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2話  初めての夕食

「次は家事ですね。これは二人別々にやってしまうと、コスパが悪くなるので、分担制にしましょう」

「なるほど」

「日替わりで、掃除、洗濯、夕食を担当しましょう。ひとり暮らしをするのですから、貴方も料理くらいは出来るでしょう?」

「ま、まぁそれなりには」


 それなりには。

 そう、志は料理が全く作れないといったわけではない。作れ、と言われたら大体と料理は作れるし、味も中々だ。

 ただ、得意とする料理のバリエーションが少ない。


 その点、つばめは小さい頃から料理教室に通わせられ、普通の夕食のメニューだけでなく、洋菓子、和菓子、おせち料理なんかもお茶の子さいさいだ。


「……掃除の割り当ては一階だけにしましようか。この家は広いので、それだけで十分です」


 一階は、今二人がいるダイニング、開放感あふれる巨大リビング、打って変わって厳かな雰囲気漂う客間。そして、廊下に出ると吹き抜けになっていて、高い天井から吊るされている豪華なシャンデリアが見え、二階へと続く階段がある。階段を挟んで向こう側には、洗面室、脱衣所があり、その奥は浴場となっている。

 二階は、階段を上がると、左右に階段が分かれている。左手には、バルコニーに続くドアがある。右手には、通路が伸びていて、部屋がホテルのように横に五つ並んでいる。そして、突き当りにも部屋がある。


「洗濯に関しては、洗面室に洗濯機と乾燥機が完備されていますので、脱いだ服をそこに置いておけば後は問題ないかと」

「あの……」

「? どうかしましたか?」

「あ……いや、あの……洗濯は……お互いにその、色々と見られちゃマズいものがあるんじゃないかと……」


 他人に、しかも同い年の女子にこんなことを言うのはどうかと志は思ったが、それ以上に見るのも、見られるのも嫌なのだ。


「別に私は気にしませんけど?」

「いやだって……下着とか、そういうの……」

「……そこまで言うなら分かりました。洗濯は私が全部します」


 いや、そういうことじゃないんだが。と、志は否定したかったが、これ以上何を言っても無駄だと感じ「はい」と承認した。


「では、今はとりあえずこれくらいにしておきましょうか。後で何かあればまた話し合いましょう」

「はい……」


 そう言ってつばめは椅子から立ち上がる。


「今日の夕食は元々私が作ろうとして買ってきた材料がありますので、私が作ります。カレーで構いませんよね?」

「あ、あぁ……お願いします」

「その間に自室で荷ほどきでもしていてください。出来上がったら呼びますので」


 そう言い残してつばめは、キッチンへと入っていく。志も、持ってきたリュックサックを背負い直して廊下へと出る。

 広い玄関から始まり、城のように白く、広い階段。二階から顔を出す豪華なシャンデリア。その空間は志の知っている廊下ではなく、まさにホテルのエントランスホールといった感じだ。


「流石に広いな……」


 志は真っ白い階段を昇り始める。途中に踊り場があり、左右に階段が続いている。確か、部屋は右の方だったな。と志は右側に続いている階段を昇る。

 通路が奥まで伸びていて、部屋がずらりと横に並んでいる。部屋と逆の方は吹き抜けになっていて、リビングや、キッチンで作業しているつばめも見下ろせる。

 志は、つばめに言った通りに階段のすぐ側の部屋のドアに手をかける。


「……ここが……俺の、部屋……」


 畳六畳分くらいだろうか。下見に来たときも思ったけど、こんな広い部屋俺が使っていいんだろうか。そう思う半ば、志は希望だらけだった。

 昨日まで、志は『自分の部屋』を持ったことがなかった。志の家は広いと言えば広いのだが、部屋数が少ない。現に志は、家で一番大きい部屋を、家具で無理矢理二分割して妹と一緒に使っていたのだ。

 コンコン。その時真後ろのドアをノックする音が聞こえた。


「失礼します。ちょっと聞きたいことが……」


 エプロン姿のつばめが部屋に入ってくる。


「……何で突っ立てるのですか? 荷物も下ろさないで」

「いや、ちょっと……部屋広いなって」

「そうですか? 私はそこまでだと思いますけど」


 この部屋が広くないだと……? と、志は半ば怯えながら話を続ける。


「あ、えと……い、今までプライバシーのかけらもない部屋に押し込められてたん……ですよ? こ、こんな広い自室持てるなんてって、感激してたんです」

「はぁ……。それより、カレーの辛さの好みを聞きに来たんです」

「え? あ、えと……なんでも……いいです。あいやっやっぱ辛口で……」


 本当は中辛が一番口に合うのだが、それで舐められるのも癪に障ると感じた志は、辛口と言っておくことにした。

 

「辛口……ですか。分かりました」


 そう呟くように言うと、つばめは部屋から出ていった。


「さて……荷ほどきするか……」


 志はリュックサックをベッドの上に置いて、開ける。

 実は志は、父と下見に来ており、その時にベッドや机などの大きな家具は、すでに運び込んでおいたのだ。

 今日、志が持ってきたものは、小説、漫画などの本類。服、勉強用具、掃除器具くらいだ。

 本類を丁寧に本棚に入れていき、教科書たちを勉強机に並べ、服をタンスにしまう。正直やることはこれくらいなのだ。

 結局、部屋のレイアウトを考えるのに時間がかかり、三時間ほどで志の荷ほどきは落ち着いた。


「……そろそろかな」


 三十分ほど前から、カレーのいい匂いが漂ってきていて、志は空腹に耐えられなくなっていた。


「あれ? 荷ほどき終わったのですか」


 リビングに入ると、そこにはちょうどカレーを盛り付けた皿を、ダイニングテーブルに並べているつばめの姿があった。


「はい……そろそろかなと思って……」

「手間が省けて助かります。それではどうぞ」


 志はテーブルに目をやった。

 じゃがいも、にんじん、玉ねぎは新鮮なものを使い、ひとつひとつを大きく切ることで見た目のボリュームを上げている。牛肉も高級牛肉を惜しげもなく使い、おまけに何種類ものスパイスまで。ルゥは比較的サラサラで、白い光沢のあるご飯と絶妙なハーモニーを醸し出している。


「い、いただきます」


 志はつばめの正面に座り、カレーを口に運ぶ。

 しかし、、、


(辛っっっっら!!)


 えなにこれ、カレー?

 確かに志は辛口と言った。しかし、つばめは辛口の中の辛口、『超激辛』を使ったのだった。

 ふとつばめのカレーを見ると、『超甘口』。辛さレベルは脅威のゼロ。それに比べ志のカレーは辛さレベルMAXの八。


(くそっ……余計な見栄はるんじゃなかった……)


 つばめが作ってくれたので、あまりの辛さに耐えながらも完食した志であった。



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