理由
お、落ち着くのよ寿美礼!
私は、私にエールをおくる。
私は、どうしたのだろう?今ごろ、奈津子にときめくなんて(T-T)
台所で麦茶を入れつつ頭を整理する。
体は手際よくお茶を入れ、奈津子のもとへと向かうけど、
気持ちは何故か、いったり来たりを繰り返す。
確かに、コロナが流行り始めた今年度から、旦那は別の部屋で一人寝を始めたけど、奈津子には、たまに、挨拶もしたし………。
いいえっ!
そう言えば、不要不急で半年ぶりにあったのだわ。
私は、その事実になんだか照れてしまう。
そして、奈津子の元についてしまうと、私は、娘のように板間の床を見つめながら、視線を合わせずに麦茶を差し出した。
ああっ。バカみたい(>_<。)
「何してるの?」
様子のおかしくなった私に気がついて、奈津子がからかうように声をかけてくる。
「フフっ。何してるんでしょうね。」
私は、叱られた犬のような気持ちで奈津子をみた。
夕暮れの縁側で、柔らかい夏の残り日を浴びる奈津子は、昔のように綺麗で、清潔そうで、ハチマキが似合っていた。
ハチマキ!?
私は、ハチマキと言うワードで、何かにヒットした気がして、奈津子の額をガン見した。
「な、なに、スミレ、あんた、おかしいわよ?」
奈津子が怪しむ。
「ハチマキ!そうよっ。ハチマキなんだわっ。」
私は、嫌な顔をする奈津子に構わず笑ってしまう。
そう、これだわ。
私は、奈津子の秀でた額を飾るタオルのねじり鉢巻を見た。
そして、不機嫌な友人にこの無礼の言い訳を始めた。
「ごめん。奈津子があんまり素敵だったから。」
「悪かったわね?ハチマキなんてして。」
からかわれたと思った奈津子は、不機嫌そうにハチマキをとく。
「悪くはないわ。
それどころか、昔と変わらず素敵なんだもの。
ほら、子供の頃のアイドルって、みんな、鉢巻きしてたじゃない?」
私は嬉しくなって笑う。
「悪かったわねっ。私は、時代遅れの女ですよっ。」
奈津子がふて腐れる。
「本当に、悪くなんて無いわ。そのジーンズだって、高校の時のでしょ?」
私は、奈津子の履いているスリムジーンズを指差した。
すると、奈津子は穏やかな顔になり、少し照れたように目を細めた。
「ああ…母さんがくれたものだからね。
出来るだけ長く使いたいと思うんだ。」
奈津子の母親は、彼女が高校生の時に病気で亡くなった。
それで、奈津子も京都の大学から、近くの専門学校へと進路を変更した。
奈津子のお父さんは設計士で、一人っ子だった。
お父さんは良いといったらしいが、奈津子がそれを嫌がったのだ。
まあ、この進路が間違いとは言えないのだ。
奈津子も設計士をめざしていて、専門学校も建築関係の学校だった。
学校は、確かに、一流とは言えないけれど、
家で、実践をしながらお金を稼ぎ、留年上等で勉強できるのだ。
ついでに、職人から設計士、経営者まで一流どころに会えるのだから、覚えが早い。
ついでに、年頃の娘と言う事で、嫁不足のあの時代、美人で頭もよく、同業の奈津子は、頼まなくても色んな実践と人脈を集められた…と、田舎の設計事務所では、破格の、と、言う意味くらいなんだけど…でも、奈津子はちゃんと家を守って暮らしている。
「そう言うところ、昔から好きだわ。」
私は、心からそう言った。
奈津子はちょっと驚いた顔をして、それから、中学時代から変わらない、甘いうずきを誘う照れ笑いを浮かべて
「ありがとう。」
と、言った。
私はドキドキする自分に混乱しながら、そ知らぬ顔で笑い返した。
夕暮れの、ひとときの甘い予感。
それを破ったのは、奈津子のスマホだった。
メールが来たと知った奈津子は、慣れた手つきでメールを読むと、立ち上がった。
「ごめん。雄二郎と待ち合わせしてたんだ。
私の小説は、後でメールするから、一度読んでくれるかな?」
奈津子が心配そうに私を見た。
「え?ええ。わかった…。」
私が答えるのを聞いて、奈津子は甘い笑顔と、怪しい予感を残してさってゆく。
私は、奈津子の飲み残しの麦茶を片付けながら、
今まで、こんな気持ちにならなかった理由を理解した気がした。
そう。仕事仲間の雄二郎と奈津子はいつも一緒で、私は、奈津子と二人っきりで話すことなんてなかったからだ。
そこで、雄二郎が、何となく気に入らなかった意味も分かった気がした。




