ろうかと思考を高速で巡らせていた。

 さっきみたいに妹だと言い張るか? 

 いや、妹はボブヘア。つばめはロングヘア。もうここで妹だという主張は通らなくなる。

 どうすればいい。どうすれば。

 だが、ここで下手に発言するのはバレる可能性を高めるだけだ。ここは千隼の様子を見よう。もしかしたら、興味を持っていないかもしれない。


「なぁ、志。あれ誰なんだ? 明らかにお前の妹じゃなかったぞ?」


 興味津々だった。

 しょうがない。この手は使いたくなかったけど。と、志は思いついていた最大の嘘を言った。


「あ、あぁ……あの人はこの家の管理者の人だよ。あぁやって何日か一回に点検をしに来てくれるんだよ……」

「へぇ……なら俺、挨拶とかしたほうがいいんじゃないか? お邪魔してるわけだし……」

「あ……いや、大丈夫だよ。そういうの気にしない人だし」


 なんとか乗り切ったみたいだ。


「いやそれにしても綺麗な髪色だったな……。白銀色に輝いているっていうかなんて言うか……。まるで恋鳥さんみたいだ」


 !?

 志は再び背筋が凍りつく。なんでこいつはこんなに勘が良いんだ。と思いつつも、ここは相槌を打っておくことにしておく。


「そうだな……」

「恋鳥さんってお前も知ってるだろ?」

「まぁそりゃ、学校の女神様とか呼ばれてる程だからな」

「神々の世界から降り立ったとか、人間を超えた美しさと可愛さとか言われてるし。それになっていったってあの恋鳥財閥のご令嬢。それに加えてあの天才っぷり。全男子が釘付けになるのも無理はねーよ」

「ま、高嶺の花過ぎて、誰もお近づきになろうとはしてないけどな……」

「もしかして、あれは恋鳥さんで、この家は恋鳥財閥のもので、お前が住まわせてもらってるだけとかな!」

「んなわけねーだろ……」


 なんとか否定しつつ、志の心臓は破裂しそうだった。何も知らないのに、ここまで的確に正解を突いてくるなんて。

 お前のほうが神なんじゃないのかと、志は心の中で突っ込み、冷静さをなんとか保っていた。


 ──それからは何事もなく、時間が過ぎていった。


「んじゃ、今日はありがとな」

「あぁ。俺もあのゲーム買ってみようかな……」

「おぉ買え買え! お前のゲームレベルをなんとかしてくれ」

「まぁ考えておくよ。じゃあな」

「おう」


 志は千隼を見送り、家の中へと戻ってくる。リビングの机を元に戻して、つばめ用の食器類を棚から出す。そして、キッチンへと向かい、材料を確認する。


「さて……今日の夕食を作りますか…………」




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