出会い
鮮烈な出だしで奈津子と雄二郎の出会いの物語は語られる。
それは、ある工事現場のプレハブの休憩所。
工事現場の朝は早いが、
終わるのも早くて、さっさと作業員は帰って行く。 が、設計などの仕事に携わる人間は、事務処理や明日の準備をするために居残るわけで、
私は、居残りの前に自販機で炭酸飲料を買う。
薄暗くなる休憩室で、自販機がこうこうと明かりを振り撒きながら、存在感を誇示し始める。
ガタリ。
ジュースの缶が落ちてきて、私はそれを拾ってプルタブをあける。
プシュッと、景気のよい音が控え室に響く。
私は、ゴザを敷いただけの座敷に座り喉を鳴らしてそれを飲んだ。
初夏の柔らかい夕日にてらされて、オレンジの香りに包まれながら、解放感に酔っていると、ふと、右横に違和感を感じてそちらをみた。
黒いか溜まりのような物が見えて、私は驚いた。
そして、次の瞬間、それが、中年の作業員の男だと認識してため息をついた。
「二郎さん?」
こちらをじっと見つめていた男に私は声をかけた。
四角い顔のしっかりした体つきには似合わない気の弱そうな顔の男が名前を呼ばれて、はにかみながら私に笑いかけて言った。
「それ…おいしそうだね?」
私は、何を言ってるのか分からなかった。
が、彼の視線がそれが何かを教えてくれた。
缶ジュースの事だ。
「私の口つけたので良ければ、飲む?」
私が聞くと、二郎は昭和の子供のような笑顔で、
「いいのっ?」
と、とろけるように笑った。
よくないわよっι(`ロ´)ノ
私は、スマホに向かって文句を言う。
全く…雄二郎の奴…それじゃあ、奈津子と間接キスになっちゃうじゃないっ。
私は、学生時代を思い出しながら、大人げない批判をしている。
間接キスなんて…
ここ何十年と使った事のない言葉が、
逆に、中学時代に気持ちを戻して行く。
少女時代、奈津子に学校帰りに飲みかけのジュースを奪われた記憶がよみがえる。
「少し飲ませてよ。」
そういって、奈津子の唇が、私の飲んだジュースの缶に押し付けられるあの瞬間のドキドキが蘇ってくる。




