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ラジオ大賞  作者: ふりまじん
投げ銭大将
23/111

幸せを売る女(仮)9

怒って家を飛び出した私を旦那は追ってこなかった。


そんな事をしたら、町内中に恥をさらして道路で喧嘩になるだろうし、

サンダルと小銭しか持ってなかった私は、頭が冷えたら家に帰ると考えたのだと思う。


旦那の冷静な行動力や判断に当時の私は惚れたのだが………


時は世紀末


旦那も世紀末の魔物の事まで読みきれなかった。


1999年忘れもしない7の月。


怒りながら川へと向かった私は橋の横のテレフォンボックスの扉を開いた。


大金は無かったけど、小銭があった。

私はそれをみんな公衆電話に入れて、慣れた手つきで綾子のピッチの番号を押した。


公衆電話の緑色の重い受話器から、綾子を呼び出す音がした。


しばらくして、綾子の疑うような「もしもし」の声が聞こえて、私はその声を聞いた途端に思わず泣き出してしまった。


「え?誰?スミレ?寿美礼なの!?」

綾子は驚いたように叫び、私は急いで声をかけようとした………。


ガチャ。ツー


その時、無情にも電話が切れた。

当時、携帯電話と通話するのは、物凄く10円が必要だったのだ。

正確には、綾子の持っていたのはピッチ…PHSといわれた電話だ。


が、そんな事は今はいい。

私は怪談の幽霊みたいに、綾子のピッチにうなり声を残して電話を切ってしまったのだ。


ここで、所持金は一円玉のみになる。

後は、財布に入れてある大好きな映画テレカのみ。



「テレカ……懐かしいなぁ。」

私の話を聞きながらパイプ椅子に座っていた奈津子が笑った。


「ピッチにテレカ…もう、死語なのよね(T-T)


テレホンカードと言い直しても、子供には理解できないわよね。」

私はそう言ってため息をついた。


「いや、2019年まで私製デザインカードの受付はしていたようだよ。

wikipediaによると、1982年から発行されたんだって。」

奈津子がスマホで検索して感心する。

「40年くらいだったのね…テレカの歴史って…。」

私は色々なところからやって来たテレホンカードに思いを馳せた。


当時、テレカは人気があり、景品やらお土産やら、色々なデザインの物が出回っていた。


結婚式の引き出物やら、銀行の粗品、名刺を印刷する人もいた。


小さな頃は、親がどこかで貰ってくる度に姉弟妹喧嘩で騒がしくしたものだ。

と、そんな事はいまは良いのだわ。

話を戻すと、その時、私の財布には大切にしていたテレカが入っていた。


それは学生時代、映画館で買ったアニメのもので、とてもレアで、お気に入りの一枚だった。

これは鑑賞用だったのだけれど……

今はそんな事を考えている場合では無い。


謎電話の主が私と分かった綾子が、実家に電話をして旦那と話したりしたら…

そう考えると、いてもたってもいられなくなった。

仕方ない。


私は決心して、大切にしていたテレカを公衆電話へと入れた。


50と数字が出て、500円分話せると表示してきたが、私はこのテレカを1000円で買っているので、電話をして、カードにパンチの穴があくのは辛い気がした。

今なら…まだ、間に合う。受話器を置いて、家に帰りさえすれば、


と言う、冷静な私も、多分、この時、頭のなかに存在していたと思う。


けれど、私は、電話をする方を選んでしまった。


それだけ、腹がたっていたのか、

恐怖の大王にそそのかされたのか…


とにかく、綾子は私の呼び出し電話に応じてくれた。


7人乗りのワゴン車を転がしてきた綾子は、

「乗りなよ。」

と、なにも聞かずに助手席のドアのロックをはずし、

私は言われるがままにその車に乗り込んだ。


1999年7の月

人類は滅亡しなかったけれど、

この時、家庭崩壊の危機が知らない間に迫ってきていたのだった。


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