伝説のバンドの伝説曲
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そして始まるメロデス教の聖歌
何故かピアノはウルードさん。
そしてボーカルは、、、
「アネット?!」
彼女の骨太の声がビブラートを得て輝くようなオーラを放っていた。
「ヒメヒメ!アネットとウルードさんが洗脳されちゃったよ!」
「ボンテン、たぶん大丈夫。アネットの目を見てみて」
そう、これはアネットのサプライズなのだろう。観客も耳慣れない音楽を聴いて困惑しつつも楽しそうだ。この世界にデスメタルが浸透するにはまだ時間が掛かるけど、きっとコアなファンが付いてくれると信じている。
彼らは演奏を終えると一礼をして定番曲を奏ではじめる。
変なアレンジなどせず、オーソドックスな演奏。彼らの自力の高さがしっかりと伝わってくる。
きちんと音楽に対し敬意を払い、旋律を慈しみ、聴いてくれる人の心に響かせるような丁寧な演奏だった。アネットも死声を封印している。
メロデス教のメンバーとウルードさんがステージを降りるとき会場は大きな拍手で称賛してくれていた。
そして取り残されたアネットは再び司会に戻る。
「さあ!始まりましたエリサーナフェスティバル!最初のゲストは旧メロデス教の聖歌隊の皆さんでした!」
再び会場が拍手に包まれた。
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「さて、続いてのゲストは遠い遠い国から駆けつけてくれた小さな女の子です。」
アネットに紹介されてステージに上がったのはキラキラのドレスを着た少女。
左手にだけ白い手袋をはめている。
イースタリア王国のクリスティーナ姫だった。
彼女は会場に礼をしてピアノに座る。
「うそ、、、」
私は心臓が締め付けられそうだった。彼女との思い出が走馬灯のように蘇る。
出会いの時、ピアノを教えた日々、一緒に人形遊びやお菓子作りをして、お風呂にも入った。
そして王家の試練に挑み、彼女の左手は動かなくなったはずだった。
クリスティーナ姫は右手だけでいくつもの曲を弾いていく。ときどき歌声も乗せながら。
いったいどれほどの時間練習をしたのか想像もできないくらい澱みなく旋律を奏でている。
「ねぇヒメカ気づいてる?クリスがずっと左手を動かしながら演奏しているよ」
パメラに言われて見てみると手袋をした左手を開いたり閉じたり手首を回したりしている。
そして立ち上がり会場に礼をして私の方を見た。
満面の笑みを浮かべて手袋を外した左手を振って再びピアノに向かい合い、両手を鍵盤に乗せた。
ショパンの練習曲3番「別れの曲」
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