聖女様って誰のこと?
ふぅ、と小さく息を吐く。僕の思い人が失踪してから早一年、僕はそれ以来何にもやる気が起きない。彼女とは互いに好き合っていると思っていたのに逃げられてしまうとは、なんて自虐してみてもココロは全く嗤う気になれないらしく、作り笑いさえ上手く出来ない。そんな自分に嫌気がさして屋上から教室へ戻る。結局その日一日は何もなく、学校の終わりを報せる音が校内に響く。
「…ただいま」
誰もいない部屋に僕の、女性のような高く丸みのある声だけが虚しく溶けていく。手を洗うため洗面所に向かう。洗面所にある鏡には女の子としか見えないような可愛らしく幼さを残した顔と、細く華奢で小さい僕が写っていた。その男とは考えられない身体的特徴が嫌になり鏡から顔を逸らし、手早く手洗いを終わらせて部屋へ戻る。部屋に入るとすぐさまベッドに潜り込む。いっそ僕が女であれば、彼女もいなくなってしまいはしなかったはず。そう思うとまた嫌気がさして僕を見ないために目を瞑る。数分目を瞑り無駄だと悟りリビングへ行く。リビングには誰もいない。それはそうだろうとも。両親は数年程前に亡くなっており、今僕はこの家に一人で住んでいる。家賃や食費などの生活費は祖父母に払ってもらっている。ご飯を食べ終え、部屋に戻るとそこに彼女の姿が見えた気がして走り寄る。瞬間、僕の姿は光に包まれて、気づけば見知らぬ部屋に座っていた。何が起こっているか全くわからない。ここはどこなのだろうか。床や壁は少しくすんだ白い石材でできており、中世の城や教会を彷彿とさせる。そう思考を張り巡らす内に一人の男性が背後に歩み寄ってきていた。
「其方が聖女か。手荒な召喚に応えてくれたこと感謝する」
と声をかけてきた。..."聖女"? その言葉だけが引っ掛かり自分の手を見つめる。その手は自分のものと思えないほど小さかった。その事実に一つの可能性がよぎり、確認のために自分の顔にも触れてみる。予想通り少し小さく感じられ、髪は長くツインテールに結ばれていた。最終確認のために自分の股間に触れてみる。そこには自分に生えていたはずのモノがなかった。...そう、僕は女になったのだ。