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ラジオ大賞  作者: ふりまじん
投げ銭大将
10/111

ビアトリクス

本気……だよね?


私は隣で不機嫌そうに座っている友人を盗み見た。

ここは川原。

私たちの町の憩いの場所である。


バブル時代の河川工事で頑丈なコンクリートに川岸は補強され、私たちはその白いコンクリートに座って川の流れを聞いていた。


川の流れる音は昔のままだけど、時は川にそって作られた公園とジョギング用の舗装された道、そして、我々の顔に重ねた年を刻んだ。


デパートにハイレグの水着を買いに行くんだと、嬉しそうに湘南ドライブの野望を語っていた中学以来の友人 奈津子(なつこ)の尻を年齢の分だけしぼませて、

私の目元には笑うたびに薄い溝を三本もほりこんだ。


アフターコロナもあって、我々は少し他人行儀な距離感で座り、

20代の悩みのような話をする。



フリマの仲間で名古屋に行くためにお金を稼ぎたい。

インターネットで小説を書いて。




青春…と言うか、青秋と言う苦味の含んだ甘酸っぱさに絶句する。


「本気なの?」

私は言葉の隠し味に嫌な気持ちをプラスした。

「書けないなんて言わないわよね?」

奈津子は隠すことなく言葉に脅しのスパイスをぶちこんで投げてよこす。


奈津子は昔から好戦的な性格だった。

親分肌で、中学時代、掃除をサボる男子とよく箒で戦っては先生にしかられていた。


「書かないなんて……いってないわよ?

でも、私なんかが書いたって……ほら、私、ブックマークも一桁の…底辺作家って奴だから。」

このとき、私は自分が底辺作家であることを良かったと思った。


奈津子の目標は、ポイントやら、アクセス数で商品券とかが貰えるサイトで小銭を……二万円稼ぐことだからだ。


昔、友達に頼まれて『ラジオ大賞』に作品を投稿したことがあるが、その時は期間があって、落選したらそれまでだったけれど…

二万円のポイントを稼ぐとなると、稼げるまで終わらないと言うことに違いない。

評価もアクセスも少なかった私が二万円を稼ぐためには、一体、どれくらいの文字数が必要で、終わりがくるのか分からない。


「じゃあ、書いてよ。とりあえず、何かを始めないといつまでも名古屋なんてたどり着かないんだもん。」

奈津子は眉間にシワを寄せて困った顔で言う。

「わ、私が書いたってたどり着けるかわからないし…

そ、それにっ、

そうよっ。奈津子、あなただって中学時代文芸部だったじゃない!

ほら、昔、婦人会のblog作っていたじゃない。

確か、アクセス数は、私なんかと違って一日100件はあったじゃない。

そうよっ、自分で書いたら良いじゃない。」

私は面倒を避けるように言葉を奈津子に押し付けた。

奈津子はそんな私に反論しなかった。


一瞬、困ったように私を見て、それから皮肉げに笑って諦めた。


「婦人会の…地域促進blogね。懐かしいわ。

あの時はよかったわよね?新年度に向けて、観光客を呼び寄せる事だけ考えてさ、補助金も沢山もらえたもの。

あのあと、地震なんて無かったら。

はぁ…まあ、仕方ないわね。分かったわ。頑張ってみるわよ。」

奈津子は中学時代から辛い事を振り切るしぐさで空を見上げ、それから、何事もなかったように穏やかに笑いかけ立ち上がった。


私は、その様子に胸が痛くなった。

2011年の災害多発で、私たちの町も色々なイベントが無くなった。


フリマもその時にほとんどのイベントから姿を消し、そして、私達もそんなに頻繁に会うことは無くなった。


名古屋にいく。


これは私たちの長い間の夢だった。


2万円…安くはないけど殆どのメンバーが出せない金額ではない。


でも、その2万円を作れない人物もいるのだ。


雄二郎(ゆうじろう)


フリーの建築家?で、中年独身のオッサンである。この人、私たちのフリマの仲間なのだが、

漫画の熊のように呑気でいい加減な男なのだ。

奈津子は奴の為に2万円を用意したいんだと思う。

でも、私はアイツのためにそこまではする気は無い。


「そうだ、スミレ、あなたの作品読んだわよ。面白かったわ。でも、ポーターは、ビアトリクスよ。

ビクトリアンは英国の女王様よ。じゃーね。」



(//∇//)あああっ


私は、友人に作品を読まれた事と、ピーターラビットの作者の名前を間違えたまま一年も作品を晒していた真実に石化してしまった。




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