幸せを売る女(仮) 13
「懐かしいなぁ…CDチェンジャー」
奈津子はそう言って、娘時代に戻ったようにケラケラとこぎみ良く笑い、私の不機嫌を誘う。
「もう、馬鹿にしてるでしょ?
まあ、いいわ。
貴女だって、同年代だもの。
それに、あの時代、Jポップの黄金時代だと思うのよ。
キラキラの歌がたくさんあって…CDにハズレの曲なんてなかったもん。」
私は懐かしさに目を細めた。
ドラマがあった。
皆が見ている馴染みのドラマ。
主演のアイドルの唇に本気のキスを探した思い出…
そんな懐かしさと学生時代を詰め込んだ歌に送られて、私たちは国道を走った。
今考えると、そら恐ろしいばかりだけれど、
その時は、そんな不安すら楽しかった。
はぁぁっ(´ヘ`;)
私は、色々と込み上げる複雑な気持ちを胸に、片付けを始めた。
それに気がついた奈津子が食器を片付けるのを手伝い始める。
私たちはお盆に汚れ物を乗せて台所へと向かい、
奈津子は話の続きを聞きたがった。
「で、湘南に行けたの?」
興味津々に聞いてくる奈津子を私は苦い顔で軽くにらむ。
人の黒歴史を、そんなに聞きたがらなくても。
不満が込み上げて、
でも、次の瞬間には、中学時代の奈津子を思い出す。
湘南
夏
派手な水着に
イケメンサーファー
思えば、変なものに憧れていたものだと、なんだか痛々しさと愛しさを感じる。
奈津子は、ハイレグ水着に憧れていた事を思い出して、つい、笑ってしまう。
「海には…行ったわよ。
すごぉーく、大変な想いをしてね。
でも、何を間違えたのか、九十九里浜だった……かな?
なんか、知らないけど、千葉についていたわ。」
私はそう言って、深いため息をつく。
そう、私たちは関越道をなんとか進み、途中で休み、昔話をしたりして、明け方辺りに首都高に突入した。
「なぜ?」
奈津子は驚いたように私を見、私は憮然と答えた。
「私のナビが悪かったのよ。」
私のナビと言っても、スマホなんてない時代、
車のナビだって高くて、まだまだ、搭載している車は少ない時代だった。
雪の降る私たちの町では、ナビの前にオートマかマニアルかを選択する事になる。
当時、まだ、マニュアル車の需要はあって、
雪の降る地域では、4WDを搭載するために、東京のひとより高い車を選ぶことになるので、
オートマ車より安いマニュアル車を選ぶひとがわりといた。
私も、そのくちである。
で、あるから、ナビなんて、全然考える余裕なんて無かったし、
そんなものに頼るなんて、車に慣れてない人間みたいに話していた時代があった(///∇///)
道案内は、助手席の人物がやるもので、
道路標識は、令和の時代より、ドライバーにとっては大切な道しるべだった。
私は早く結婚をし、軽自動車を手に入れていた。
一人で富山は勿論、新潟や金沢だって行ったことがあった。
だから、大丈夫だと……
車の運転やナビには自信があった…
首都高に突入するまでは。
そのあとは、良く分からない。
綾子の悲鳴と、複雑な道路標識とマップが頭を回りながら、気がついたらなぜか千葉にいたのだった。
千葉。
湘南より言葉的には魅力が半減するものの、
それでも、沢山の人がいて、早朝だったのに、道路が結構混んでいた。
九十九里浜…か、どうかは正直良くわからないけど、
海ほたるを断念したのだから、東京湾の方の海ではないのは確かだった。
私たちはファミレスで食事をし、
そして、日帰り温泉らしきところで仮眠をした。
綾子はそこまで、休み休みではあるが、一人で運転をし、
諸々の支払いをしてくれて、
それについて、何も言わなかった。
私は綾子が支払いをする度に、軽率についてきた自分を反省した。
「で、結局、湘南には……」
「行かなかったわよ。正確には行けなかった…かな。
海ほたるにも、ね。」
私は、コーヒーのような甘さのある苦い思い出に目を伏せて、それから、皿を洗い始める。
綾子は、湘南には行けなかったけど幸せそうで、
海を見ながら私に
『いっしょに居てくれてありがとう。』
と、ビックリするくらい素直な言葉をかけてくれた。
綾子は、帰りも自分一人で運転し、
時には、助手席で不安になりながらも楽しい冒険をしたと思った。
綾子の家につくまでは。




