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信者第一号

 少女の声を聞き、ハルキは足を止める。

 

 美しい少女だった。

 見た感じ10歳前後だろうか。黒い髪は肩口くらいまで伸ばされており、その顔立ちからは高貴さを感じさせる。まるで人間とは違うステージの生き物のようにも思えた。

そんな少女だが、その衣服も特徴的である。汚れ一つない白を基調とした衣服は彼女の高貴さを際立たせる。唯一目につくのは金糸で施された刺繡くらいだろうか。しかし、その刺繍ですら少女の前では添え物にすぎない。

 

「えーと、こんにちは」

 

 なんとも間抜けな声でハルキは少女に声を掛ける。

今まで必死に探していたはずの両親だが、今のハルキの頭の中でそれらの関心は消えていた。それほどまでに、少女の存在は大きかったのだ。

 

「こんにちは、世界の異物さん。今日もいい天気だね」

 

 少女はハルキに語り掛ける。

 

「あの、どちら様でしょうか。この村で見たことない顔だけど」

 

「この村の人間でもないあなたがそれを聞くの? おかしな話」

 

「あなたは僕の事情を知っているんじゃないですか? さっき、みんなが僕のことを忘れているって言っていたし」

 

「もっと、くだけた話し方でいいよ。私は幼い少女にしか見えないでしょう?それと一つ訂正。みんなが君のことを忘れているわけではないの。君が忘れられているだけ。過失があるのは君であって、他の誰でもない」

 

 ハルキはその発言に何か苛立ちを感じる。まるで自分が全て悪いかのように言われたのだから。まぁ、彼女の発言内容は正にその通りなのだが。

 

 さっきに比べて、ぶっきらぼうにハルキは少女に問いかける。

 

「こういう状況になったのは俺が何かしたからってことなの? まったく心当たりがないんだけど。そもそも、君は誰なの?」

 

「質問は一回につき一つにしてほしいのだけど。でも優しい私は教えてあげる。一つ目の回答は分からない。二つ目の回答だけど今は教えてあげない」

 

「結局、何も分かってないんだけど。もしかして、おちょくってるの? こっちは割と、こんな状況で困っているんだけど」

 

「落ち着きなよ。一つ目はともかく二つ目の質問に対してはすぐに答えてあげる。ただ、何事も順序ってものがあるはずさ。世間一般のマナーとして人に誰か尋ねるとき、特にこんな美少女の時にはどうするのが適切な行動なのか分からない?」

 

 ハルキは少女の言いたいことを察する。要は、先に自己紹介しろということだろう。

 

「はいはい。俺の名前はハルキ。今でこそみんなに忘れられているが、この村で生まれ育った一人の人間だよ」

 

「よくできました。私の名前はツバサ。とりあえず今はそう名乗っておくことにしとくね。名前についてはこれで大丈夫かな。私が誰かっていう質問だけど、まぁ神様だね。君がみんなに忘れられているのに気づいたのも神様だから」

 

 少女は流れようにそう答える。

 一方でハルキは、少女に対しての苛立ちが高まっているのを感じる。自分の質問に答えないばかりか、訳の分からない虚言を振りまかれては堪ったものではない。

 

『あのさ、神様って言われて「はいそうですか」と納得できるわけないだろ。これ以上、ふざけた回答されても迷惑だから、もうこの辺でいいかな』

 

「君は神様を見たことがあるの? たかが一人の人間に過ぎないあなたが、何をもってそう判断したのかな。はっきり言って不愉快だね。君は神に話しかけられたという幸運を噛みしめて、私の話を聞くべきだよ。少なくとも今、私の話を聞かないと君はこの問題に立ち向かうことすらできないからね」

 

 少女の纏う雰囲気が変わる。

 気圧されたわけではないが、ハルキは少女の話を聞かなればならないということを本能的に感じる。無論、少女が神様であるということを信じたわけではない。しかし、心のどこかで少女が恐ろしく思えてきた。

 

「分かったよ。是非とも話を聞かせて下さい。これでいいかい、神様?」

 

 ハルキはぶっきらぼうに少女に告げる。自分の感情が悟られないように。

 

「そうそう。人間は素直なのが一番だよ。それとそんなに怖がらなくてもいい、神様は慈悲深いからね。別に怒ったわけでもないよ。それじゃあ話を続けようか」

 

 何ともないという様子でツバサは発言を続ける。

 

「で、どうして俺がみんなに忘れられていることに気づいたんだ?」

 

 ハルキは少女の雰囲気が落ち着いたのを見て問いかける。いつの間にか少女に対する苛立ちは抑まり、小さな恐怖が芽生えていた。

 

「だから、怖がらなくてもいいのに。君の置かれている状況に気づいたのは実はたまたまなの。でも、それを教える前に君は神様をどういう風に捉えているのかな」

 

 ハルキは神について思い巡らす。神という言葉で浮かぶ存在は1つしかない。

 

「神様っていうと世界を創ったって言われる創造主エシュテーラーを指す言葉だろ?申し訳ないけど、君みたいな女の子がそうとは思えないんだけど」

 

 ハルキは率直に自らの考えを伝える。

 その返答を聞いた少女は満足気に口を開く。

 

「確かに私はエシュテーラーではないよ。だから君の認識では神様ではないってことになるのかな」

 

「やっぱり、神様じゃないんじゃないか」

 

「君みたいな田舎の人間には分からないかもしれないけど、エシュテーラーはあくまで神の一つ。たまたま、この地域で信仰されているに過ぎない存在なんだよ。もちろん力のある神には違いないけどね」

 

「それじゃあ、君もここではないどこかでは信仰されている偉い神様だとでもいうの?」

 

「残念ながら私はほとんど信仰を受けていないんだ」

 

「つまり、偉くはないってことか」

 

「神に対して恐れ多いよ。でも間違ってはないね。最初の話に戻るよ。なんで君が世界から忘れられていることに気づいたのかというと、君の魂が穢れていなかったから。君の魂にはどの神も手を付けていなかった。」

 

 ハルキは少女の話している内容が理解できなかった。自身の宗教観では神はエシュテーラーただ1柱のはず。

 

「ごめん、まだ理解が上手くできていない。もう少し詳しく説明してくれよ。」

 

「簡単に言うとこの世界の人間は必ず生まれた瞬間に神の加護を受けているの。そうしないとこの世界で生きていくことはできないからね。例えば、この村の人間はエシュテーラーの加護を受けている。これは絶対不変のルールのようなもの。でも、君にはそれがない。要は、この世界に君の居場所はないの。君は世界の異物のようなものだね。」

 

 聞いたこともないような話を流れるように語る少女。その様子からは、自分を偽っているようには思えなかった。

 

「なんで、俺は加護を受けていないんだ? それとみんなに忘れられていることは何か関係があるのか。」

 

 ハルキの質問に少女は平然と答える。まるで当たり前のことのように。

 

「それは分からないね。加護が上書きされることはあっても消されるなんていう話は聞いたことがない。」

 

「結局、神様の加護がない俺はこの世界では生きていけないのか?」

 

「恐らくそうだろうね。神の加護というのは、それほど重要なものなんだよ。今、君とこうして会話できているのも奇跡見たいなものだね。でも、そこについては心配しなくていいよ。君を私の信者第1号にしてあげるからね」

 

「俺が君の信者に?」

 

「要は居場所をあげるってことだよ。「居場所?」そうさ。君は私の加護を得られる、私は君の信仰を得られる、お互いにメリットのある話だと思うけどね。正直に言うと、信者のいない神様なんていうのは存在していないのと一緒なんだよ。君と同様に私にもこの世界に居場所はないわけ」

 

 ハルキは少女の話に現実味を感じなかった。いくらなんでも自分のキャパシティを超えている。昨日まで、普通の田舎の少年だったハルキには受け止めきれない、洪水のような情報量だ。

 

「なんで都合よく俺の前に現れたんだ。いくらなんでも早すぎる。」

 

「さっきも言ったけど、たまたまさ。私は時間だけは持て余しているからね。エシュテーラーの領域を覗いてみたら、面白い人間がいたから声を掛けただけ。」

 

「それで納得しておくけど、まだ全ての話を信じたわけじゃないからな。神様だということすら怪しく思っているし。何より神様だっていう証拠もないしな。」

 

 ハルキは賭けにでた。仮にここで少女が神である証拠を提示したならば、自分の今までの日常が崩壊したことを意味する。武勇伝の一つになるはずであった小さな事件は自分の人生を揺るがす分岐点だと認めることになるからだ。

 だが、ハルキは気付いていない。仮に少女が神でないならば、自身の問題を解決できるかもしれない存在、自身の理解者の二つを失うことになるということを。

 

「私が神だっていう証拠ねぇ。いざ言われると難しいね。この、人智を超越した美しさは証拠にならないかな」

 

 少女=ツバサは笑って語る。

 

「流石に、それは証拠にはならないな」

 

 ハルキは心の中でつぶやく。「美少女なのは認めるけど」と、決して口には出さないのだが。

 

「そもそもおかしいと思わないかい。あんなことがあった後なのに、村人は誰一人として私たちを気にしていないだろう? 彼らにしたら、私たちは不審者そのものだよ。特に君は自警団の人に睨まれているんじゃなかったかな」

 

 「ほら」とツバサが指差した先には、昨日自警団の本部でハルキに詰め寄った人物がいた。ハルキは咄嗟に顔を隠そうとする。

 

「そんな必要はないよ。彼は私たちを認識していないからね。」

 

 ツバサはハルキに笑ってそう告げる

 

「どういうことだ?」

 

「何も特別なことじゃないよ。君がこうしている間にも、世界から忘れられていっているということさ。」

 

「でも、今朝は隣のおっちゃんとは会話することができた。そんな、すぐに状況が変わらないだろ?」

 

「個人的な繋がりが強かった人間はまだ君のことを認識できているんだろうね。日も昇り切った今はもう分からないけど。」

 

「嘘だろ、じゃあ俺はこれからどうすればいいんだ…。流石にこんな状況想像してねーよ」

 

 絶望に襲われるハルキだが、ここであることに気づく。

 

「まだ、その話が本当かどうか確かめたわけじゃない。俺はまだ信じていないからな」

 

「だったら、確かめてみればいいのに。そうやって、会話を伸ばして恐怖から逃げようとするのはみっともないよ。君もどこかで、分かっているんでしょ? 自分の置かれている状況が絶望的だってことが」

 

 どこか、余裕のある顔でツバサは言う。まるで、結果が分かり切ったものであるかのように。

 

 その態度に苛立ちを覚えながらもハルキは早速動き出す。この村で一番親交の深い人物、それは間違いなく両親である。

 

「こんにちは。昨日は大変でしたね」

 

 昨日、母とは喧嘩別れのような形になってしまっていたので父に話しかける。父はこちらに目を向け・・・・。

 

「何か言ったかい?」

 

 父はハルキにではなく母に向かってそう尋ねる。

 

 その行動で、ハルキはすべてを察した。自称神様の言っていることが正しいのだと。

 

 ハルキの落胆はどれほどのものだっただろうか。今までの人生が全て否定され、生きる場所を失ったのだから、それは想像を絶するものに違いない。

 

「だから言ったでしょ。君もいい加減素直になった方がいいよ。さっきから強い言葉ばかり使って、強がっているのがバレバレだよ。思い返すと最初の君はもう少し紳士的だったね」

 

 いつの間にか近くにいたツバサがハルキに話しかける。

 

 もはや信じるしかなかった。目の前の存在が、自分が頼ることのできる唯一の相手だと。

 

「なぁ、神様」

 

「やっと、私を神様だと認めたのかな? だったら…」

 

 ツバサの言葉を遮りハルキの発言は続く。その表情は泣いているのか笑っているのか分からない中途半端なものだった。

 

「正直に言うと、君が神様かどうかは半信半疑だよ。でも、みんなに認識されていない俺と話せる時点で普通の人間じゃないことは分かる。それに、俺と一緒で村の人に気づかれていないみたいだし」

 

 嘘だ。ハルキは内心ツバサが神であるということを認めているのだから。それを口に出さないのは自分の誤りを認めたくないという小さな意地か。それとも、神に暴言を吐いたという事実を認識したくないからだろうか。

 

「強情だね。まぁ、私についてはその認識でも構わないよ。そもそも君が神様のことを知らないんだ。厳密な証明なんて不可能だからね。」

 

 ハルキとは対象的にツバサは晴れやかな表情だ。自身の存在を認識された自尊心からだろうか。

 

 そんなツバサにハルキは告げる。自身の今の精一杯の思いを。

 

「俺を助けてください。」

 

 

その声は振るえていた。


「いいよ。」

 

 ツバサの返事は早かった。その、表情は「当たり前でしょ?」と言わんばかりのものであった。

 

「そもそも、最初からこっちは君に加護を与えるって言っていた筈だけどね。」

 

 あまりのあっけなさに驚くハルキだが、ここで聞いておかなければならないことに気づく。「あのー」とツバサに尋ねる。

 

「神様から加護をもらったら、俺の現状は全て解決するのでしょうか?できれば、そこら辺をはっきりさせたいんですけど」

 

「何か君、急に卑屈になったね。」

 

 ツバサの表情に笑みがこぼれる。

 

「そこまで、気を使わなくてもいいよ。暴言を吐かれるならともかく、普通に話していて怒るほど私は狭量ではないからね」

 

 「神の中にはそれを要求する連中も多いけどね」と付け加える。

 

「わかったよ。それで神様、俺の質問の返答はどうなんだ?」

 

「一気にフレンドリーになったね。まぁ、君は何と言っても信者第1号なんだ。それ位の恩恵があってもいいのかもね。それじゃあ、今後はそのような感じで接してくれればいいよ。」 

 

 ツバサは満足気な表情でそう語る。どうやら、ツバサは存外この距離感の近さに好意的であるようだ。

 

しかし、次の瞬間表情が真面目なそれへと戻る。

 

「さて、質問の答えだけ正直に言うと分からないんだ。少なくとも、周りの人間に君が忘れられている状況は解決されないだろうね」

 

 ツバサは淡々と語る。

 

「この状況はどうにもならないのか?」

 

 ハルキの日常が崩壊したことはどうやら確定したようだ。しかし、ハルキは前向きだった。目の前にいるのは神様だ。きっと、どうにかしてくれるはず。ハルキは内心、そう呟く。

 

「この件に関しては、どうにも原因が分からないからね。推測だけど、私の力の及ぶ範囲ではないと思うんだ。おそらく、もっと高次元の者の意思が絡んでいるのだろうね。まぁ。そこは今追求してもどうにもならないさ。」

 

 ツバサは、やれやれといった感じで話を打ち切る。ハルキに深く立ち入らせないようにするためだろうか? 少なくとも、ハルキはそれ以上の追及は控えることにした。

 一瞬の静寂の後。「ただし」と前置きをしてツバサは言う。

 

「君が現状も世界から忘れられていっている状況は打開出来るとは思うよ。後者は、あくまで神の加護がないが故の弊害だろうからね。」

 

「どうして、そう言い切れるんだ?」

 

「私が神だから。なんて答えじゃ君は満足できないだろうね。さっき言ったことは覚えている? 神の加護がないものは、この世界ではいきていけない。つまり、生きる資格がないんだ。そして、そんなものの存在を生かしておくほど世界は優しくない。だからこそ、君という存在は忘れられていったのさ。いずれは君も自身を認識できなくって、ハルキという人間の存在は抹消される予定だったんだろうね」

 

 その発言を聞いてハルキはぞっとする。そして、昨夜はしゃいでいた自分がどうしようもなく愚かで恥ずかしく思えてきた。いざ自分が憧れていた。非日常に遭遇すると途端にいつもの日常が恋しく思えてしまう。

 それでも、いまのハルキは前向きであった。

 

「でも神様の信者になれば、それについては安心できるんだろ? だったら、早く頼むよ」

 

「だろうね。神の加護を得るということは生きる資格を得ることと同義だからね。ところで、君は神の加護を得るにはどうすればいいのか分かるかい?」

 

「えーと、祈りを捧げるとか?」

 

「えらくベタな回答だね。まぁ、知らないのもしょうがない。大方の人間は生まれた瞬間に自動的に神の加護を得ているからね。ただ、その程度じゃ神の加護は得られないよ。信仰ももちろん大事だけど、その程度じゃ神は満たされないからね」

 

 すぐさま正解を言わないツバサの態度に、ハルキは無意識のうちに焦らされていた。ハルキにしてみれば自身の存在がかかっているのだから、当然ではあるが。

 

「それじゃあ、何をすればいいんだ?」

 

 ハルキは思い浮かばないといった感じで、ツバサに尋ねる。

 

「簡単なことさ。私を抱けばいい。」

 

 ツバサ笑みを浮かべて言う。

 一方のハルキは大慌てだ。ツバサの発言内容がまるで頭に入ってこない。田舎の純朴な少年でしかないハルキには、いささか刺激の強い話であったようだ。

 

「もしかして本気なのか?」ちらりとツバサを見るもまるで本人は動じていない。それどころか、先の発言のせいもあり、とても魅力的に思えてしまう。 「やばい変な想像するんじゃない俺! 相手は神とはいえ少女だぞ」もはや頭の中は収集不能な状態であった。

 

意を決して発言しようとするハルキ。しかし、中々言葉を紡げない。

 

「えーと、その、あの。そ、そうするしかないって言うなら、しょ、しょーがないよな・・・」

 

 ハルキは欲望に負けてしまった。

 

「いやー面白い反応ありがとう。ちょっとからかっただけさ。いわゆる神様ジョークってやつだね。まぁ、その方法でも加護を与えられるんだけど、あいにく私の体はそこまでは安くないんだ。」

 

 ツバサは上機嫌でそう言う。まるで、上々の見世物を見終えたかのように。そして、最後に「私の本当の望みをかなえてくれたなら、その時は…」と付け加える。

 

「いや、べ、別にこっちも冗談にのっただけだから。それよりも結局どうすればいいんだよ?」

 

 テンプレな反応を返すハルキ。

 ツバサは益々上機嫌である。「君は意外と愉快な人間なんだね」と、ハルキの認識を改める。そして、いよいよ本題について口を開く。

 

「簡単なことさ、要は君の魂に私の存在を認識させればいいだけなんだから。まぁ、方法は色々あるんだけど、簡単なのは私の血を一滴舐めることかな。これで、君の体に私の一部が含まれることになるからね。嫌でも魂は私を認識するはずさ。そうすれば、誰の加護もうけていない君の魂は私の加護を得るはずだよ」

 

「そんなことでいいのか。でも、他人の血を舐めるって抵抗あるな。まぁ、なりふり構ってられないしな。しょうがない、我慢するか。」

 

「他人っていうか他神だね。というか、私の血ってそんなに君に我慢を強いるものなのかい? まぁいいよ、早速始めようか。」

 

 ツバサは自身の指に、そこらの石で傷をつける。

 

「はい。じゃあ、舐めて。」

 

 ツバサはハルキに指を突き出す。一方、突き付けられたハルキは戸惑っている様子だ。

 

「その、特別な儀式みたいなのはないのか? ちょっと、楽しみにしていたんだけど。ていうか、これって外からみたら絵面最低だよな」

 

はたから見れば、幼い少女の指を舐める少年。立派な変質者である。

 

「期待してもらって残念だけど、特にそういうのはないね。それと、血が乾くからはやくしてくれるかい? 今の君に気にする人目はないんだから」

 

「あー分かったよ。それじゃ、失礼して。」

 

 ツバサの指を舐めるハルキ。身構えていたが、ツバサの血の味は自分と変わらない鉄のそれだった。

 

 おもむろに口をひらくツバサ

 

「あれだけ言っていたなら、私の指の血をすくって舐めればよかったんじゃないのかい?」

 

 完全に盲点であった。ハルキはその件については触れないことに決めた。素晴らしい決断力であった。

 

「そんなことよりも、俺はいつ神様の加護を得られるんだ? まだ、何も変化がないみたいだけど」

 

 ハルキは話を逸らしつつ、本題に入る。

 

 その発言を聞いた、ツバサは笑みを浮かべて言う。

 

「もう君は私の加護を得ているよ。信者第1号を歓迎する。これで正式に二人は結ばれたんだ。これからは君のことを名前で呼ぶことにするよ。ハルキ、君は私にとって特別な人間だよ。これからもよろしく」

 

「え、あ、よ、よろしく。」

 

 拍子抜けしてしまった、ハルキは一瞬返答が遅れる。

 

 こうして、静かに二人の関係は築かれたのである。

 

 

 


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