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不真面目シスターシリーズ

不真面目シスター、続・森の賢者に会いに行く の巻

作者: おかやす

前回の、あ・ら・す・じ♪


 森の賢者に会うために神域の森に来たら、キノコのような家の前で、世紀末覇者みたいな大男に出会いました。

 アームレスリングを挑まれたので、わが奥義で返り討ちにしてやりました。


 いえい(^_^)v

 神域の森の中にある、キノコのような家の前。

 私ことシスター・ハヅキと、家の中から出て来た美ショタくんが見守る中、二人の大男が固い握手を交わしました。


 「さらばだ、強敵(とも)よ」

 「うむ、また戦おう」


 悪霊にして私の従者、アーノルド卿に見送られ、世紀末覇者みたいな大男は、巨大な馬の手綱を引いて夜の森へと消えていきました。


 あのお方、山向こうの村に住む木こりさんでした。

 道に迷って、助けを求めてキノコの家の扉を叩いたものの返事がなく、仕方なく野宿していたとのこと。

 そこへ、アーノルド卿を連れた私がやってきて、一目で強敵とわかったので挑まずにはいられなかったそうです。


 迷惑な。


 「で、君は何なの?」


 木こりさんが立ち去ると、パジャマ姿の美ショタくんが、うさん臭そうな目で尋ねてきました。


 神域の森にある、キノコの家から出てきた、十歳かそこらの男の子。

 ソチラの趣味のお姉さま方がいたら、ハァハァ言いながらよだれを拭きそうな、ハイレベルな美ショタくんです。

 それにしても目の下、すごいクマですね。

 寝不足ですか?


 「ええと、お休みのところすいません」

 「ほんとにね。クッソ迷惑だよ」


 うわー、めっちゃ不機嫌。寝不足の人って、たいていイライラしてますよね。


 「その……私、このたび、大聖女様の側仕えをやることになった、シスターのハヅキと申しまして……」

 「うそつけ」


 自己紹介の途中で、バッサリ切られました。

 美ショタくんが、アーノルド卿を見てジト目になります。


 「悪霊を連れたシスターなんて聞いたことないよ。お前、偽物シスターだろ」


 偽物、て……いやはや。

 不真面目シスターと呼ばれたことは多々あれど、偽物シスターと呼ばれたのは初めてですね。

 ちょっと新鮮♪

 いや、そうじゃなくて。


 「ほ、本当にシスターですよぉ」

 「なら、守護の言葉、言ってみろ」

 「……」


 シスターになるときに、聖典の一節を「守護の言葉」として決められます。その言葉を胸に刻み、生きていくのがシスターです。

 言えないわけがないんですよね、普通なら。

 でも私ってほら、色々と規格外だから♪

 ……うう、ちゃんと覚えておけばよかったぁ。


 「ほらみろ、偽物じゃないか。大方、食うに困ってシスター(かた)ってるんだろ」


 美ショタくん、容赦ありません。

 食うに困ってシスターになったのは確かですけど……騙ってません、てばぁ。


 「しかも、大聖女の側仕え? はん、大きく出たなあ。嘘をつくなら、もうちょっと信憑性のあるやつにしろよ。教堂のトップが、悪霊憑きのシスターを側仕えになんかするかよ」


 まったく同感です。うちの大聖女様(ビッグボス)、何考えてるんでしょうね。ちょっとお説教してもらえません?


 「……ったく、ビビらせやがって。こっちは大仕事控えて寝てたんだからな。本物だったら八つ裂きにしてやるところだぞ」


 美ショタくん、ますます不機嫌になりながら、大あくびをしました。


 ひょっとして、お仕事が忙しくて寝不足でしょうか?

 いやわかります、気持ちよく寝てたところを叩き起こされたら、腹立って仕方ありませんよね。寝不足と言うのならなおさらです。

 でも八つ裂きはやりすぎだと思いますよ? バックドロップぐらいにしときません?


 「食い物が欲しいんだったら恵んでやる。だからさっさと帰れ」

 「いや、ですから……私、本当にシスターですってばぁ」

 「じゃ、なんで悪霊憑いてんだよ」

 「え、ええと……それには、ちょっとした事情がありまして……」

 「酒に酔って、うっかり契約しちゃったとか?」

 「え、なんでわかるんですか!?」

 「……冗談だったんだけど。え、マジ? お前、バカじゃないの?」


 美ショタくんが、さげすんだ目で見てきます。

 これまた、アチラの趣味の方ならゾクゾクしちゃいそうなシチュエーションですね。

 でも私はソチラ(ショタ)でもアチラ(マゾ)でもないので、気分悪いだけです。

 なんか腹立ってきたなー、なんでこんなに偉そうなんだ、このクソガキ。


 「……お前今、僕のことクソガキ、て思っただろ?」

 「すごいっ、なんでわかるんですか!?」

 「少しは取り繕えよ! 思いっきり顔に出てたんだよ!」

 「それはすいません! そうだ、よかったら一発殴らせてください!」

 「殴らせるか! よかったら、てなんだよ! てめえ、ほんとにシスターか!?」

 「シスターだから、正直に答えてるんです!」

 「ああもう、むかつくガキだな!」

 「あなたの方がガキじゃないですか、このショタっ子!」

 「誰がショタっ子だ! 貴様、この僕を誰だと思ってる!」

 「そういえば存じませんでした! はりきって自己紹介をどうぞ!」

 「いいだろう、聞いて驚くがいい!」


 美ショタくんが、ドヤ顔で胸を張ります。


 「魔界を統べる王の側近が一人、ユッケルだ!」

 「…………は?」


 森の賢者様……じゃないんですか?


 「あ……!」


 美ショタくんが、慌てて口を押さえました。


 「…………」

 「…………」


 気まずい沈黙が流れます。


 やっべー、言っちまったよ、なんて顔の美ショタくんと。

 やっべー、聞いちゃったよ、て気分の私。


 魔界を統べる王って……魔王、てことですよね?

 その側近って……高位の魔族ってことですよね?


 ほんとにいたんだなー、初めて見た。

 いや、そうじゃなくて。

 どうしよう? 聞かなかったことに……できませんかね?


 「……クッ……クククククッ……」


 おや?

 美ショタくんが何やら急に邪悪な雰囲気に。その頬に汗が流れているのは、気のせいでしょうか?


 「さすがは大聖女の側仕え……見事にダマされたよ」


 いやいや。

 いやいやいや。

 信じてませんでしたよね? そもそも私、何も嘘ついてませんよ? まごうことなき自爆ですよね? 寝不足で判断力落ちてましたね?


 「だが、飛んで火に入る夏の虫とは、お前のことだ!」


 え、何一人で盛り上がってるんですか? ついていけないんですけど。


 「はぁーっ!」


 いきなり気合を入れた美ショタくん。全身から禍々しい何かがあふれ出し、周囲に満ちていきます。

 なにこの急展開。なんかやばそうです。


 『ハヅキ様!』


 アーノルド卿が、すぐさま私をかばうように前に出てくれます。


 『こやつの力……尋常ではない! ここはワシに任せて、逃げるんじゃ!』

 「はい、そうさせていただきます!」


 私が即答すると、アーノルド卿が何やら複雑な顔に。

 はて、素直に従っただけなのに、何かいけませんでしたかね?


 「バカが! 逃がすわけないだろう!」

 「ふぎゃっ!」


 駆け出そうとした瞬間、私の体が見えない何かで縛り付けられました。

 な、なんですかこれ! 全然動けません! 緊縛プレイに興味はないんですけど!


 『ハヅキ様! おのれ!』

 「そっちの悪霊も、黙ってろ」

 『ぬうっ!』


 美ショタくんに飛びかかったアーノルド卿ですが、空中で動きを止めてしまいました。

 うそ、アーノルド卿がこんなにあっさり!?


 「やれやれ、ここまで順調にきたというのに……さすがは大聖女だな」


 クククッと笑いながら私に近づいてきた美ショタくん。


 「隠蔽していたつもりだが……わずかな森の異変に感づいて、偵察をよこしたか」


 いえ、うちの大聖女様(ビッグボス)、何も気づいてないと思いますよ?


 「しかもこんなふざけたシスターとはな。まんまとしてやられたよ」


 ふざけたシスターって……これでも私、絶賛更生中なんですけど。あと、私は何もしてませんからね、そっちが自爆しただけですからね。そこんとこ、明確にしておきますよ!


 「こうなったら仕方ない。本当は明日の夜の予定だったが……今から儀式を始めようか」

 「ぎ……ぎし、き?」

 「ほう、口が聞けるか。さすがは大聖女の側仕えだな」


 あ、やっと信じてくれた。嬉しくない状況だけど。


 「そうさ、王国を滅ぼし、それを贄としてわが魔王様を復活させる儀式さ!」


 くいっ、と美ショタくんが指を曲げました。

 すると、です。


 「お、おおっ!?」


 私とアーノルド卿の体が浮き、ぐんぐんと空に登って行きます。

 わ、わわわっ、なんですか、どうなってるんですか!

 キノコの家の屋根より高く、森の木々よりさらに高くなんて!


 わーい、高ーい♪ たーのしーい♪


 「クククッ、私を見事にダマしたほうびに、お前には一夜にして王国が滅びる姿を見せてやろう!」


 腕を組んでキメ顔で浮かんで来た美ショタくんが、私に向かって嘲笑を浮かべます。

 ですから、私はダマしてません、てば。

 あ、後で魔王への言い訳にする気ですね。ずるい!


 「練りに練った僕の計画に隙はないぞ。見るがいい、まずは数万の死霊による攻撃だ!」


 美ショタくんが「はぁーっ!」と気合いを入れると、エネルギーの塊みたいなものが飛んでいきました。

 向かう先は、どうやら王都の北西。おや、そこって確か……。


 「気づいたか? そうとも、無縁墓地だ!」


 あー、やっぱり。

 MJさん……いえ、MJ()をリーダーとする死霊さんたちの、超絶クオリティのダンスと歌に朝まで酔いしれた、あの墓地ですね。

 あれは本当に素敵な夜でした。ちょっぴり死んじゃいそうになりましたけれど、あのパフォーマンスをタダで見られたなんて、我が人生最高の一夜でした。


 「クックックッ。無縁墓地でさまよう死霊たちに命じ、王都を襲わせるのだ。数万という数の上に、私の力で強化されているからな、大聖女といえど苦戦するだろうな!」


 ……はあ。

 ええと、どうしましょう……そこ、もう死霊いないですよ、て……教えてあげるべきでしょうか?

 でも、気分よさそうにしてるしなー、水差しちゃ悪いかなぁ。


 「そして、第二弾!」


 美ショタくんがまた「はぁーっ!」と気合いを入れました。

 今度はエネルギーの塊が、王都の西地区あたりに飛んでいきます。


 「王都西地区にある、元貴族の屋敷だ!」


 え、西地区にある、元貴族の屋敷?

 それって私とアーノルド卿が運命の出会いをした、あの廃墟ですかね?


 「そこには強力な悪霊がいてな。そいつを我が配下とし、大聖堂を襲わせるのだ! 死霊たちと戦うために人が出払っているところに、強力な悪霊が襲って来るのだ、さぞや混乱するだろうなぁ!」


 実に愉快そうに笑う美ショタくん。

 そんな美ショタくんを見て……私とアーノルド卿は目を合わせます。

 ええと……その悪霊、たぶんアーノルド卿ですよね。ここにいますけど、て……教えたほうがいいのかな? でも美ショタくん、本当に楽しそうだしなあ。


 「そして、これがトドメだ!」


 三たび気合いを入れる美ショタくん。

 今度は王都の東側へと、エネルギーが飛んでいきます。


 「お前は知るまい。王国最大の牢獄の地下にはな、古代の邪神が眠っているんだよ!」


 えー……あー……知ってますけど。


 「我が魔王様の盟友たる、古代の邪神復活だ! 死霊と悪霊の攻撃に疲弊したところへ、反対側から最大級の攻撃だからな! さすがの大聖女もなすすべもあるまい!」


 勝利を確信し、高笑いする美ショタくん。

 へー、あの泥人形みたいなの、そんなにすごいやつだったのかぁ。大聖女様(ビッグボス)があっさり潰しちゃったから、大したことないんだと思ってました。

 あ、もういないよ、て教えた方が……いえ、気持ちよさそうに笑ってますし、やっぱり水を差すのは悪いですね。


 「さあて、これで後は、寝てれば王国が滅びるって寸法だ」


 美ショタくんが満足そうな顔で、くいっ、と指を動かすと、私とアーノルド卿はゆっくりと地面に降ろされました。


 あれ?

 「わーい、高ーい♪」なんて楽しんじゃってましたけど、あのまま落とされてたらヤバかったのでは?


 そんなふうに考えて……ゾクゥッ、と背筋が凍りました。


 「クククッ、どうだ、王国が滅びるというのに、何もできない悔しさは」

 「……」


 背筋が凍る思いに私が何も言えずにいると、美ショタくんが「そうだろ、そうだろ」と愉快そうに笑います。


 「その悔しさに身悶えしながら、夜を明かすといい! さて、明日の朝を楽しみに、私は一眠りするとしよう」


 あくびをして、キノコの家に戻ろうとする美ショタくん。

 そんな彼に、私はありったけの力を振り絞って声をかけます。


 「あ、あのー、一言、いいですか?」

 「なんだ? 大聖女は負けないとでも言う気か? はっはっは、悔しいのはわかるがな……」

 「いえ、そうではなくて……」


 私、恐る恐る王都の方を見ます。


 地面に降ろされた直後の、あの寒気。


 間違いありません。感じます。びんびんと感じます。

 王都の方から超高速でやってくる、とんでもない怒りのエネルギーを。


 「その……いますぐ逃げた方が、いいと思いますよ?」


   ◇   ◇   ◇


 「シィィィスタァァァー、ハヅキィィィィ!」


 夜の森に、美しくも不気味な声が響きました。


 「な、なんだ!?」


 美ショタくんが驚いて、空を見上げます。


 そこには、白い法衣に身を包んだ大聖女様(ビッグボス)と、それに従う聖堂騎士団の皆様。

 え、それ引き連れて、空飛んできたんですか!? 百人ぐらいいません? うちのボス、どんだけ規格外なんですか!


 「今度は一体、何をやらかしたのですかっ!」


 なんで私なんですか! 私、何もしてませんよぉ!


 抗議する間もなく、ザシュッザシュッザシュッと、大聖女様(ビッグボス)軍団が、私の目の前に見事な着地を決めます。そして、素晴らしい連携で私を包囲し、槍の先を向けてきます。

 わーん、完全に犯人扱いじゃないですかー!


 「やっほー、ハヅキちゃーん。相変わらずのトラブルメーカーだねー」


 ボン、キュッ、ボン、なポンパドールさんも一緒でした。

 黒装束に身を包み、腰に短剣差してます。

 わ、かっこいい。それがシノビ装束ですか? 紅色(くれない)の帯がおしゃれですね!


 「ポンパドールの服なんか、どうでもいい!」


 しまった、声に出てた! わぁん、ごめんなさい!


 「人が別件で手が離せない間に、あなたという子は! なんですか、あの邪気の塊みたいなエネルギーは! 今度という今度は容赦しませんよ!」


 目の前で、阿修羅のごとき形相で仁王立ちになられた大聖女様(ビッグボス)

 怖い、マジで怖い! ダレカタスケテー! あと、容赦してくれたことなんかないですよね!


 「さあ、正直に言いなさい! あなたは何をしていたんですか!」

 「わ、私じゃないですよぉ! あっち! あの美ショタくんですよぉ!」

 「あぁん?」


 大聖女様(ビッグボス)が、ねめつけるような目で美ショタくんを睨みます。

 ……うわー、怖い。ヤ○ザみたい。

 聖職者なんですから、イメージ大事にしましょうよ。


 「なんですかこの子……」


 美ショタくんを睨みつけていた大聖女様(ビッグボス)、はっと顔色が変わります。


 「……魔族?」


 ズザザザザッ、と。

 秒で聖堂騎士団の皆様が動き、あっという間に美ショタくんを包囲します。

 さーすがぁ。


 「お前は……かなり高位の魔族ですね? なにゆえにこの神域の森にいるのか? 返答次第では、容赦いたしませんよ?」


 あ、ヤク○から大聖女になった。でも、これはこれで怖いんですよねぇ。


 「だ……大聖女……なぜ……なぜここにいる!」

 「あんな邪気の塊が三度も飛んでくれば、怪しいと思うのが当たり前でしょう」

 「そういうことじゃない! 僕の術が発動して、お前は今頃、追い詰められているはずだ! なのに、なぜここに来れた!?」

 「術?」


 美ショタくんの言葉に眉をひそめ、大聖女様(ビッグボス)が私に視線を向けます。


 「ハヅキ。説明なさい」


 えー、なんで私が知ってる前提なんですか?

 いえまあ、知ってますけど。


 「ええと、ですね……」


 カクカク、シカジカ。


 「……というわけです」


 しーん。

 なぜか不気味な沈黙が訪れました。美ショタくん以外の皆様が、私を驚愕のまなざしで見つめているような、そんな気がします。

 え、なんですか? 私、なにかしましたか?

 ちゃんと説明できてたと思うんですけど、おかしいところありました?


 「つまりぃ……」


 ポンパドールさんが、ほおをポリポリしながら口を開きました。


 「ハヅキちゃんが、こいつの企み、全部潰しちゃってた、てこと?」

 「……そのようですね」


 え、私、そんなことしてたんですか?

 ダンス楽しんで、お酒飲んで、お掃除しただけですよ?


 「なっ! こ、こいつが!?」


 大聖女様(ビッグボス)の言葉を聞いて、美ショタくんも愕然とした顔になりました。


 「こんなバカに、僕の企みが潰されただと!?」


 あ、バカって言った。人のことをバカって言う人が、バカなんですからね。


 「お前だろう? 大聖女、お前の指図なんだろう? そう言ってくれ……せめてそうであってくれ!」

 「残念ながら……」


 ふーっ、と。

 大聖女様(ビッグボス)が、どこか虚ろな目で美ショタくんに答えます。


 「あなたのことは、全く気づいておりませんでした」

 「そ……そんな……大聖女ならともかく、僕が、こんな偽物シスターに……」


 いやだから、偽物じゃないですってば。


 「嘘だ……嘘だ、嘘だぁー!」


 美ショタくんがガックリと崩れ落ち、悲しげな声が森の中に響き渡ります。

 なんかすいません。


 「とりあえず……捕らえなさい」

 「はっ!」


 そんな美ショタくんを、聖堂騎士団の皆様が捕縛します。

 魔力をほぼ使い切っていた美ショタくん、抵抗らしい抵抗もできずに捕まっちゃいました。まあ……その前にショックで心折れてたみたいですけどね。


 ま、なにはともあれ。

 名前も知らない魔族の企みは、ここに、完膚なきまでに潰えてしまったのでした。


 ……あ、なんか名乗ってた気もするなぁ。ま、美ショタくんでいいか。


   ◇   ◇   ◇


 夜が明けると、私は大聖女様(ビッグボス)と一緒にキノコの家を出発しました。


 ちなみにあのキノコの家、私が会いに来た森の賢者様のお住まいで間違いないとのこと。

 美ショタくんは勝手に使っていただけでした。もう三年くらい住んでいると言っていましたので、森の賢者様はずいぶん前からお留守だったようです。


 どこへ行っちゃったんでしょうね?

 妙なフラグでないことを祈りましょう。


 「あの……大聖女様」


 まあ、それはともかくとして。


 「一つ、聞いてもいいですか?」

 「なんですか?」


 てくてくと隣を歩く大聖女様(ビッグボス)。私の方を見向きもせずに答えます。


 「私、なんで縛られてるんですか?」


 私の体には紐がつけられ、その先っぽをポンパドールさんが持っています。

 ていうかこれ、いわゆる迷子紐(リード)というやつですよね?

 赤ちゃんじゃないですけど、私。


 「勝手にどこか行かないようにです」

 「森へ行くようにおっしゃったのは、マイヤー様ですけど?」


 大聖女様(ビッグボス)の従者の一人である、アラフィフ・シスターのマイヤー様。私はその人に言われて、森へ来たんですけど。


 「……まさか本当に行ってしまうとは思わなかった、と言っていました」

 「へ?」

 「ナメられないよう、最初にガツンと言ってやろうと思っただけだそうです」


 あー、そゆこと。


 あちらは、大聖女に仕える「従者」のナンバー・ワン。

 私は、大聖女の側仕え。


 小娘が大聖女の威を借りて勝手しないよう、マウント取りにきたんですね。

 私が「どうか今夜はお許しください」なんて泣いて頼んだら、「仕方ないですね、では入れてあげますが、私に従うのですよ」とでも言うつもりだったんですかね。


 「めんどくさい人ですねー」

 「女だけの世界ですからね、そんな感じです」

 「なるほど。そして大聖女様は、そこを勝ち抜いて君臨しているんですね」

 「な・に・が・言・い・た・い・の・で・す?」


 一音一音、区切るように言って私を睨む大聖女様(ビッグボス)

 ああっ、心の声が漏れてしまった!


 「まったく、あなたという子は!」


 ガシッ、と「大聖女クロー」が私の頭をつかみました。

 ひぃっ、頭潰される! 許して、許してくださーい!


 「言動は、もう少し慎重になさい」

 「は、はい、肝に命じます!」

 「まあ、なにはともあれ……無事でよかったです」

 「へ?」


 わしゃわしゃと、大聖女様の手が私の頭を撫でました。

 予想外の行動にびっくりして見上げると、大聖女様はぷいと顔をそらしてしまいます。


 心なしか、お顔が赤いような。

 え、なんですか、照れてるんですか? 私も小っ恥ずかしくなってきたんですけど。


 「ぷっ……くくく……」


 不意に、背後から笑い声が聞こえて来ました。

 振り向くと、ポンパドールさんのニヤケ顔が見えます。


 「なんですか、ポンパドール」

 「いやあ、なんか……親子みたいだなあ、と思いまして」

 「はあっ!?」

 「ええっ!」


 ほぼ同時に叫んだ、大聖女様(ビッグボス)と私。

 いやいや、こんな若い母親なんて、私、何歳の時に生まれた子なんですか。


 あれ……いやまてよ?


 「大聖女様は四十六歳、ハヅキちゃんはもうじき十八歳。ちょうどいい感じじゃないですか」


 そうでした。

 この方、見た目は二十代後半ですが、もうアラフォー……というか、アラフィフ手前。マイヤー様とほぼ同世代でした。

 ポンパドールさんの言う通り、親子のような年齢差、ですけどね。


 「こんな娘、いりません!」


 大聖女様(ビッグボス)が断固とした口調で言いました。

 おっと、そこまではっきりおっしゃいますか。これは負けていられません。


 「私だって、もっと優しいお母さんがいいです!」


 言った瞬間、「大聖女ネイル」が頭に食い込んで来ました。

 ああっ、物理で反撃はずるいです!


 「言動はもう少し慎重にと、たった今言ったばかりですけどねぇ!」

 「も、申し訳ございませぇん!」

 「あなたがやらかさなければ、私だって怒りませんからね!」


 わぁん、結局握られた! タスケテー!


 「まあまあ、大聖女様。親子は冗談でも、側仕えなんですから。家族同様、慈しまないと」

 「そうです、そうですよ! 慈しみましょう!」


 ポンパドールさん、いいこと言いますね!


 「まったくあなたは……調子のいいこと」


 あきれた顔でため息をつくと、大聖女様(ビッグボス)は私の頭から手を離してくれました。

 あー痛かった。ホントに潰されるかと思った。


 「ですが……そうですね、ポンパドールの言う通りですね」


 涙目で頭をさすっていたら、大聖女様(ビッグボス)のそんなお言葉が聞こえました。


 「私が決めた側仕えですからね。ええ、いいですとも。家族のように慈しむことにしましょう」


 そして、と。


 「慈しむだけでなく、きっちりと(・・・・・)躾も行いましょうか。基本の躾は、家族としての責務ですからね」

 「ひっ……!」


 お美しい顔に、それはそれは優しい笑顔が浮かぶのが見えました。

 ゾワっと悪寒が走ります。

 今すぐ逃げろと、神のお告げを聞いたような、そんな気がします。


 「どこへ行くのです?」


 気がつけば走り出していた私ですが、ガインッ、と引っ張られ、引きずり戻されました。

 大聖女様(ビッグボス)の手には、いつの間にやら迷子紐(リード)の先が。

 ああっ、ポンパドールさん、なんで渡しちゃうんですか!


 「そうだ。躾と同時に、あなたが立派なシスターになれるよう、この私が直々に、手加減ヌキの容赦ナシで鍛えることにしましょう。遠慮はいりませんよ、家族ですからね」

 「いえ……」


 遠慮します、と言いかけた私を、「大聖女アイ」が射貫きました。


 ピッキーン、と私の体が固まります。

 ダメです、怖すぎます、逆らったらマジ人生終わります!


 「励むのですよ、シスター・ハヅキ」

 「は、はいぃぃぃっ! ご期待に沿えるよう、がんばりまぁす!」


 よろしい、と満足そうに微笑む大聖女様(ビッグボス)


 女神の生まれ変わりなんて言われることもある、その美しい微笑みは。

 私には、死刑宣告をする死神の笑顔にしか思えませんでした。



 やっぱ側仕えになるのヤダー!

 誰か代わってよー!

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― 新着の感想 ―
[一言] (*´ー`*)今回のときめきポイントは「聖女ネイル」でした。 そうか、ネイルショップって武器屋だったんだ!ネイルやったばかりだから、米研ぎやだぁ〜とか、指先に武器(暗殺器)があるんだったら、…
[良い点] 今までのシリーズにサラッとつながってた事 知らない内に策を全部潰されてたユッケルとは… [一言] 「ユッケルがやられたようだな…」 「ククク…奴は四天王の中でも最弱…」 「人間ごときに負…
[一言] ビッグボスめっちゃデレてきたー!! アーノルドさんも処されなくて済んだし、めでたしめでたしですね!!
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