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ラジオ大賞  作者: ふりまじん
ラジオ大賞
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第八話仕上げ

文化センターのホールは、学生たちの憩いの場でもある。

近くに高校があり、勉強する学生もわりといる。


が、日曜の今日は、少しばかり小さな子供達の姿も見える。


プラネタリウムを見に来てくれたらいいのに。


入場者私1人なんて事がないか、いささか心配になりながら、上演時間を待つ。


今日の出し物は、秋の星座と、アンドロメダのお話だ。


文化センターのフロアーで予定表を見ていると、知り合いの顔を見つける。

「亜美ちゃん!久しぶり。元気にしてる?」

彼女は、綾子の娘の亜美ちゃん。高校二年生。リアルな恋より、2次元に憧れる、まだまだ子供、と、綾子は言っていた。が、お父さん似の少し太めのりりしい眉と、上がり気味の挑戦的な二重の瞳の魅力的な笑顔に、クラスの男子が放っておくとは思えない。

「お久しぶりです。おばさんもお元気そうですね。今日は図書館に来たのですか?」


一瞬、中学時代の綾子に言われたみたいで(こんなに丁寧な言葉は使わなかったが)、固まってしまう。

「ん?違うの。恥ずかしいんだけど、プラネタリウムを見に来たのよ。どう?一緒に行かない?」

照れ隠しに誘ってみると、意外な事に亜美ちゃんは誘われてくれくれた。

「良いですよ。昔、良くつれていってくれましたね。」

亜美ちゃんは、眩しいほどの白くキメの細かい肌に虹色に輝く若さをのせて微笑んでくれた。


かわいいわ。


ああっ。女の子。やっぱり娘がほしかったわ。

私は、亜美ちゃんを見つめて目を細め、うきうきしながら入場券を買う。


すると、受付で入場券を売る宇宙くんを見て気が重くなった。


そうだった。私、亜美ちゃんのお母さんの淡い恋の思い出作りに駆り出されてるんだった。


急に気持ちが重くなり、切符をもって立ちすくんでいると、心配したのか、亜美ちゃんがやって来た。


「こんにちわ。亜美さん。」


背筋がゾクッとするほど、上品で魅惑的な声で、宇宙くんが亜美ちゃんに声をかける。


「こんにちわ、先生。」

困惑ぎみに亜美ちゃんが挨拶した。


なんだか、空気が重く感じるのは気のせいだろうか?


否! 亜美ちゃんの強い緊張感が背後からビシバシ伝わってくる。


動悸もするし、ヘタな心霊スポットより禍々(まがまか)しい空気にやられそうだ。


「あ、亜美ちゃん、ジュース飲みたくない?おばさん、なんか、喉乾いちゃって、買ってきてくれないかな?」

私は、一気にまくしたて、そして、急いでその場を離れた。


ああ、イヤだ。


不倫とか、家族崩壊とか、そういうの、ドラマを見るのも嫌いなのに、


亜美ちゃん、先生って呼んでいた。


その先生に、事もあろうかお母さんがっ、横恋慕(よこれんぼ)うなんて。


倒れるようにフロアーの椅子に座り込むと、オレンジジュースを持って亜美ちゃんがやって来た。


「大丈夫ですか?プラネタリウムに行くのやめますか?」

心配そうに亜美ちゃんが言うけど、やめるわけにはいかないわ。

作品締め切り前のプラネタリウムの上演は今日までで、声を聞く機会は他にない。

「大丈夫。大丈夫だから、安心して。」

私は立ち上がり、プラネタリウムに向かう。


そう、最高の別れの台詞を作品に埋め込んで、亜美ちゃんのママを正気に戻してあげるから。


今考えると、恥ずかしいテンションで、私は椅子に座った。



プラネタリウムの天井に満点の星が輝き、いつもなら、直ぐに星の世界に集中するけれど、今日の私にはすべてがどうでも良かった。


神話の世界のアンドロメダより、私の隣の亜美ちゃんの方が心配だったから。

さっきの緊張感。もしかしたら、気がついているのかもしれない。


女の子はわりと、そういう感が働くのだ。


でも、違うわ、これはお母さんの片想いで、もうすぐ私が、最高の別れの台詞で思いきらせるから。


いつになく集中して、秋の星座の話を聞いてると、かえすがえすも、この人の声のよさが胸をつく。


まさに、小夜啼鳥(ナイチンゲール)という風情の、軽く、深く、心に染みる声だ。


軽く、明るい音に少し混ざる陰鬱さ。


この声なら、惚れても仕方ないと諦めながら、私は、酸素が少しずつ無くなる火星基地で、別れの言葉をさけぶ主人公を思った。


いける、多分。これでいこう。


プラネタリウムが終わる頃、私は、小さな火星探査を終わらせて、亜美ちゃんが困惑するほどアッサリと家路についた。


さあ、仕上げだ。


この気持ちが消える前に、書いて投稿してしまおう。


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