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ラジオ大賞  作者: ふりまじん
投げ銭大将
19/111

幸せを売る女(仮)5

意気揚々とテーブルに置いたパスタをみて、奈津子は猫背になって右手の握り拳の親指に、柔らかそうな唇を押し付けて結構な時間、忍び笑いを漏らしていた。


とりあえず、コロナに気を使っているのね(-_-;)


私は、なかなか止まらない奈津子の忍び笑いを不機嫌に見つめながら思った。

私の念が届いたのか、奈津子は笑いを無理矢理止めながら、私を見て謝った。

「ごめん…でも、悪気はないんだ。

なんだか、スミレっぽいなぁって、可愛らしいとおもったら、つい。」

「はいはい、どうせ、私は、少女趣味よ。

ああ、この花、食べられるんだからねっ。」

私は不機嫌に自分のパスタの花オクラを摘まむと、花びらを散らして、フォークとスプーンですべてを混ぜ合わせた。


「そんな風に怒らないで。

これでも、スミレを誉めているんだから。」

奈津子がそう言って、それから、長くて神経質な感じの指で、私より数段優雅に花オクラの花びらを散らし、

飾り立てた食材の姿を壊さないように、こじんまりと端で混ぜながら一口、パスタを口に運ぶ。


私は、夕闇が私達の周りに降り積もって行くのを感じながら、奈津子から目がはなせなくなる。


あんなに笑っていたのが嘘のように、綺麗に料理を食べて行くその姿に、一気にパスタを混ぜてしまった私の方が、ガサツでこの一皿に敬意が無かったと思わせるのだから、奈津子の格好よさには呆れてくる。


中学時代、このギャップに泣かされた女子中学生がどれだけいたろうか?


奈津子は、クラスでもダントツに女子からバレンタインのチョコを集めた人物だった。

でも、貰うときは素っ気ないし、冷たい感じがするのだけど、

それでいて、ホワイトデーにはメッセージ付きの手作りクッキーをくれたり、ギャップ萌えにはまってしまい、三年間を彼女に捧げた少女が続出した。


私も…

ええ、私も、密かに溺れた一人である。


昔を思い出すと、なんだか、気恥ずかしくなって、私はパスタを頬張った。


鯛…うまいわ。


白身の淡白な鯛の刺身が、口の中で噛むたびに旨味がわいてくるようだ。


飲み込むときには鼻先に微かに梅の薫りが立ち込めて、なんだか嬉しくなる。

パスタ、正解!!


と、私は心の中で叫んだ。


「美味しかった。ありがとう。」

いつの間にか食べ終わった奈津子がマスクをして私に話しかける。


私も急いで最後の一口を口にいれてマスクをした。

「まだまだよ。次がメイン、飛騨牛よ、『飛騨牛!!』」

食べ終わった私は、羽が生えたように軽く立ち上がる。


肉は奈津子が来る少し前に焼いて休ませている。


そう、休ませることが出来る厚みのある肉!!


私の胸は高なった。


高級和牛のステーキ。

レアに近い焼き方の、朴葉(ほおば)味噌意外の味付けの、セーブルのお皿に似合う付け合わせで飾られた、私の夢のステーキ!


それは、この家では無理だと思われた一品だ。


私の旦那は、ローズマリーやタイム等の西洋ハーブをあまり好きではない。


海外での生活も長かったので、自宅では和風を好むのだ。


普通の食材で、私達がもめることはない。

けれど、今回のような高級食材の場合は別だ。


あまり食卓に上らない分、お互いにこだわりが捨てられなかった。


若い時は、それが嫌だったけれど、(婿養子の旦那に親は味方した。)

その内、自分がおれて諦めるばかりだった。


確かに、旦那が会わせてくれたときも何度かあったけれど、旦那も、ばあちゃん子に育った息子も、朴葉味噌で食べるの方が美味しいとぼやくのだから、仕方ない。


わがままを通せても、美味しさを共感できなければ、悲しくなるばかりだから。


がっ、奈津子は違う。



西洋ハーブの効いた料理だって、お母さんの教育もあり、十分に堪能できるのだ。


いつの頃からか、庭の雑草と化してしまったローズマリーも、今日は食材として美しくステーキを飾ってくれるはずだ。


結婚祝いに叔母さんから貰った本物の銀のナイフとフォーク。


好きなものを皆詰め込んだメインディッシュに私の夢は膨らんだ。


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