魔法使い
虫除けスプレーをかけていても、蚊の攻撃も激しくなってきたけれど、
現在つかみかけた世界観をもう少し広げる。
やはり、家でモヤモヤと考えるより、外に出るとイメージが沸きやすい。
さてと。
私は一度目を閉じて、深く深呼吸した。
ここで一度、出来上がったキャラクターを頭の中で動かしてみることにした。
現実の何かを芯にすると、物語は立体化する。
私は、シンデレラの魔法使いが、馬車や馬を作る際に、カボチャやネズミを使ったのか感慨深く実感する。
現実の何かを芯にすると、芯にしたモノの時間や設定が、作り出したキャラに深みを与えるのだ。
≪熊出没注意≫の看板は、私にドラゴンへの恐怖感や、息づかいを想像させ、
文字による人間の行動制限の原動力を納得させる。
この看板で先に行けない私は結界と言う魔術を体現しているのだ。
ここで、この先に行ける勇者を召喚する。
児童小説だから、主人公は少年で、危険なこの先に進める条件を整えた少年。
私は、この一瞬で軽くキャラクターを作り、場所をファンタジー風味に脳内変換する。
私をモデルに作る魔女がフードつきの黒いローブに包まれて登場する。
彼女がおもむろにフードをとり、少年に微笑みかける。
と、同時に、私の胸が懐かしさに締め付けられる。
真田先生……
ロマンスグレーの上品な老婦人の顔には見覚えがある。
真田先生。中学時代の文芸部の顧問をしてくださった先生だ。
夢見がちな優しい先生で、『赤毛のアン』憧れて先生になったのだと、よく話してくれた。
真田先生に似た私の魔法使いは、上品な笑みを浮かべながら少年に話しかける。
「ここから先は、私はついて行くことは出来ないのです。」
懐かしい真田先生の暖かい低い声を思い出して、私は目を細めた。
「どうしてですか?」
利発そうな少年が訊ねる。
すると、魔女は少し憂いの含んだ微笑みを向けながら説明を始める。
「ドラゴンを封じる賢者の結界が張られているのです。
私は、魔法使いなので、賢者の結界を越えることは出来ないのです。
伝説の勇者ローラン様の小姓である、あなただけが、この先へ進むことを許されているのです。」
なるほど。
と、流暢な魔女の台詞を聞きながら感心する。
注意の立て看板の先に行くには、役所なり、警察なりに許可をとらなければ行けない。
ファンタジーに変換すると、警察は騎士に、
少年は、伝説の騎士からドラゴンの生息する危険な場所にも行ける資格を持ち合わせている。と、私の頭では変換されたようだ。
ここで、スコッパーに換わる見込み読者のあてを思い付く。
保護者である。
私は、小さな子供は居ないけれど、昔、インターネットの普及と、子供のイタズラ動画で多大な損害賠償を親が負うニュースを見るたびに、何か、良い物語はないかと考えていた。
今から作る物語に、そんな要素を入れられるのではないかしら?
私は、新しい客層を思って嬉しくなる。
王道の児童小説。
保護者の心配事を子供と話し合える、そんな小説をかけたとしたら……
スバラシイ!!(* ̄ー ̄)
児童小説は地味ではあるが、長く愛され、流行り廃りが少なく、
本当に書籍化なんて事になり、
子供の心を掴むことが出来たなら、
全国の小学校と地域図書館がお客様(≧∀≦)
もう…ウハウハでないか。
なんて、一瞬、本気で喜んでしまう。
蚊に刺され、草ぼうぼうの小山の入り口で、暑さにやられた頭をふりながら、私は正気を取り戻す。
そんな夢を見ている場合ではないのだ。
王道のラノベファンタジーなんて。
私は、妄想を頭にしまいながら、主人公の少年が、小太りの中年オッサンの雄二郎モデルのジローに変わるのを見つめていた。
「そんなんで、お金が稼げるわけないでしょ。」
ジローは、ファンタジーの世界でも、ベージュの作業服を来て、≪熊出没注意≫の看板の向こうで左右に揺れながら、口を尖らせて私にどやる。
本当に……。
自分の妄想とは知ってはいても、なんだか、腹が立ってくる。
アンタが二万円を稼いでくれたら、私だって…こんな苦労はしないんだからっ(T-T)
と、文句を言っても仕方ない。
そう、王道のファンタジーなんて書いてる場合じゃ無いんだわ。
私は、頭を切り替えるようにもと来た道を帰って行く。
王道のファンタジーでお金を稼いでも、
それでは、雄二郎が何にもしないで丸儲けになってしまう。
雄二郎の思い出を使ってこそ、アイツが稼いだと、そう言って交通費に使えるのだ。
そうして、私達の友情と努力と、見ず知らずの人達の応援を受けて、食費と宿泊費は自前で稼ぐ気概を見せてほしいのだ。
そんな、昭和のドラマのように、上手く物事が進むとは思えないが、
それでも、今は、それにすがるしか無いのだ。




