島の不思議
(十三)
「と、智次坊??」
平佐田の腰にしがみつくようにして、共に倒れている、小さな相手に平佐田は目を剥いた。
「兄ちゃん、わしのせいか? 痛いんか? 今、唸っておったろ? 医者を呼んでくる。竹爺は年寄りじゃが、島医者じゃ。まだちぃと早いが、急病人じゃと言えば、来てくれる。待ってろ。わしが、大急ぎで――」
ひょこりと起き上がった智次が、顔を曇らせて捲し立てる。
平佐田は、急いで立ち上がろうとして、くしゃくしゃになった布団に足を取られ、もぞもぞともがいた挙げ句、再び倒れ込んだ。
「智次坊? 大丈夫か? なんか知らんが、おいは大丈夫。医者なんか呼ばんで良い。唸ったんは、腹じゃ」
すまんが、ばばさまに頼んでくれ、腹ぺこには医者より飯だと、捲し立てる平佐田に、首だけで振り返った智次は、きょとん、とした顔をする。
平佐田が腹を押さえ、困ったように頷くと、ぱっと笑顔になった智次は、
「うん! まっとって。婆ちゃんにすぐ、支度してもらう」
元気よく立ち上がった智次は、ぱたぱたと廊下を走って行った。
「ほんに平気なんか?」
障子の向こうから、遠慮気味に顔を出したのは時頼で、こっちも心配そうに眉を寄せている。
こくり、と頷いた平佐田に、時頼もまた、表情を緩めた。
もう日は明けたかと、平佐田が問えば、明け六つだと、時頼は、両手で口を覆った。
「でも、まだ……」お天道様が顔を出していない、と平佐田が言う前に、
「硫黄じゃ。島では時折、こういうことがある。ここらは風が吹くけん、心配は要らん。ただ……」
ちら、と平佐田の顔を見て、時頼は口を閉ざした。
(ただ、何?)
平佐田は、じっと続きを待つ。だが、時頼は、もう話すつもりは一切ないらしい。
せっかく機嫌を治してくれたのだから、ここでまた下手に突っついて、機嫌を損ねる必要はない。
「へぇ、硫黄って、あの温泉のじゃろ? そうか、昨夜ちぃと生臭いと思うたんは、硫黄じゃったか」
さりげなく言って、平佐田は起き直る。
島にはいくつか、人が入れる温泉がある。平佐田も家主に勧められ、何度か硫黄の湯煙が立ち登る温泉に入っている。
誰でも好きに入れる温泉は、島人の交流の場ともなっていて、爺は朝晩に温泉に浸かり、「これが島神様の恵みよ」と、自慢している。
「温泉の湯煙が、こんなとこにまで? すごいなぁ。湯煙だけでも体に効くんじゃろうか」
呑気に言いながら、外を見た。平佐田の目と口が、あんぐりと開いていく……
(なんじゃ、これ)
霧どころではない。一面の白い世界は、平佐田の予想外だ。
平佐田の部屋から、庭の柿の木は、正面に見えたはずだが、今では白に掻き消され、大きな幹すらも見えない。
「島神様の居王様が……」
独り言のように、時頼が囁く言葉の続きは、
「朝飯じゃ。せんせ、遅うなって、すまんかったな」
おばばさんの少し嗄れた声に遮られ、平佐田の耳には届かなかった。
(十四)
「えっ。ほんとか、兄ちゃん」
「うん……。少しは効くと思うよ。おいの部屋の押入れの中、下の段の右端の包み。そん中に、入っとる」
柏の葉に包んである。そのまま痛むところに貼って、布で縛ればいい。最初は少し熱くなるが、じきに楽になる。医者が来るまでの我慢は、できるはずだと、笑った平佐田に、 智次が嬉しそうに立ち上がる。
食いかけの飯を放り出し、後を追った時頼に、平佐田の頬が緩む。二人とも母ちゃんが、心配なのだ。
「すまんね。せんせには、えらい迷惑ばかりで。爺と息子が戻ったら、埋め合わせをさせてもらう。ほんに……せんせに来てもろて、助かった」
お代わりの飯を手渡しながら、おばばさんが、にこり、と笑う。平佐田は、ちょっと満足だ。
(おいも、役に立つこともある)
智次と時頼の話によれば、夜中に目を覚ました智次は、父親と母親の姿が部屋にないことに不安を感じ、廊下に出て、真っ白な闇に怖くなった。そこで、
「兄ちゃんのとこに行ったんじゃ。爺ちゃんと婆ちゃんの寝てる部屋は、離れじゃ。真っ白な庭を、わし一人で行くのは、ちょっと……間違うて鶏を踏んでもいかんしの」
(鶏は鶏舎の中、夜中に庭を散歩する鶏はいないよ……)
胸の内で突っ込んだ平佐田だが、笑いは堪えた。男、智次の建前を崩してはいかん。
「わしはの、一人で出て行った智次が気になって……一人で厠に行って、落ちはせんかと」
夜中に弟が厠に落ちれば大騒ぎ。爺、父のおらぬ中、家の中は、長男の自分が守らねばならんと、時頼は、父親を真似て、腕を組んで頷いた。
ところが智次は、さっさと平佐田の部屋に向かい、「これはまた、なんぞ企んでおるな」と、こっそりと部屋に忍び込んだ。
そこで、時頼は、衝立の後ろにあった掻巻きに潜り込み、様子を窺うつもりが、知らぬ間に寝てしまった。母ちゃんの声に目が覚めて、急に尿意を催した、と。
どうせなら、布団に入ってくればよかったのにと、笑う平佐田に、薄っぺらの小さな布団では、三人は窮屈じゃろと、時頼はぶすり、と言って、慌てて口を押えた。
母親に引きずられて部屋に戻った智次はとにかく、「兄ちゃんは何も知らん」と、言い続け、「全部、わしが勝手にしたことじゃ」と、母親に訴えた。
「怪我をさせてしもうたかもしれん」と、言った智次に、不安になった母親が、大きな体を慌てて捻り、ぐきっ、と嫌な音を立てて、倒れこんだ。
ちょうど厠から戻った時頼と二人で、うんうん唸る母親に付き添い、冷やしたり、温めたり、さすったり……ともかく大騒ぎだったらしい。
そのうち母親が、うとうとし始め、二人で顔を見合わせて、大きく息を吐いた後のことは、何も覚えていないと言う。
「すっかり兄ちゃんのこと、忘れとった」と、智次が申し訳なさそうに手を合わせ、平佐田は、込み上げる笑いを堪える。母親に勝てるはずはない。
起きてきたおばばさんに事情を話し、後を任せた二人はとりあえず、平佐田の様子を見に来て、勘違いとなったわけだ。
(随分と忙しかったんだなぁ)子供たち二人の奮闘ぶりに感心する。
白い闇が怖くなって、平佐田の元へ来たと、智次は言うが、島が大好きな智次にとって、白い闇は幼馴染のように、慣れ親しんだものだ。智次はおそらく、両親がいないのを好機と、夕刻の無礼を詫びようと、平佐田のもとへ向ったに違いない。智次はとても優しい子供だ。
そして時頼はそんな弟を心配して、こっそりと後を付けたに違いない。
弟の行動に口は出さない。だが、影から見守ってやる行動は、男らしい思いやりに溢れている。
(島の〝小さなおいどん〟は、侮れんの。おいも、しっかりせにゃあならん)
ともかく、おかみの誤解も解けたようだし、子供たちも元通りに戻ったようだ。
平佐田は胸を撫でおろし、常になく三杯目のお代わりをおばばさんに頼んで、はた、と思い当たったのが、平佐田が常備している軟膏だ。
薬園師見習い平佐田玄海――かの薩摩男秘伝の、薬丸自顕流にて見事に〝船酔い〟に打ち負かされた未熟者ではあるが、唯一つ身に着けた〝無心〟の技は誰にも引けを取らぬと、自負している。が、「平佐田流無心術」には少々の難があり、必需品がある。
なにせ、ひ弱者であるがために、体が弱い。〝草取り〟は、かなり腰に響く。平佐田が〝無の境地〟に至ったときには、既に立ち上がる元気すら、失われている。
(無心となるためには――代償が必要なのだ)
などと呑気に言っている場合でもない平佐田は、己の腰痛を何とか処置するために、学んだ薬草学を試行錯誤し、平佐田は見事に、腰痛に良く効く軟膏の調合に成功した。
じわじわと患部の痛みを鎮める効果は、寝違いで固まった首にも使用できる。お内儀の足は、平佐田の首よりずっと丈夫そうだ。効かなくても難はあるまい、と。
医者が来るまでの間、少しでも痛みが引けばいい。お内儀が足を捻った原因は平佐田にある。
(おいも、できることをせにゃあいかん。腰が弱くて、良かった)
良くわからないことに感謝して、平佐田は三杯目の飯を掻き込み、「御馳走様」を言って、部屋に戻った。
白は相変わらず濃いままで、(今日の散策は無理かな)と、持ってきた薬草の図鑑を広げて、ぼんやりと眺めた。
(十五)
「せんせっ! ほんに、すまんこつした。この通い、許してくいやんせ」
いきなり飛び込んできた大声に平佐田は、びくっ、と身を震わせた。
目に映った大きな姿に、「今度は、熊かっ!」と、咄嗟に逃げようとして、足元に転がった図鑑に蹴躓いた。大きく体が傾ぐ。
ばたばたと手を動かし、身を立て直そうとする平佐田の首根っこを、大きな手が、ぐぃ、と掴んだ。
「せんせ、なにしちょる?」の声に、我を取り戻す。お内儀だ。熊じゃない。
「いや……あの、おいはまた、叱られるんじゃ、思って……」
他愛ないことを言う。せっかくお内儀が来てくれたというのに、これでは、お内儀の気持ちが台無しだ。
まぁ、それでも、「いや、熊かと思って」と口走らなかっただけ、ましかとも思う。我ながら、失礼な話だ。
「せんせ。わし、謝りに来たんじゃ。ほんに、すまんこつをした。許してくいやんせ」
平佐田の反省をよそに、お内儀は熊のような大きな体を、がば、と伏した。
「とんでもない! お内儀っ、おやめくださいっ、そ、そのような……お、お、おいは、お内儀に、そのようなこつ、望んじゃあおらんっ。ど、どうか、ここは一つ、収めていただきたい……」
知らぬ者が聞けば、妖しげにも聞こえそうな台詞を、平佐田は口走る。
男と見紛うような逞しい女子と、女子よりもへなちょこな男……笑い話にもなりそうもない。
ともあれ。お内儀とは、すぐにでも和解すべきだ。〝密命〟の先は長い。まだまだ、ここで世話にならねばならぬ。
「まずは、女子とは上手くやれ」とは、沢蟹が平佐田に「うっぷ」と、げっぷのついでに吐き出した言葉だ。
「わかってくれたか。ならばよか」
さっさと身を起こし、でかい顔が、にかっ、と笑う。女子の気持ちは、ちいともわからん。それでも笑顔は、智次に似て屈託がない。
「昨夜は、何かと忙しうて。子供たちを寝かしてから、お勝手で片付けをしておったら、隣の定坊が、やってきたんじゃ」
太い眉をくっつけるように寄せて、お内儀は顔を顰めた。定坊は隣の三男で、時頼と同い年だ。
「定坊が『うちの母ちゃんの代わりに、寄合の手伝いに行ってもらえんか。母ちゃん、腹を下しよるんじゃ。今、兄貴が竹爺を呼びにいっとる』と、青い顔で白い闇を背に立っている姿を見て、可哀想に思ったんじゃ」
隣家の女手は、お内儀だけだ。婆は昨年、亡くなり、定坊の下の妹はまだ、五つだ。とても寄合の手伝いなどできはしない。
「困っとる時は、お互い様じゃ。範ちゃんは、わしの従姉妹じゃしの」
お内儀は急に出かける羽目となった。隣家のお内儀、範ちゃんとは、よく表で話し込んでいる。従姉妹だったとは初耳だ。
「子供らは寝たし、婆ちゃんもおるからな。ちいとの間じゃ、思うて」
急いで出かけて、一刻ほどで戻ってみれば、息子二人がいない。何かあったのではと離れを覗けば、婆は静かな寝息を立てていて、起こして事情を聴くのも躊躇われた。
そこでおかみは、急いで平佐田のところへ来て、智次を見つけたそうだ。
「せんせを疑うたわけじゃなか。子供らは、せんせを慕っておる。じゃから、何かあったのであれば、せんせのとこに逃げ込んでおると……そう思うた。じゃが、来てみれば、せんせも智次も……なんともまぁ呑気に寝ておるじゃなかか。それでつい、かっとなって……」
お内儀は、しゅんと下を向いた。
(呑気に? いやいや、違うよ。おいは、額の痛さに蹲っていただけじゃ)
言い返したい気もする。だが、ごっつくでかい顔が、いかにもすまなそうに縮こまっている姿には、平佐田も言葉を飲み込んだ。
(なんか……なぁ。女童みたいじゃ。結構、可愛いとこもあるのかもしれん。んんでも、おいは絶対に惚れはせんが)
平佐田は、ここでもまた、失礼なことを思う。
「いゃあ。和解できて良かった」かかかか……
豪快な笑い声と共に、ばしっ、と背を叩かれ、思わずつんのめった平佐田は、(やはり、女子は、よくわからん)と思い直した。
すっと立ち上がったお内儀に、「あぁ、そうだ」と思い出し、
「足は? もうよかですか?」と、平佐田は訊ねる。
「あぁ。もういいよ。せんせのおかげじゃ。竹爺を呼ぶまでんん」
平佐田は、はっとする。
「もう、いい?」
「はぁ。もういい」
「もういいかい?」
「はぁ。もういい……よ? せんせ? 耳ぃ遠いか?」
(そうか。智次坊は、おいのふざけた声に腹を立てたのか)
あの時は知らなかったが、重定が神隠しに遭って、智次は真剣に心配していた。だから、呑気にふざけた平佐田に、腹が立ったのか。それとも智次は、隠れん坊が嫌いなのだろう か。何か、嫌な思い出でも……
「お内儀、智次坊は……」隠れん坊が嫌いですか? と、訊ねようとしたお内儀の姿は既にない。
和解が済んで、早々に行ってしまったらしい。きっと忙しいのだろう。神隠しはまだ、決着がついていないのだ。
所在なく再び机に向かうと、
神のいる島――
平佐田自身の書いた文字が、妙に真実味を持って迫ってくる。
(神様がいるから、神隠しがあるんだ)
ぼんやりと頭に浮かぶ考えを、平佐田は笑う気にはならない。
かつては、神隠しはあるのかもしれないが、確かだとは言えない。行方不明のほとんどが、人為的なものや、康太のように事故なのだと、あの、搖坊ですら思っていた。それが――
何となく、この島では、本当に神隠しがあるような気になるのは、やはり、船から見た島の姿の仕業だろうか。
自身の姿を隠す、白い靄。平佐田にはそれが、神隠しと重なって見えてしまう。自身の姿を隠すように、一人の子供を白に包み込んで隠してしまう。
神様ならば、できそうな所業だ。
(隠された子は、どこへ行く? 決まってるさ。神様の住む郷だ)
重定坊は、ずっとずっと、神様と遊んで暮らしましたとさ。めでたしめでたし、だ。
(不謹慎だぞ)自身を叱りつけながら、それでも平佐田は、そんな考えがどうしても拭いきれない。
ふわり、と硫黄の臭いがして目を転じれば、廊下に面した障子が開いたままだ。おかみが閉め忘れたらしい隙間から、今なお白い世界が見える。柿の木はまだ、見えそうにない。
「あの……硫黄がこんなに濃くて、平気なんでしょうか?」
心配性の平佐田は、先ほど、おばばさんに、こっそりと訊ねてみた。
平佐田とて、硫黄も度が過ぎれば、害となる事実は知っている。だが、さすがに子供である時頼には、そんな質問はできなかった。
仮にも先生の平佐田が、島人が長年ずっと経験している風土に、びびっているようでは、子供たちに示しがつかない。
「はぁ、余所ん人には、驚きじゃろうね。けど、これは、硫黄だけじゃなか。火山灰が混じとっとる。これだけの白が全部、硫黄だけじゃったら、わしら、ここな住めん。灰は灰でまた、難儀なんじゃが……まぁ、わしら、昔から島におります、大丈夫じゃと……言う他、言うごとがん」
確かに、その通りだ。
時頼の話によれば、島では時折あるという今の状況が、人に大きな害を与えるのであらば、誰もこの辺りに住んだりはしないだろう。
「まぁ、そいが……島神様のお恵みじゃと、わしら、思うとります。わしらは神様とおります。よかもわういかも……人が思うこつじゃ。人がわういか思うこつも、ほんに、わういかいけんか、わからん」
それもまた、その通り。神様の視点と、人の視点では、比べること自体に無理がある。それでも。
大事な子供を神様の都合で連れ去られては、残された者としては、黙ってはいられない。それが、人情というものだろう。
(神様に、人情はないよな)
だったら何故に神様は「神隠し」をするのだろう。女子の気持すらわからない平佐田に、神様の気持は、もっとわからない。
目に映る白い世界に誘われるように、平佐田はふらふらと、開いた障子に近づき、
「もういいか?」「まぁだだよ」
白の向こうから聞こえる、甲高い子供の声に足を止めた。
(こんな視界の悪い中、子供が外で「隠れん坊」を?)
おそるおそる障子から顔を出した平佐田は、ぱたぱたと目の前を手で煽って、じっと目を凝らす。
不意に小さな手が伸びてきて、「見ぃ~つけた」
そのまま白い闇に引きずり込まれそうな、そんな子供じみた恐怖が、平佐田の背筋を震わせた。
「よか加減にせんか。はようでんか、わし、もぅ……漏れてしまうわ」
「へへへ、お待たせ。お先にね、兄ちゃん」
聞こえる声は、馴染みの声だ。平佐田は体中の空気が抜けるほどに、息を吐いた。
平佐田の間借りしている部屋からは、鶏舎の手前にある、厠の戸が見える。
ばたん! 勢いよく厠の戸が閉まり、ちょこちょこと縁側に向かっている智次の姿が、白の間から、ちらちらと見え隠れする。隠れては消え、消えては現れる。
平佐田は不意に抑えきれない気持ちになって、大声で叫んだ。
「智次坊!」
ぱっと振り向いた智次の姿が、白を背景に、くっきりと浮かび上がる。
にこっ、と屈託なく笑った智次は、すぐにまた、白の中に溶け込んだ。
(まさか……智次坊は、神隠しに遭ったんじゃろか。屋敷の中で? そんな、まさか!)
がたん。押しのけるように障子を開けた平佐田が、厠に出る縁に走り出そうと足を踏み出すと、パタパタと軽い足音が近づいて来た。
「何? 兄ちゃん、わしに、なんぞ用か?」
いきなり白から飛び出した智次に、目を見張る。平佐田は無意識に智次の肩を掴む。勢いに智次は、ふらり、とよろけた。
「にい……ちゃん?」
不安げな智次の声に、平佐田は智次を抱き寄せた。
「おいは……智次坊が、神隠しに遭うたんかと思うて……」
びくり、と腕に抱いた智次の体が震えた。
「兄ちゃん、誰に聞いたんじゃ?」
智次の後ろの、白い中から現れた色の黒い足が、小さく震えながら、怯えたように訊ねた。




