クイニーアマン
そのスーパーのフードコートは充実していた。
新設して1年。新しいし、電子レンジがあり、お湯とお茶が飲めたのだ。
横のパン屋には、自家製パンが売られていて、水曜は焼きたてパンが100円で売られていた。
フードコートかぁ。
その言葉が遠くに感じた。消費税やら、コロナやらでフードコートが再開されるまでに時間がかかりそうな気がした。
が、その時は沢山の人で賑わっていて、雄二郎のわずかばかりの就職欲を水曜に職安へと向ける手伝いをおおいに手助けしていたのは間違いない。
案の定、雄二郎は小さな紙コップの飲み物をチビチビ飲んで窓側のカウンター席から外を眺めていた。
私は気がつかれないようにそっと雄二郎に近づいて肩を叩いた。
(○_○)!!
雄二郎は背後に私の姿を確認し、言葉を失って……本当に、人間って、あんな風に口を半開きにしてアワアワするんだ…と、喜劇役者の様なテレビで見るような驚きようで私を笑わせてくれた。
「すっ…寿美礼さんっ!!」
雄二郎は、冬の乾燥した枯れ葉のような、弱々しい声で私の出現を驚いてくれた。
「久しぶり。コーヒー、飲みたくない?」
私は間髪入れずに、隣のパン屋のスタンプカードを二枚見せた。
このスタンプカードは、貯まるとコーヒーか、100円パン1個と交換可能な夢のカードだ。
「えっ…。」
雄二郎がそれを見て狼狽していた。
嫌悪と欲が戦っているのが、雄二郎の唇の震えからあからさまに伝わってきて笑いが込み上げる。
「コーヒー、ミルクありよね?私、小腹がすいたから、クイニーアマンを食べたいわ。」
私は誘うように『クイニーアマン』の台詞に力を入れる。
えっ(;゜∇゜)
と、混乱する雄二郎の顔が心地よい。食べ物で釣っているのだが、雄二郎の表情が、魅力的な女性の色香に陥落する男性のようで、変な高揚感が込み上げる。
「またぁ…そんな風に言って、俺を騙そうとして。」
雄二郎の上目使いに、年上の女性と少年のラブロマンスのドラマを演じているような、変な気持ちに笑いが込み上げる。
雄二郎は天秤にかけていた。
私と話すのは面倒くさいが、200円のクイニーアマンを分けてもらいたい。
そんな馬鹿馬鹿しいことを真剣に悩んでいそうな心が駄々もれな姿に笑いが込み上げる。
「隣の席、取っていてね。」
私はそう言ってショッピングバックを雄二郎の隣のテーブルに置くとパン屋へと向かった。
クイニーアマン。
フランスのブルターニュ地方のパンで、特製バターとハチミツで作った自慢の逸品。
と、パン屋のポップが教えてくれた。
私は甘い蜜のかかったパンを半分、雄二郎に渡す。
雄二郎は申し訳なさそうな顔つきを作りながら、口元に隠しきれない嬉しさを称えて、それを手にした。
パンはあっと言う間に雄二郎の胃袋に消えて行き、私は一口しか食べていない自分のクイニーアマンの身の危険を雄二郎の瞳に感じながら、二口目を食べる。
「………。食べたいの?あげてもいいけど、奈津子と何があったのか、教えてくれないかな?」
私は、物欲しそうな雄二郎の前で、自分の歯形のついた部分をちぎってパンを渡しながら言った。
雄二郎は、パンを見つめながら「わかった」と、頷いてパンを手にする。
それから、ゆっくりとパンを味わってから、私に向かって、はにかみながら「ありがとう。」と、小さく呟き、そして、あの、小銭をぶちまけた日の話をポツリ、ポツリ、と話はじめた。




