やってみなけりゃ、分からない
昔、テレビで失恋した女性が集まって、失恋の痛手を美しい渓谷で歌いながら思い出の品を投げてやり直す…なんて番組を見た気がする。
勿論、現在では、例え、それが純金のネックレスでも山に投げたら不法投棄となるので、やれないし、その番組も批判されていた気がする。
でも、大人の悲恋と、胸をつくような、それでいて滑稽な、彼女たちの歌は、つい、聞き入ってしまった。
確かに、音程も怪しいし、歌詞も間違うわ、鼻水まみれで泣き崩れるわの滅茶苦茶だけど、
あれは、あれでプロとは違う魂が歌に込められていた。
web小説に例えるなら、誤字脱字や、文章崩壊に当たるのかもしれない。
それでも読ませる小説になってるのは、何か、作者の思いや、人生が滲むからかもしれない。
ここで、登録する際に、活動報告を活用してみよう。と、ガイドが入っていた意味を知った気がした。
つまり、素人のど自慢のイントロで語られる、出場者のプロフィールの部分が活動報告に違いない。
確かに、のど自慢でも、それがあるか無いかで、聞いてるこっちの気持ちも変わる。
婚約者に浮気されて、泣きたい人が歌う、失恋ロック。
長年の片想いが実った人のハッピーソング。
初孫の愛しさを語る演歌。
歌う人の人生を聞いてからだと、やはり、歌に深みがかかる。
では、web小説なら?
基本は作家になりたい…だろう。
でも、私は、作家になりたいわけではないし、
そんな才能はない。
中年の私を出版社が本気でスカウトするとは思わないし、
そんな事を書いたら、誤字、脱字や、色々な厳しい感想がやって来て、話を続けることも難しくなると思う。
ため息がでた。
私は、500円、とりあえず、500円を稼ぎたいのだ。
この厳しい年に、夢のような、とんでもない方法で稼いだ500円。
コーヒー1杯で、パンがついてくる、お得な名古屋のモーニングを食べるための500円。
皆で楽しくご飯を食べる…フリマの仲間との最後の外食……には足りないけれど、でも、今できうる限りの思いを込めて、はなむけに送る小銭…(T^T)
本当は札が良いけど、それは無理だから、
今の全力で小銭を稼ぐの。
なんだか、切なくなる。
500円、スーパーのポイントだって、こんなに苦もなく貯まるのに…
小説でお金を稼ぐって、難しいわ(>_<。)
私は、様々な気持ちに翻弄される。
web小説の読者は、基本、雄二郎の様な男性に優しいんだと思う。
だから、ニートとか、無職とか、ダメ人間が主人公の物語にポイントをつける人が沢山いるんだと思う。
底辺作家にも割りと優しい。
色んな噂を聞いたけれど、この一年、励まされても、心が折れるような、そんなコメントは来なかった。
だから、活動報告でアピールすれば、応援してくれる人だっているに違いない。
ジローの物語なら(-"-;)
私は、ベージュの作業服で軽自動車の運転席で器用に寝ているジローを思い浮かべた。
異世界から名古屋に…
名古屋のモーニングを食べるためにさすらうジロー。
でも、彼の物語は封印するのだ。
雄二郎は真面目に働いて、名古屋に行くと決めたんだから、
恥をかかせるような話をわざわざネットに公表する必要はない。
500円の為に、活動報告まで使ってマヌケをさらす必要はないのだ。
やはり、無理はしないでおこう。
私は、自分の勇者のありきたりの物語で勝負する事に決めた。
その結果が、たとえ50円だったとしても、ありのままポチ袋にでも入れて渡そう。
私は、昔、フリマの売り上げの100円をくれた雄二郎を思い出した。
チェーン店のそのハンバーガーショップでは、100円でハンバーガーからシェイクまで、様々なメニューが当時並んでいた。
消費税分足りなかったけど……
こうなってみると、あの100円が偉大に思えてきた。
不安ばかりだけれど、一万字の物語を作ろう。
私は、老騎士ローランドと主人公の少年を思い浮かべる。
主人公の少年の名前は、日本の探査機から貰うことにした。
1998年打ち上げられたその探査機の名前は『のぞみ』
残念ながら、のぞみは成果をあげる事なくミッションを終了してしまう。
つまり、失敗に終わったのだけれど、
『のぞみ』と言う名前に、東海道新幹線を重ねて、なんだか、運命を感じたのだ。
がむしゃらにやっても、望む結果にはならないかもしれないけれど、
でも、諦めない限り、夢は消えることは無いのだ。
そして、残念な結果でミッションが終了したとしても、
探査機ののぞみは、火星の軌道を回り続けているらしいし、
私も、1円から稼いだ金をため続けるのみだ。
『やってみなきゃ、わからないでしょ?』
雄二郎の決め台詞が頭をめぐる。
この台詞。ドラマだといい感じに気持ちを向上させる台詞だけれど、
どうしようもなく不器用な雄二郎は、皆に反対される度にこの台詞を言いながら失敗を繰り返していた。
「ちょっと、ダメだって私、何度も説明したよね? 」
目覚ましをかけなくても起きられると自慢して、目覚ましに頼らずにフリマに遅刻してきた雄二郎に奈津子は叫んでいたっけ……。
(´∇`)ははは…
昔の懐かしい思い出に、私は込み上げる笑いを止められなかった。
雄二郎は、アンポンタンで、いい加減で、どうしょうもない奴だけど、
失敗しても、逃げずにまた、不器用なりにフリマを楽しもうと頑張っていた。
あのときは、雄二郎がどうしょうもないバカに見えたけれど、
こうして、webで小説を書くことにして、それが、結構、凄いスキルだと思い知らされる。
「ちっ、500円は稼げると思ったのに…私、いい気になってたよ〜」
と、言いながら、屈託なく笑って次を書くメンタル。
私には、そんなスキルはない。
ある意味、雄二郎が羨ましくもある。
追放した勇者を再評価する仲間の気持ちを少しだけ理解したような気がした。
ほのぼのとした、そんな瞬間、私のスマホが鳴り出した。
奈津子からの電話が来た。




