表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラジオ大賞  作者: ふりまじん
投げ銭大将
36/111

Show By?アナザーワールド

「それに、目的を先に提示した事は、一部の読者の不快感の緩和の意味もあるわ。

なにしろ、奴の話は…見方によっちゃあ、こっちがいじめっ子に見えちゃうからね。」

奈津子の説明に私も同意した。


フリマで出展していた時、突然の雨で車に待避をしたときだ。

皆、仲間の荷物を一生懸命運んだ。

その時は、私の荷物が多くて…

皆、段ボールを運んでくれたけど、遅れてやってきた雄二郎は、花瓶を一つだけ持ってふらふらと来たのだ。

それが奈津子の逆鱗に触れた。

「はっ?アンタ、それひとつしか持ってこなかったの?」

その言葉に、雄二郎はさらりとこう返した。

「だって…皆が先に持っていったし、それにオレの荷物じゃないもん。」


そう、雄二郎には不用品(うるもの)なんて無かった。

ただ、奈津子に誘われたから来ただけなのだ。


が、友達としてフリマ仲間に雄二郎を紹介した奈津子にしてみれば、この空気読めない台詞で怒りのボルテージを上げる。


「突然の雨なんだから、仲間の荷物を運ぶなんて当たり前でしょっ?

大体、アンタは、スミレに我が儘言ってそば粉のパウンドケーキを作らせて、一人で食べてたじゃないっ。働きなさいよっ、その分くらい!」

年を取っても美人の怒声は迫力がある。

私も巻き込まれて赤面しながら行く末を観察していると、雄二郎は小さく

「ちえっ。」

と、呟き、それを聞き逃さなかった奈津子が、爆発したように文句を言い出した。

雄二郎があざといのは、何となく、遠目に見る人達に、上目使いで奈津子に叱られながら、いい人アピールをしていた事だ。


理由がどうあれ、中年の太ったオッサンが、美人の年配女性に叱られていたら、雄二郎の方に同情票が流れるのだ。


雄二郎の話は、馬鹿馬鹿しくて、腹立たしくて、それでいて、悲哀があって…

今だから、仲間だから笑える物語なのだ。


その辺りを上手くコントロール出来ないと、確かに、読んでいる人に不快感が生まれるかもしれない。


「人に笑って貰える話って、わりと難しいのね。」

私は、色々なエピソードを思い出しながらため息が出る。


「そうよ。だから、はじめに目的を明示するのよ。

私は、奴の恥ずかしい話を暴露するけれど、

そうまでしても成し遂げたい目的があるんだもの。

名古屋に行きたいのよ。

普通の人なら、それほど難しくない、そんな願いだけれど、

我々には、天竺に行くような、遥かに遠い願いだわ。


そして、雄二郎にはその名古屋旅行は、人生…一生一度の友人との旅行なのよ。


10年ぼやき続けた…

夢の名古屋に、小説で稼いだ金なんて、夢みたいな話で叶えるんだわっ。」

奈津子の熱い演説を聞きながら、私は、込み上げてきた笑いをどこへ吐き出そうかと思案していた。


天竺……無駄遣いをしすぎて二万円をどうともできないチンケな雄二郎の話と西遊記の壮大な話が、絶妙に私の笑いのツボを刺激する。


が、真剣な奈津子の気持ちが伝わってきて、笑えない雰囲気だ。


冬の忘年会での『今年こそ名古屋に!』のスローガンから、

春先の雄二郎の失業からの音信不通。


そして、新しい仕事にありついてからの今なのだから、奈津子は自分の怪しげな演説の突っ込みどころなんて考えもしてないのだ。


まあ…私も、これで行けなければ、フリマ倶楽部ノーマジーンのフェイドアウト的な終わりを感じていた。


最後に思い出を作りたい。

それは、皆の願いでもある。


「そうね。」


少しだけ落ち着いた私は、それだけを言った。

でも…やっぱり笑える。肩が声帯の代わりに小刻みに震えるのが分かる。


西遊記…奈津子の三蔵に豚の雄二郎、カッパの人形を手にした綾子に、私が猿?で名古屋を目指す…意味不明な光景が頭をめぐる。

そして、冷静な私が疑問を投げてくる。


そんなにしてまで…名古屋に行かねばならないのか?と。


「でしょ?それに、目的を明確にして儲けたお金って言うのが大事なのよ。

だって、見知らぬ誰かが、私達を応援してくれているって事でしょ?


それで集まるお金は、名古屋に行くことを許された金なんだと思うの。


だから、何があっても名古屋に行くために使うんだわ。雄二郎が電気を止められようと、水道料金が払えなかろうと、このお金は、名古屋に行くために使うんだからっ。」


奈津子の強い覚悟の台詞は、渋い笑いを私にもたらした。


色々あった…


出稼ぎの寂しさにキーボードを買って金がないから行けないと言われたこともある。


電気・水道・携帯料金なら理解できるし、よくある話だけれど、

キーボードの時は、本当に雄二郎の精神が大丈夫なのか心配になった。


男性の更年期とか、買い物依存症について、真剣に考えた。


ある意味、諦めてぼやかないでくれたなら、私達もこんなに気にならないに違いない。


でも…


そんなことを言ったって、もう遅い。


行き着くところまで行くしかない。

二万円を…稼ぐ…

稼げなくても、努力をしなくては、どうにも出来ない所にきていたのだ。



「わかったわ…。書きましょう!そして、頑張ろう。

でも、このままではなくて、話をアレンジしよう。

異世界に………


そう、奈津子の話の二郎、異世界転生させよう。」

私は自分で言いながら、「やってしまった」感にさいなまれた。


異世界転生って……

どうしたら出来るんだろう?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 発想が新鮮で面白いなぁと感じました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ