アメフラシ
パソコンのキーボードを叩く。
思い出が文字となってよみがえる。
雄二郎が小銭をぶちまけてフリマに来ない事を決め、私達は本来の昔の女子会のようなフリマを楽しもうとしていた…
雄二郎は、奈津子がたまたまつれ来たイレギュラーな参加者なのだ。
だから、女だけで集まり、フリマをする事に抵抗もないし、雄二郎がいなくなる事も誰も気にしてなかった。
雄二郎が消えてからのはじめのフリマが雨で中止になる頃までは。
しかし、それが3週間続くと、話は変わってくる。
日曜にファミレスに集まって私達はお茶をしながら話をする。
その時、奈津子がこんな話を始めたのだ。
「やっぱり、あの噂、本当だったのかな?」
オカルトの枕台詞である。
今時だと、ホラーフラグとか言うのかしら?
嫌な予感に綾子が早口で奈津子にその理由を追求する。
「なによ?それ。」
「いや…雄二郎、あだ名がアメフラシって言うんだよ。」
「アメフラシ?でも、今まで、雨なんて降ったこと無かったじゃない。悪口にしては酷いわよ。」
私は奈津子をにらむ。
雄二郎は、大きな手を不器用に動かしながら、ビーズを八の字編みをして指輪を作っていた。確かに、小銭をぶん投げたのは悪いけど、妖怪みたいな悪口は良くないと思った。
そんな私の抗議を奈津子は黙って聞いていた。
そして、くくっ…と笑い、質問で返してきた。
「アメフラシ…検索してみ?」
はっ(゜ロ゜)?
私は、少し不機嫌にスマホを取り出して検索した。
アメフラシ
別名ウミウシ。
無楯類…むたてるい?むじゅんるい(?_?)の軟体生物…
どうも海に住む、殻の無いカタツムリのような生物らしい。
「これがどうしたの?」
私はナメクジの大きくしたような生物の写真を奈津子に見せる。
「あれ?アメフラシ…しらない?海にいるやつなんだけど、これくらい?少し大きめのサバくらいの大きさのナメクジみたいなやつ。」
奈津子は嬉しそうに不気味な生物について語る。
「知らないわ。」
私は、嫌な顔で言った。
「あ、私は、知ってるよ。苛めると紫の液をプシュッてだすやつでしょ?」
綾子は楽しそうに笑う。
「そう、あれを苛めると雨が降るっていわれてる。」「え?そんなの都市伝説でしょ?」
綾子が非難するように奈津子を見、奈津子はため息をつく。
「そう、都市伝説…みたいなものだけど、雄二郎もそんな感じだったよ。
アイツ、不器用だから、色々叱られて、真っ先に戦力外通告されるんだけど、不思議な事に、アイツが苛められて居なくなると雨が続くんだよね(-_-)
で、ついたあだ名がアメフラシ。」
奈津子は皮肉を込めて笑う。
「でも、いじめてないわよ。私は。アメリカンクッキーを袋一杯あげたのに、雨を降らせるなんて、やりきれないわよ。」
私は不満を奈津子にぶつける。
「それは、私も一緒だよ。大体、遅刻したのは奴なんだから。
まあ、怒らずに。噂なんだし……。」
奈津子は慌てるように私をなだめる。
「じゃあ、ゆーちゃん呼んじゃえば、来週、晴れる?
だったら、私が呼ぼうかな?こんな雨ばっかりじゃ、夏休みが終わっちゃうし…。
うち、商売してるから、遠出できないけど、フリマでごまかせてたけど、さすがに子供たちも、3週間は我慢の限界だわ。」
綾子がそう言って、いきなり雄二郎にメールする。
なんだか、会いづらい私と奈津子は、綾子の行動力にギョッとする。
が、雄二郎から返信はなく、イラついた綾子は雄二郎に電話をかけ始める。
「ちょ、ちょっと…」
心の準備が出来ない奈津子は慌てたが、心配はいらなかった。
しばらくして、綾子が悔しそうにスマホの受話器のアイコンを消した。
「全く…電話くらいでればいいのに。」
綾子は不満そうにスマホを睨み、私はそんな綾子を呆れてみていた。
とはいえ、このままと言うのも良くないので、私も一応、メールしてみたが、やはり、返信は来なかった。
そうして、次の週の水曜日の天気予報が台風なのを見て、都市伝説と化した男に会うことを決めた。
雄二郎の天候スキルはともあれ、長い付き合いの私達にメール一つくれずに消えるなんて、大人としてどうかと思ったからだ。
その日、私は、雄二郎が職安で求職したあとに立ち寄るスーパーへ買い物に行くことにした。
田舎の良いところは、こんな時、行動を予測できると言うことだろう。
スーパーの水曜バザールで、3時くらいに焼きたてパンの100円市がある。
雄二郎は、ここのジャムパンが好物なのだ。




