雄二郎
昼下がりの縁側に私は綾子と並んで座っていた。
昔は家の縁側でスイカを貰ってよく二人で食べた。が、高校生になる頃には、お互い忙しくて縁側で並んでスイカなんて食べなくなった。
いいえ…ダサいから、止めたのかもしれない。
スイカなんて田舎臭い。クレープとかハンバーガーをお店で食べたい。
食べたいけど、CMのあの店は都会じゃないと無いのだから、私はいつも不満だった。
でも、この年齢になると、逆にあの大きなスイカが愛しく感じる。
丸ままの大きなスイカは、家族や友人が揃わなければ買わないものだからだ。
私と旦那は年を取ったし、息子は大人になってしまって、スイカを見て飛び上がって喜んではくれない。
種があるから面倒くさいとか食べないとか言われるだけなので、スイカなんて食べなくなった。
まあ、現在、私と綾子もスイカは食べてはいない。
冷たい麦茶に近くの和菓子屋のまんじゅう。
それでも、引き戸を全開にして庭のアジサイを見つめながら並んでお茶をするのはオママゴトの様なときめきがある。
「なっちゃんに会ってきたのね?」
饅頭を食べ終わると綾子は少し詮索するように私に聞いてきた。
私は綾子に、奈津子に小説を頼まれた事と、ピーター・ラビットの作者がビクトリアンでは無いことを伝えた。
「うん…偶然会って、川原の公園で少し話したんだ。
Web小説で2万円稼ぐんだって言われたわ。
だから、小説を書いてくれって。断ったけど…。」
私は愚痴を言うように口がとがってしまうのを綾子に知られないように直しながら説明した。
「書いてあげればいいじゃない?なんで断ったのよ?」
綾子の答えは、私には意外だった。
綾子も私と同調して雄二郎に甘い奈津子に文句を言ってくれるものだと思ったのだ。
「嫌よぅ。あんな奴。
だって………
アイツ、甘やかすと限度が無いじゃないのっ。
それは…確かに、不運なところもあるわよ?
でも、2万よ、2万円くらい、十年近くもボヤいてるんだから、貯金すれば良いじゃない!」
私は綾子が味方についてくれなかったので、少し攻撃的に捲し立てた。
そう、一番腹がたつのは、とうの本人の雄二郎が無駄遣いばかりで貯金しようと言う気持ちが無いことだ。
「まあ…ねぇ。
確かに、そうだけど、
でも、『思い出を文章にしてフリマをしよう。』と、言い出したのはあなたじゃない?
カッパの絵本だって、まだ、作れてないでしょ?
カッパのモール、沢山あるんだから。」
綾子はそう言って、穏やかに笑った。
あっ…( 〃▽〃)
そうだった…。
私は左目をつぶりながらファミレスで小説サイトに登録したことを思い出した。
確かに、そんな事を言った。
雄二郎もそこにいて、私と奈津子は、例のごとく名古屋ネタで雄二郎をからかって…、
その時、奈津子が雄二郎にこう言い放った。
あんたの為にビーズの指輪とか、色々作ったり、
ガラクタをフリマで売ったりしたけど、名古屋には届かなかったわね。
来年は仕事あるんだし、行けるわよね?
これ以上待たせたら、アンタのお馬鹿ネタを小説にしてこのサイトで売っちゃうんだからっ。
恥をかきたくなければ、2万円くらい、何とかしてよっ。
奈津子はそう言って、私もそれに乗って雄二郎をからかった。
からかわれた雄二郎は、
「別にいいよ。俺。」
と、唇をとんがらせながら言ったのだった。
「確かに、たしかに言ったわよ?
でもっ、あの人、滅茶苦茶なんだもん。
確かに、2011年の不景気で仕事が無くなったりしたけどさ、東北出張が決まったじゃない。
あのとき…
あの時、結構、給料が良かったんだから、2万円ためてくれたら良かったのよっ。」
私は負け惜しみを言った。
奈津子が私に、あんな頼み事をしたのも、あのファミレスでの事があったのかと思うと、少し罪悪感もある。
がっ、込み上げてきたのはそれだけではない。
「雄二郎の奴、毎日牛丼食べて、無駄遣いするからじゃない!
大体、寂しいからってキーボードなんている?!
ふざけてるわよね…。
毎月、家に帰ってくるんだから、キーボードなんて家からもって行けば良いじゃない。
それなのに、あいつは、現地の電気屋で衝動買いしたんでしょ?五台目のキーボードっ。」
私の怒りの台詞に、綾子は笑い出した。
「そうよね…、家に五台もキーボード置いて、どうするのかしら?
まあ、出張先のキーボードは、寂しいから仕方なかったとして、家で四台も使って、どんな演奏をしていたのかしら?」
綾子はそう呟きながら、有名バンドのキーボードの人を思い浮かべて私に身ぶりをつけて説明する。
上下に二台、左右に二台、ハンプディ・ダンプティのような丸い雄二郎の不器用な両手からテクノポップな曲が生まれるところを想像して、私もその矛盾につい笑ってしまう。
「まあ、なっちゃんが必死になるのは少しわかるわ。
雄二郎さん、関東の出張の仕事、コロナで無くなったらしいわ。
311からやっと、落ち着いて、オリンピックの景気で余裕が出来ると思っていたのにね。」
綾子の言葉に胸が少し痛んだ。
12月、まだ、コロナなんて知らなかった頃、
私たちは、忘年会の集まりで雄二郎の来年の予定に浮かれていた。
奈津子は嬉しそうに何度も言っていた。
「今年は名古屋に行こう!今度こそ、無駄遣いしないでね。
約束だからね。
お金がたまらなかったら、本当にアンタの間抜けな話をインターネットで売っちゃうんだからねっ。」




