巡合わせの神隠し 冬編
あの夏祭りの日、不思議な少女の誘いに乗ってこの田舎町の少女の家に居を移してから半年程、私は今の生活を満喫していた。
今だって雪化粧を施した景色を雪見障子越しに眺めながら、朝からこたつで少女とまったりと過ごしており、1年前には考えられない快適さである。
クソ上司からの鬼電はあの日以来何故かピタリと止み、目の下の隈は早々に消滅した。
「みかんの追加持ってくるね〜」
少女は私が来る前は一人暮らしで、大抵の事はできるようだ。
どう生計を立てているのかはよくわからないが、金銭に困った様子は無く、私にも結構な額のお小遣いをくれる。
いくら断っても押し付けてくるので、諦めて今は素直に受け取っている。
秋に差し掛かる頃、前に住んでいた部屋を引き払う為に一度戻りたい事を少女に伝えたら、何か勘違いしたのか、大泣きしながら引き止められた事もあったが、いろいろあってなんとか勘違いを正す事ができた。
その過程で、少女がどうやら外見通りの年齢では無い事がわかったが、些細な事だろう。
籠に山盛りにしたみかんを持って少女が戻ってきた。
「寒〜い。おねーさん入れて〜」
こたつに招き入れると、少女は私の足の間に陣取り、剥いたみかんを私の口に放り込み始めた。
なので私も剥いたみかんを少女の口に放り込む事にした。
少女を知る人達には畏れ、敬われているらしいが、私に寄りかかりみかんを頬張っている彼女のどこが怖いと言うのだろう。
なにやら不思議な能力もあるらしいが、少女以外の人も不思議な能力を使っている所を見ているので怖がる理由がわからない。
実年齢は私より年上かもしれないが、私からしてみれば年齢相応で好奇心旺盛で頼りになる少女でしかない。
「おねーさん、みかん食べた〜い」
少女から催促されて、つい止まっていたみかんを剥く手をまた動かし始めた。