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音楽が、洋楽が繋いだ「絆」

stop loving you

「いやぁ文化祭も大盛況に終わって何よりっすなぁニョーッホッホッホッホッホ」

「……まぁ、そうだね。ホントにそう思うよ。少なくともバンドの方は本当に」


 結局あれからしばらく経って、文化祭は大盛況のもと幕を下ろした。バンドでの演奏も、他のクラスの出し物も楽しめたからすごく満足した訳だけども。

 それとは別として、ちょっとした不満も当然ある訳で。

 まぁその原因は主にこの不可思議な笑い声をあげている飛猿(こいつ)にあるんだけどさ。


「いやぁ俺としちゃクラスの出し物が予想を上回るレベルの盛り上がりっぷりで何よりやで。いやぁ台本の犠牲……じゃなかったネタになってくれたM.Oトナシ君には感謝しても――――」

「それホントに納得いってないんだよなぁ……。なんでだ……」


 伏字の意味ねぇとか、今犠牲って言ってなかったかとかツッコミたいところは山盛りなんだけど、全部につっかかれるほど俺は器用じゃない。呆れたような目線を向けつつため息をつくのが精一杯だ。


 そう、俺たちのクラスの出し物は劇だったんだけど、どうやら脚本のウケが非常に良かったみたいでその後の閉会式にて最優秀演劇賞なるものを受賞した。

 ……まぁそれはいいんだ。本当にいいんだけどその劇の内容が問題なわけで。


『聖夜の決戦〜リア充撃滅委員会最前線〜』という名前がつけられたタイトルのその劇は、どー考えても俺に対して茶々を入れてるような内容だったわけで。


 脚本を考えたのは当然飛猿だ。日常で虐げられてきた少年たちが突如現れた脅威に立ち向かうっていう話なわけだけど……、ラスボスの名前が「ノーサウンド」だぞ。和訳すると音無ってか。なんか上手いように言うのやめてくれよ。


「いやぁ非リアへの応援歌みたいな立ち位置やしあの作品。そのテーマ性を確立させるためには俺の知るリア充の代表格である君を贄として」

「まーたそういう事言ってさ。こういう時だけイキイキするなっての。ったく、妙に感動的だったのも釈然としないなぁ……」


 そう、ムカつくんだ、ムカつくんだけど、作中通して無駄に脚本のクオリティが高く、またラストも感動的だったもんだから賞を貰うのも納得……とも思えてしまうわけで。

 故にこうして1人やりきれない思いを抱えている。クラスのみんなが飛んで喜んでたくらいだから余計に。

 因みに飛猿は真横でにょほにょほ笑っている。相変わらずだな君。


「……でもまぁ、そんな劇の中にも俺への激励というか、応援みたいなのがあったこともわかってるよ。そこは、素直に感謝、かな?」

「お、わかった? いやさすが親友、やね」

「まぁね……。もう、そこもどこか釈然としないポイントなんだよなぁ」


 そう、その劇の中にもがモデルになったラスボスの事をネタにするだけじゃない、フォローを入れる展開も随所にあった訳で。

 全く、そこがこいつの憎めない所なんだけど。ふざけつつもどこか真面目なところがあるってところがさ。


「というかここまで来るとクラス全体で結託したような何かを感じさせるけど……さすがに気のせい、だよね?」

「さぁそいつはどうなんでしょうなぁ……っと、そんな話をしてる間に先輩達来たみたいやで」


 俺のそんな質問は軽くはぐらかされたけど、多分当たってるんだろうな。クラスのみんな、妙に熱が入ってたし。そんな気がする。

 まぁ、今はその事はどうでもいいのかもしれない。

 そう思って後ろのドアから入ってきた先輩と高垣さんと……、朝倉さん達に目を向ける。


「あら、音無君に平手君。もう来てたのね。お疲れ様」

「えぇ、帰りのHRが割と早く終わったので。先輩達も高垣さんも、お疲れ様です」

「お、ありがと音無くんっ。それと君のクラスの劇、最優秀賞だっけ。おめでとうだね!」

「まぁそれは飛猿に言ってやってください。脚本考えたのこいつなんで」


「マジで!? すごー!!」なんて言って驚く朝倉さんに「せやで、崇めろ」なんて言葉で飛猿は応じる。ドヤ顔で言うあたりムカつくなぁと思うけど、らしいな、と思うのも事実だ。

 そんな微笑ましいような憎たらしいような、不思議な感情で二人を見ていると、高垣さんがトコトコと俺に歩み寄ってきた。


「あ、音無くん。お疲れ様、ですっ。演奏も文化祭も、無事に終わって何より、ですね」

「お、高垣さん。ふふ、そうですね。最高の形で終われた気がしてなによりですよ。みんなとの演奏なんて特に、一生モノの記憶として残りそうなくらい――――」

「そう、そうなんですっ! 特に特にっ、I've got a feeling弾いてみんなが盛り上がってくれた時、なんてっ……! もう、わぁぁって感じでっ――――!」

「そうですよね。俺なんて泣きそうになりましたもん。俺は特にwhole lotta loveの最初の部分弾いた時のみんなの反応が……」

「あ、うわ、わかりますわかりますっ!! あぁもう、語り尽くせない、なぁ……!!」


 上手く言葉にできないんだろうけどとにかく最高に「エモかった」のだろう。

 あまりこう言った言葉で一言にしてしまうのは好きではないけど、高垣さんの気持ちを表すのならきっとそんなところなのかもな。


 そして、それは多分俺も全く同じ気持ちな訳で。

 そんな彼女を見て、少し微笑ましくなった。


「ふふ、可愛らしいわね貴方たち。ほっこりさせてくれるじゃないの」

「あ、先輩……。そういう先輩こそ、ライブ中だいぶテンション高まってる感じありましたよね。それこそ見てて「可愛い」なんて思いましたけど?」

「……ライブの時も思ったけど、随分生意気になったわね、貴方。いい笑顔で言ってくれるじゃない?」

「いやそりゃあんな姿見せられたらそう思うのも当然……って何するんですか痛いですよっ!?」


 俺としては思ったことを素直に、爽やかに伝えたつもりなんだけど、何故か、先輩は困ったような笑顔を浮かべて俺のおでこに拳をぐりぐりと食い込ませる。

 理不尽だ。あれですか。顔ちょっと紅いですよね。照れ隠しですか本当にもう。


「煩い。ちょっとドキッとしちゃったのが悔しいのよ。今の笑顔、本っ当に反則。本当は私が、貴方を、揺さぶってあげたい……のっ。わかる?」

「わ、分からないですけど……、今の表情で十分俺の心は揺さぶられてますよ。赤面した先輩、フツーに可愛いし……」


 事実だ。困ったように、戸惑ったように顔を赤らめて俺を見る姿はすごく可憐だ。

 そんな俺の言葉を聞いてか、先輩は更に驚いたような、そして呆れたような顔をして俯く。


「……もう、貴方って人は本っ当に――――。でも、そんな素直なところが、私は好きよ。思わず小っ恥ずかしくなっちゃうくらい、ね」


 そして困った表情そのままに、ニコッと笑う。

 そう言われて今更、自分が言ったことが恥ずかしく思えてきた。下手うちゃ口説いてるみたいだったじゃんか。これ。


「……あら、今更恥ずかしくなったのかしら? そういう所も『可愛い』わよ?」

「ん、もう。隙あらばペースを握ろうとしないでくださいよ」


 故に、ちょっとばつが悪そうな顔になったらしい。そんな顔を先輩に見られて、面白そうに突っ込まれる。

 なんかいつもと違うやり取りだ。なんでこんなことになってるんだろうと思うけど、きっと俺も先輩も、あの演奏を通して1歩先に進んだからか、なんて思う。

 そう思うとどこか悪い気はしなかった。


 んで高垣さん。貴女すっごくホクホクした顔で見てますね。飛猿の言う通り太い性格というかなんというかそんな感じがしますよ。


「いやぁいいっすねぇ。夕暮れ時後者の片隅で公然と甘酸っぱい雰囲気出しおってからにリア充め。不肖この平手飛猿暴れていいっすか」

「止めてくれ。それでこの前先生に怒られたの忘れたんか。急に惚気けたのは謝るけどさ」

「ウッキーウキウキ、キッキー」

「ダメだ聞いてねぇ……。踊りだしやがったよ」


 そしていつから聞いてたのやら、飛猿がダル絡みしてくる。ホント君は相変わらずだよな。

 だけど、さ。君も最近は俺の事とやかく言えないんじゃないかな、とは思う。


「あのさ、平手くん。そんなに彼女が欲しいなら……、アタシがなってやってもいいけど? アタシも今フリーだしさ」

「慰めですか? いらんですよ。俺は誇り高きストレンジャーやで」

「あーそ……。慰めって訳じゃないんだけどなぁ」

「ふふ、平手くんもある意味鈍感、なんだねぇ」


 七音さんが最後の方に呟いた言葉は飛猿には聞こえてなかったみたいだけど、俺にはかろうじて聞こえてきた。

 君にも「春」、来てんじゃんか。そう思ってひとつため息をつく。

 あと秋津さんがボソッと言った言葉には俺も同意だ。俺が言えたタマじゃないけど彼も大概な気がするぞ。


「まぁ一先ず茶番はこれくらいにして、そろそろ行きましょうや。これから打ち上げやろ?」

「ん、そうだね。駅前のカラオケ屋でって話だけど……今から7人って入れるかな」

「問題ないわ。予約してあるしね。でも時間が差し迫ってるから急いだ方がいいかもしれないけれど」

「さっすが静ちゃん有能っ! よし、早く行こ! ライブじゃ歌えなかった曲もいっぱい歌ってやるんだ!」


 そう、各々言いながら、教室を出た。

 思えば、「音楽」が、「洋楽」が、この絆を作ってくれた。

「好きなもの」からこんなかけがえのないものを与えてもらえるなんて、俺は。


 非常にに幸せ者かもしれない。そう穏やかに思った。


 ◇◆◇


 因みにその後の道中で、秋津さんとこんな事を話した。

 

「そういえばですけど、七音さんっていつから飛猿のことを……?」

「うーん。明確に意識したのはドラム教えてもらった時って言ってたよ。普段ふざけるくせしてドラム叩く時のストイックな表情にドキッと――――」

「香澄。それ以上はやめて。恥ずいわ」

「んぐんぐ、むぐー」

「あっはは。七音さんも秋津さんも面白いなぁ」


 二人のやりとりがどこかおかしくて、笑った。

 もちろんこの話は、飛猿が先輩や高垣さんと話をしてる隙にしたものだ。

飛猿には当然聞かれてない……と、思う。

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