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ラジオ大賞  作者: ふりまじん
ラジオ大賞
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第一話 ビクトリアン

登場人物

寿美礼 主人公

高妻 綾子 寿美礼の友人



まいったよなぁ。


両手で頬を押さえながら、私は川を見つめていた。

遠くには山が見える。どこにでもある風景だが、私にとっては特別の風景だ。なぜなら、ここは故郷で、この川原で、小さい頃から幾度となく、こうして途方にくれたからだ。


跳び箱が飛べずに悩んだこともあるし、


進路について考えたこともある。


勿論、恋についても悩んだし、


友人と喧嘩もした。


小学生の頃、藪だったのに、高校生になる頃には、美しく舗装され、素敵な未来を感じさせた石畳や橋は、現在では古びて、少し(さび)れた雰囲気を漂わせていた。


「私の(作品の)物語を作ってくれるのよね?」


友人の台詞が頭の中をプレイバックする。


あれは、8月の事。


久しぶりに集まった趣味の仲間に言われたのだった。

ああっ。思い出すだけで胸がいたい。まさか、作品を催促されるなんて、考えても見なかった。

私の趣味はフリーマーケットの出展で、仲間が6人くらいいる(多分)。

で、近年の災害やら不景気で、フリーマーケットのイベントがなくなり、そんな時に文学のフリマなんて言葉に踊らされ、ログインしちまったのよ。WEB小説とやらに!


あーあ。今考えたら、よせばいいのに、フリマのグループ名で登録したので、なんだか、おかしな展開(こと)になってるわけだ。

私は頭を抱えてしまった。


頭の中で友人が再び私を責め立てる。


「ビクトリアンにしてくれるんでしょ?」


ひゃぁぁ。思い出すと頭が痛くなってきた。


ビクトリアン。ビクトリアン・ポーター。

ピーターラビットの産みの親だ。


「ったく、上の名前で言わなくたっていいじゃん。」

思わず、リアルな言葉が漏れて辺りを見返してしまう。草の生えたひなびた川原で、くたびれ果てたTシャツのオバサンが独り言なんて、不気味以外に感想はない。小学生に見つかって、妖怪に進化させられてはたまらない。


なんて事にはならないか。


安心と、少し寂しい気持ちを抱えて唇を噛み締めながら川を見つめる。


そう、少子化だ。川で遊ぶ子供なんて見かけない。老人だって最近じゃ、カッパの目撃情報ほど見かけない。


激しい過疎化を目の当たりにして、複雑な気持ちで川の流れを見続ける。


つい、この間までは、こうして川を見ていると、知り合いや、知らないオッサンが声をかけてきたのに。

心が切なく締め上げられて、ふと、年のせいか涙が出そうになる。

誰も通らない道。人が消えて行く町。

私がオバサンになったから、声がかからなくなった訳ではない。

これは過疎化だ。

そうなんだ!


ビクトリアン・ポーター。


なれることなら、なりたいよ。


私は川に向かって苦笑する。

ポーターは、ピーターラビットで儲けたお金で、故郷の自然を守ったのだ。


「私たちには、ありふれた、つまらない風景だけど、あなたの河童(こどもたち)が遊ぶ物語は、誰かの夢になるかもしれないわ。ピーターラビットのお話だって、ポーターが甥を喜ばせるために書いた手紙から世界に飛び立ったのだから。私が河童(このこ)の物語を作るわ。そうして、この町を冒険する写真をとるの。で、世界に発信しましょう。」


あああっ。なんであんな言葉が、つるっと口から飛び出てきたのか。

私は、別の意味で泣きたくなってきた。

まあ、どんな形であれ、小説なんて書いてるわけだから、クサイ台詞の一つや二つ、飛び出てくるような性格なんだとは思うけど、なんで、あんな事を言っちゃったかな、私。


と、川を見つめて悩んでいても仕方ない。口に出しちゃった以上、書き上げるのが、一番はや道だ。

別に入選しろとは言われてないし、言われたところでどうにもならないのだ。

ここは、三万文字、サクッと書き上げて実力を再認識してもらうしかあるまい。


そして、評価を下降修正してもらおう。


が、今回のお題は、『プラネタリウム』田舎の図書館に併設された小さなプラネタリウムで上演できるお話なのだ。


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