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ラジオ大賞  作者: ふりまじん
投げ銭大将
16/111

幸せを売る女(仮)2

その日、私は飛騨牛を焼いていた。


ステーキである。

付け合わせは、朝どりのとうもろこしに二度濾しのシルクのように滑らかなマッシュポテト。


客間の縁側に買ったばかりの、い草のラクマットを敷いて、並んで月見をしながら、奈津子とディナーを楽しむ予定なのだ。


旦那は今日も釣り。しかも、夜釣りだから朝帰りだ。息子も一緒なので、学生時代に戻って、女同士を楽しむのだ。


飛騨牛…なんて、旦那が居ないときにこっそり食べるのは気が引けるけど、

釣具屋を助けるためとか、わけの分からない言い訳をして、釣竿を買った旦那に比べれば、随分と控えめだと思う。


あんな、細い棒みたいな竿が、銀座のブランド店で見たハンドバッグと同じくらいの値段なんて……。


考えると、納得出来ない気持ちにもなるけれど、

焼けてきた肉の甘い香りが辺りに溢れてくると、無駄な事で腹をたてる気持ちは無くなってきた。


そう、平成が終わり、新しい時代にやっと出番の回ってきた、結婚祝いの対の高級食器を使う時が来たのだから。


19才。仲間内で一番に結婚した私には、みんなの夢が滲んだ祝いの品が送られてきた。


恋を語らう為にと貰ったクリスタルのペアのワイングラス。


フランス製の高級リネンのナプキンに、

マリーアントワネットも愛したセーブル焼の白い皿。


クイーンウェアーと呼ばれた英国の、美しいブルーの一輪挿し。


それらは、皆の温かい思いやりの言葉と共に贈られた。

けれど、同居の私達夫婦の食卓には、一度きり登場しただけで、長い眠りにつく事になった。


それは、両親が長生きして家族が減らなかったと言うことであり、


子供の誕生で高級食器を使えなかったと言う理由でもあるので、幸せな事には違いなかった。


でも、時が過ぎ、両親が他界して、息子が大きくなり、いざ、二人で食卓を囲むことが増えた時には、

少女チックなこの食器に、自分自身が合わなくなっていたのだった。


そんなものを引っ張り出したくなったのは、

あの日、奈津子の変わらない笑顔を縁側で久しぶりに見たことと、

旦那の散財に、ちょっとした仕返しの気持ちも無かったとは言えない。



でも、テーブルセッテングが終わる頃には、そんな事はどうでも良くなった。

フランス生まれの白い皿に夏の夕日がほんのりと紅をさし、

フリマで買ったインド製の掘り出し物のランプの灯りが廊下の闇で存在感を増し始める頃、

スラックスとサマーセーターを来た、平成の王子さまが一升瓶を片手にやって来た。


「ちわ。夕飯ゴチになるから、ワイン持ってきたよ。」

奈津子が無造作に渡すワインを受け取りながら、私は自分の作り出した夢の空間に彼女を誘った。


遠い昔、旦那の為にやったときは、和食が良かったと控えめにボヤかれて喧嘩になったけれど、


奈津子はそんな無粋な事は言わない。


「凄いね。中学時代に書いていた、恋人の食卓を再現したんだね。」


奈津子のセリフに私は報われた気持ちになる。

そう、このプレゼント達は、恋を夢見て語り合った私達の夢。


全然、実用性の無い、少女時代の夢の食卓の再現なのだ。


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