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エピローグ: The reprise of first sesson

「さて、そろそろ時間ですけど……皆さん準備はいいですか?」


 薄暗い舞台袖を、ステージの光が微かに照らす。

 ライブ本番直前。俺は目の前にいる3人に意気込みは十分か確認する。そう、今日はある意味俺たちにとって記念すべき大舞台だ。

 何故って、それは勿論。


「えぇ。バッチリよ。それにしても感慨深いわね。まさかこのメンバーで――――、」

「ライブハウスで演奏することになるなんて、ですかいなパイセン。俺としちゃここまで来るのはこの4人であれば必然だったようにも思いますでんがな」

「確かにそうだけれど……、そんな事言っちゃうくらい嬉しいのよ。わかるでしょう? ね、『御門くん』?」


 そう、俺たちのバンド、Four leaf cloverで初めてのライブハウスでの演奏だからだ。

 先輩、すごく嬉しそうだな。俺の名前を呼ぶその声から、楽しみだって感情がはっきりと伝わってくる。

 そしてそれは、勿論俺だって同じ気持ちだ。


「えぇ。そうですね『静さん』。もちろん朝倉さん達と()ったときもすごくワクワクしましたけど……、今日はそれ以上ですし、ね」


 だから俺も、彼女の名前を呼んでそう答える。下の名前で呼び合うようになってから1ヶ月くらい経つけど、まだ恥ずかしさはぬぐえない。

 でも、彼女との仲がより深まったようでちょっと嬉しい。そうとも思えるから悪い気はしない。


「オーオーいー感じですなァお熱ですなァ相変わらずよぉ。まぁ今までの呼び方じゃ付き合うてる癖して違和感マシマシなんで別にいいですが、今はライブに熱を当てておくんなましリア充め」

「わかってるよそれくらい。言われなくても全力でやるから安心しなさいっての」

「おっ、そすか。ならよかったで」


 そう言うと飛猿は不敵に笑う。煽って俺のボルテージを上げようとしてくれたみたいだな。

 そういうとこ、君らしいよ。そう思って俺も同じような笑みを返した。


 「そうだ、高垣さん。大丈夫ですか? 変に緊張してないですか?」

「あ、えと、大丈夫、ですっ!! 勿論緊張もあります、けど……、私も皆さんと同じように、楽しみなんです。演奏するの。えへ、自信がついてきたって、ことなんでしょうか……?」


 そう言うと高垣さんは恥ずかしそうにしつつも、少し自信に満ちたような笑顔と共にぐっ、と拳を握る。

 ふふ、変わったなぁ高垣さんも。初めて会ったときと。

 どうやら俺の心配は要らぬものだったのかもしれないな。そう思って安堵する。


「ふふ、きっとそうだと思いますよ? さて、皆の頼もしい言葉も聞けたところでそろそろステージ、上がりますか。最初の曲は確か――――」


 そう、この舞台で最初に演奏する曲、それは。

 俺にとっても、先輩にとっても。思い出深い曲。

 このバンドが生まれたきっかけにもなった曲だ……と思う。


「Invisible touch、ね。この大舞台で一番最初に演奏する曲がこれっていうのも、どこか感慨深いわね」

「えぇ、ホントに」


 そう、あの日、先輩と初めて出会った時。一緒にセッションした曲だ。このことを2人に話したら、「最初の曲にもってこよう」と言ってくれたっけ。

 その言葉を聞いた時、ちょっと嬉しくなった。それだけ、この曲はバンドにおいても重要な曲になったということだから。


「バンド結成のきっかけとなった曲っすからな。ここでやらぬは野暮ってもんですわ。さーて一丁気合入れて行きますでー」

「そう、ですねっ。カマして、行きますっ……!」

「お、いいっすなぁ高垣氏。その調子でガンガン強気に行きなはれ」

「あ、ぅ。そう言われると恥ずかしくなってきますっ……!」


 2人はそんなやり取りをしながら、ステージ上へと上がった。頼もしいようで何よりだ。

 そのあとを追うようにして、俺も先輩と共にステージへと上がる。


『さぁ続いてのバンドはライブ初参戦、だが演奏技術は折り紙つき! クールな『洋楽』で会場をアツくノせてくれ! バンド名はFour leaf clover! どうぞ!』


 そんな、MCの声とともに会場から歓声が上がる。

 すごい、やっぱりすごい熱量だ。

 改めてこの熱を身体で感じて震えてくる。自分の中の感情もいい感じに高まってくる……!


「さぁ、みんな行くわよ……。平手くん。お願いね」

「OKっす。んじゃ行きますね」

 

 飛猿はそう言うと、ドラムを叩き始める。

 軽快で、周りを乗せるようなドラムだ。観客も手拍子で応じてくれる。暫く、そんなドラムだけが鳴り響いて――――。


 フィルインと共に、3人の音を加え、大きく弾けさせた。

 その瞬間、歓声が一層大きくなったのがわかる。

 そしてその瞬間、頭の中でカチッ、と音がしたような気がした。

 

 あ、これ、アレだ。

 あの時と、似た感じだ。他人と音を合わせた時の言い知れぬ快感ってやつ。


 でも、あの時とは違う。全然違うんだ。

 

 聴いてくれる観客とか、好きな曲を大舞台で演奏できてるっていう高揚感とか。あぁもう上げればキリがないんだけどさ。


 でも、何より違うのは。

 これを、4人で演奏できてる事だ。

 このメンバーで、この場所で、この曲を演奏できてることが、何より嬉しい。


 初めて先輩とセッションした時のreprise(繰り返し)のよう。

 でも、全く違う新しい感じ。どこか前に進んだような、新しい世界が見れたような。

 それを感じられるのがたまらなく嬉しい。ヤバいまた序盤なのに泣きそうだ……!


 イントロが終わり、先輩が歌い始める。

 スタジオ盤とは違うキーで、先輩らしい澄んだような、綺麗な声を聴かせる。Genesisのライブバージョンを意識した、ちょっと哀愁がかった感じだ。


 でも、そんな歌声もたまらなく素敵だった。

 思わず、目を細めてしまうくらいには。


 だから、俺も負けてられない。中間奏部分のキーボードソロの部分を素早く、鮮やかに鳴り響かせていく。

 多分スタジオ盤よりライブバージョンの方が、この部分は難しい、けど。


 今日は今までで1番、綺麗に鳴り響かせられた。気がした。

 飛猿の華麗なドラムも、高垣さんのどこか心地よいベースもそう。みんな、今までで1番の音を鳴らせてる。そんな気がする。

 

 ――――あぁ、やっぱり最高だ。

 こうして大好きな『洋楽』を、素敵な仲間たちと共に奏でられて。


 そして、大好きな静さんと、こうして音を合わせられてる。

 何度だって思うけど、それって最高だ。


 演奏が終わって、朗らかな笑顔をこちらに向ける静さんを見て、爽やかな気持ちと共にそう思った。


「さぁ、これからも楽しんでいきましょう。御門くん」

「ええ、そうですね。静さん」


 きっと、この後も、この人となら、この人たちとなら。

 これから先もいい音を奏でていける。そう強く感じた。

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