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本番までの幕間劇②

「えーっと、この場合飛車を捨ててでも金と銀を取った方が得で……って、ここまでわかりますか? 朝倉さん」

「うー、むむ……。うん。飛車が取られちゃうなぁとしか思えないや」

「……教えんのって難しいですね」


 さて、俺たちの出し物を見にやってきた朝倉さん達。せっかくだし一緒に将棋指しますか……ってことになったんだけど。

 見ての通り朝倉さん、駒の損得(この駒よりもこの駒の方が優先度が高い的なもの)についてちゃんとわかってなかったみたいで。教えんのにだいぶ苦戦してます。


 まぁ朝倉さん、駒の動かし方を多少わかってる程度みたいだし、こういう話してもわかんないのは仕方ないかもしれない。必死に理解しようとしてくれてるだけ、なんか有難いな。


「いやーお手上げだよ。色々深いとこまで考えてるんだね。それができてる君達はすごいや……」

「そんな事もないですよ。ちょっと勉強すれば朝倉さんにだってできるようになると思いますよ? 俺ができたんだし」

「うぅ。そんな事ないよっ。私昔から頭使うのはどうも苦手でさ。そういうので良い成績とれた試しがないんだよぅ」


 まぁ、彼女の言うことはなんとなくわかる、気がする。朝倉さんってどちらかと言うと理詰めでどうこうする、というより直感を信じて突き進むイメージがあるから。

 頭を使うのは苦手。でも優れた直感力で周りを巻き込んで引っ張っていく。俺にとってそれは、むしろ長所に映るけどな。


「まぁ確かに将棋は頭使いますけど、これだっ、て直感力もすごく大事ですよ? バンドの音を聞いてる限り、朝倉さんはそこら辺すごく優れてそうですけど」

「お、やっぱり君もそう思う? えへへ、よく言われるんだよ。ほら音楽ってさ、感性がモノをいうじゃん? 綺麗な音やコードを探す上でさ。そこでそういった力が鍛えられたと思うんだ。私の性分にもあってるしねっ」


 なんかわかるな。俺も人に比べたらそういった感性は尖ってる自信はある……、けど、そういったものは音楽や作曲で養われたものだと思うし。

 それが巡り巡って将棋の直感力にも活かされてる気がするのは、流石に気のせいだろうか。


「まぁだから朝倉さんに向いてない、とは思いませんよ? まぁある程度定跡は覚える必要ありますけど……、それはギターコードとかも一緒でしょうし」

「うー。確かにそうなんだけど……。複雑そうなんだよなぁ。あそこで平手くんとすんなりやれてる静ちゃんが羨ましいよ」

「……あぁ、そういや最近独学で学び始めたって言ってたな先輩」


 俺の視界の先には、飛猿と一緒に将棋を指している先輩が映る。むぅ、と少し悩むように考える先輩に少し見惚れた。

 ……なんだろう。今、飛猿のやつがすごく――――、


「ふふっ、羨ましそうにしてるね、音無くん? そういえば静ちゃんに告ったんだっけ。ウブで可愛いなぁ」

「……揶揄わないでくださいよ、もう」


 羨ましいと思ったその時。

 そんな感情を朝倉さんにどうやら気取られてしまったようで、彼女は心底楽しそうにこちらを見る。この手の話題好きなのかな。朝倉さん。


「ふふっ、ごめんごめん。だって今まで男の人に全く興味なかった静ちゃんがすごく惚れ込んでるんだもん。私としては取られちゃったみたいで妬けちゃうからさー?」

「……確かにそれもあるとは思いますけど、どう見ても朝倉さん、この手の話題好物にしてますよね。めっちゃ目ぇ爛々とさせてるじゃないですか」

「あははっ、まぁねー。でもこの手の話が好きなのは私だけじゃないと思うな。ね、美優ちゃん?」

「なんでそこで私に振るのさ。でも、そうだね。好きってほどじゃないけど気になるよ。色恋沙汰の気配が一切なかった静だしね。香澄も気にしてたくらいよ?」


 で、さっきから横で黙って俺たちの様子を伺ってた七音さんも会話に加わる。まぁ朝倉さんが巻き込んだ感じだけど。

 でも、意外だな。先輩も女子高生なわけだし、俺以前に好きだった人の1人はいると思ってたけど。


「……ってことはもしかして、初恋とかも聞いたことない感じですか?」

「ま、そうだね。私、静とは幼なじみなんだけどさ、小中の頃もあんまり男に興味示してなかったよ? それよりもずっと音楽とか、趣味のことにお熱って感じだったし」

「そう、だったんですね……」


 そう言われると、それは確かに先輩らしいとも思える気がする。なんか、先輩はずっと先輩だったんだなって思えて、少し微笑ましくなった。


「まぁ、まさかそれが君らがやってるような『洋楽』だったなんて思いもしなかったけど……、でも、だからこそ静は君を好きになったのかなって思うよ」

「そうそうっ。美優ちゃんや私にも隠してたことを曝け出せる間柄なんだからねー。あーあ。羨ましいよっ」

「ホント。幼馴染として嫉妬するよ、君にはさ……。だから、ま、静のことよろしく頼むよ」

「あはは。それはこちらこそ、なんですけどね。多分俺だって彼女と同じようなものですし……」


 彼女達の言葉に少し照れ臭くなったからちょっと苦笑いしてそう返す。

 あ、惚けた。可愛い。なんて彼女達は言う。普段だったら文句の一つは言いたくなるけど、今はいいや。純粋に祝福してくれてる気持ちを、受け止めるべきだろう。


 そうこうしてるうちに一通り指し終わったのか、先輩と飛猿がこちらに向かってきた。


「……んもぅ、みんなして何話してるのよ。聞いてるこっちが恥ずかしくなってくるじゃない」

「うぉ、先輩……。仕方ないじゃないですか。こっちだって照れくさかったんですよ?」

「別に貴方はいいのだけれど……、芽衣子も美優も、あんまり根掘り葉掘り聞かないで頂戴。恥ずかしいわ」


 先輩はそう言いながら俺の後ろに周り、座ってる俺を自分の方に抱き寄せる。いやそっちの方が恥ずかしいんでやめてください。

 んで朝倉さんは楽しそうな声で「はいはい、分かりましたよー」なんて言ってるし。悪びれてませんね貴女。七音さんはなんか苦笑いしてるけど。


「……良いっすね青春っすね嫌味かチクショウメ。いや御門氏には爆ぜていただきたい事この上ないですが、この後のパイセン達のライブの時間がそろそろ目前なんでまずはそっち行きません?」

「……あ、もうそんな時間だっ! 11時に香澄ちゃんとステージ前で落ち合う約束してたよね? 急がないとっ!」


 気づけば時計の針はもう11時手前を指していた。

 たしか先輩達の出番は俺たちより少し前の11時半頃だったはず。確かにこの時間だと、少し急いだ方が良いかもしれないな。


「そっすね急いだ方がいいっすねぇ。で、あと一応大親友のよしみで忠告しとくけど、君も一旦はここから出といた方がええかもしれんで。御門氏よ」

「なんかさっきから口調が淡白だけどそれどういう意味……って」


 飛猿の言葉と、どこか平坦な口調に疑問を覚えながらドアの方を見る。


 そこで、俺は察したよ。

 貼り付けた無機質な笑みを浮かべる部員達を見て、俺は察したよ。


『えー、音無御門氏に告ぐ。将棋部不問律条第25条、『リア充この場にとどまるべからず』に則り3分以内にここから立ち退きなさい。さもなくば今後1週間、私との100番勝負の刑に処すものとする』

「部長はん。これもうやっちゃって良いすか。俺もうやっちゃって良いすか」

『3分間待ってやれ。その後は煮るなり焼くなり好きにしてかまわん。この場にリア充オーラを振り撒くあいつは敵だ。ミンチにしてやれ』

「Yes Sir」


 ……まぁ、男しかいない部活だもの。そんなところでこんなことしてちゃそりゃこうなりますよ。あと部長。貴方と100番勝負はやめてください。俺が死んでしまいます。

 あとその拡声器どっから持ってきたんですか。

 まぁ、一応とっとと出ていくとして、一つ気になることがある。


「はい。一つ異議申し立てる。そしたらさっきそこで先輩と将棋指してた飛猿は……」

『平手氏は我が「リア充撃滅委員会」の会長であるが故に忖度の余地ありとする』

「忖度って言いやがったよこの人……。良いんかそれで」

『つべこべ抜かすなこの戯けぇ!! 早よ出てけそして目一杯演奏してこいこの阿呆がぁ! このあと演奏だろうお前らもっ!!』

「応援してんのか貶してんのかどっちなんですか貴方はぁ!! とりあえず行ってきます!」

『いってらっしゃいませぇ!!』

「うるせぇ! 拡声器で叫ぶなぁ!!」


 ……なんだかんだ言ってくるけど、多分応援してくれてるのだろう。やり方が癖あるけど、これが我が部活だ。仕方ない。


 貶してるように見えて、実は応援してる。そんな天邪鬼共の集いなのだ。ここは。頑張ってやりますよ全くもう。

 そう心の中で叫びつつ、やいのやいのと騒ぐ部長達を尻目に教室を出て、体育館にある特設ステージへと向かった。


◆◇◆

 

 あと、この将棋部のノリが朝倉さんや先輩達にとっては意外と好印象だったらしく。

 この人達もこの人達でだいぶ変わってるよな、と飛猿と一緒にそう思ったのは、別の話だ。


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