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〈二〉父と母は問題多き人だった!! 私は失踪する幼児だった!!




やあ、よい大人のみんな!!

私は愛の戦士ヨロズヤマンだ!!

愛の戦士といってもハニーフラッシュは使えないんだ。

お色気の足りないヒーローですまない!!


でも、必殺技は持っているぞ!!

父直伝のゴールデン・スマイルだ!!

ハンサムな父はこれを武器に、山師や詐欺師や女性のヒモなどをして生きていた。

私はこれを武器に接客営業の仕事をしたりした。


 

今日は、私の仮の姿、エッちゃんの幼児期を振り返ってみたい。

どこから話すのが適当かな?


まず、エッちゃんの父と母がどんな人であったかを浮き彫りにしてみよう。



   *



エッちゃんの生まれる四年程前から、エッちゃんの父と母は同棲していた。

正確に言うと、母の下宿の四畳半に父が転がり込んでヒモをしていたのである。


彼は色んな仕事を渡り歩いた人だが、この当時は設計図を描く仕事をしていた。

そして給料は全部自分で使ってしまい、母には一銭もあげなかったそうである。


そればかりか、母に金をせびっていた。もらえないと実力行使に出た。


母が仕事から帰ってくると、天井裏に隠しておいたお金がなくなっていたり、洋服ダンスが空になっていたりしたそうである。


そうして得た金や給料を彼は競馬や競輪につぎ込んだ。



そこまでされても、エッちゃんの母は泣き寝入りをして、父を追い出せなかった。

何度も言って悪いが、バカだ。

他の女性達は父を一〜二年で見限って追い出しているというのに。


エッちゃんの母はよく働くが、自分で自分を守れない人で、父にはいいカモだったのである。




エッちゃんは父が亡くなった時に戸籍謄本を取り寄せて、その戸籍の汚さにげんなりした。


彼はなんと五回も婚暦があったのだ。

それもほとんど一〜二年で別れている。


エッちゃんには腹違いの姉が二人もいた。


おそらく一緒に暮らして籍を入れていない女性はもっといたに違いない。

彼は女性の家を渡り歩き、寝床にして生きていたのだろう。


彼はハンサムな上にゴールデン・スマイルという必殺技を持ち、会話は明るく、ファッションはお洒落で、社交ダンスも踊った。

彼の本質を知らない女性からはきっとモテモテだったろうな。

 

 

さて、その戸籍謄本を見てみると、エッちゃんの母の前に籍を入れていた女性と別れる前から、エッちゃんは母のお腹にいた。

書類上、エッちゃんは不倫の子ということになる。



実際は、エッちゃんの父は母がありながら別の女性とも暮らし、そちらの女性とは籍を入れたのである。

このことから、当時彼にとってエッちゃんの母はキープにすぎないことがうかがえる。


そのうちエッちゃんは母のお腹の中で人生を始め、彼女の父はもう一人の女性と離婚し、母と籍を入れた。

エッちゃんの存在が、なあなあで暮らしていただらしない一組のカップルを、父と母にしたのであった。




エッちゃんが産まれる時も一悶着あったそうだ。


エッちゃんの母は愚かにも、分娩前、入院費を入れたバッグを病室に置きっぱなしにした。

もちろん夫はその金を持ってドロンし、母は分娩後、新生児のエッちゃんを抱いて下宿に帰るしかなかった。


四年も一緒に暮らしながら、母は夫がどういう人間か分かっていなかった。



インディアンの言葉にこんなのがある。


「蛇は蛇だ」


蛇に情けをかけたところで噛まれるのである。蛇は蛇だからだ。


エッちゃんの母は、それが分かっていなかった。

エッちゃんの父は蛇だ。蛇としてしか生きられなかった人なのである。


エッちゃんの母は自分で自分を守れず、蛇を飼っていたくせに噛まれて痛いと泣き、宗教にすがった。宗教に守ってもらおうとした。

父も性格に問題があったが、母も母だ。働いていた割には自立できていなかったのである。



エッちゃんの最古の記憶は、赤ん坊の頃母におぶわれて、母の肩越しに見た白い富士山である。


富士山がよく見えるところに母の宗教の本山があり、エッちゃんはキリスト教で言うところの洗礼のようなものを受けた。

エッちゃんにとってはいい迷惑だ。


おかげでS学会の名簿にはいまだにエッちゃんの名前が載っているのだ。

エッちゃんは母が亡くなったら、早々に脱会しようと思っている。





話を戻そう。


エッちゃんが産まれて五十日目、エッちゃんの母はまだ首の座っていないエッちゃんをおぶって、薬局に勤めだした。

薬局の奥の間にエッちゃんを寝かしておいて働いたそうである。


その生活は一年くらい続いた。

激貧だったらしい。



エッちゃんは斜頸──つまり首が傾いた状態で産まれたので、十ヶ月も病院通いだったそうだ。その治療代も馬鹿にならず、エッちゃんの母はお乳が出なかったのでミルク代もかかった。


その上エッちゃんの父は相変わらず妻にぶら下がって賭事に熱中していた。



こんなエピソードがある。

エッちゃんの母は食べるものがなくて、エッちゃんをおぶって野っ原に行きセリを摘んできた。

ところが、そのセリを茹でるための塩がなかったのである。

その時は塩を買うお金もなかったそうだ。


そしてエッちゃんの父は、妻の親戚中に大変な借金をしたそうである。

もちろん使い込んだ。

エッちゃんの母は泣く泣く自腹で返して回った。




そろそろ子供連れて逃げろ、と思うだろう?

それができないのがエッちゃんの母という人だ。


本人は無自覚だが、夫に依存心があったのである。自分で自分のことが決められなかったのだ。

その証拠に、他の女性はみんな父を追い出すことに成功している。


エッちゃんの父にとって、こんないいカモはいない。


その上、エッちゃんはそれはそれは可愛い子供だった。(いや、これは親戚のおじさんの証言なのだが・笑)

エッちゃんは幼児の時、父が帰ってくるとお帰りなさいのキスをしたそうである。エッちゃんの父は彼女を溺愛した。

彼女を可愛がり、いい父親になろうとした。


だが、しょせん蛇は蛇だ。彼は善人の一面も持っていたが、相変わらず妻にぶら下がり、人をだまし、蛇として一生をまっとうした。


まあ、その話は追い追いするとしよう。




エッちゃんが一才半くらいの頃から彼女の母は看護婦として病院に勤めだした。


その病院に住み込みの看護婦さんがいて、子供とおばあさんも一緒に暮らしていた。

そのおばあさんが自分の孫と一緒にエッちゃんの子守をしてくれたのである。


だから、エッちゃんが感情を持つ頃に影響を与えたのはそのおばあさんだ。

きっと言葉もおばあさんに教わった。


おばあさんの孫、つまり当時のエッちゃんの遊び相手だった子のことを、エッちゃんはおぼろげに憶えている。

同い年くらいの男の子だった。切れ切れの思い出の中では、とてもいい子だ。


三歳くらいまで、エッちゃんはそのおばあさんに育てられた。



エッちゃんの母はとにかく働くのに必死で、エッちゃんに寝場所と食べ物を与えるだけで精一杯だったらしい。


だが、休みの日はマメに色んなところに遊びに連れていってくれたそうだ。


その割に、エッちゃんは母に可愛がってもらった気がしないのだ。

エッちゃんの記憶に残る母は怖くて不愉快な人だ。

強い力でつかまれ、怖い顔でにらまれて、叱られてばかりいたような記憶が多い。


幼児の頃の母と一緒に写っている写真は、決まってエッちゃんは困ったようなしかめっ面をしている。



そのせいなのか、エッちゃんはよく失踪する幼児だった。決まって彼女の母と一緒にいる時だ。

ちょっと目を離した隙にすぐどこかへいってしまったそうだ。


推測だが、たぶんおばあさんと男の子のところに帰りたかったのだろう。

エッちゃんは幼児とは思えないほど遠くまで失踪したそうである。




一度なんかは電車を止めてしまった。


エッちゃんが二歳くらいの時の話だ。

エッちゃんの母は、エッちゃんを連れて役所に手続きに行った。


目を離した隙にエッちゃんは失踪し、役所のすぐ側にあった線路に入って座った。

駅から走り出したばっかりの電車が急ブレーキをかけてエッちゃんの鼻先で止まった。


あわやこれまで、という事件だが、エッちゃんは目の前で止まった電車に怯えることもなく笑っていたそうである。


フッ、さすがのちにヒーローになる子供だ。ギリギリで強運に恵まれている。



エッちゃんの母は言う。


「普通、小っちゃい子というのは母親から離れないものなのよ。なのにお前ときたら…」


これを聞いてエッちゃんは確信した。

幼児の頃、エッちゃんは母を母だと思っていなかったのだ。

絆はこの時点で断ち切れている。その後も回復していない。


エッちゃんはいまだに不思議なのだ。


父はまさしく父親で血をもらった気がするのに、母からは血をもらった気がしないのだ。


母が余生に入っている今をもってしても、意思の疎通が困難なぐらいだ。


エッちゃんと彼女の母親は互いに相手が何を考えているのか、いまだに分かり合えていない。


 

 

幼児期のエッちゃんの性格が観じられるエピソードがもう一つある。


エッちゃんの父と母がエッちゃんを連れて遊園地に行った時だ。


あまりにエッちゃんが好き勝手に遊び回るものだから、父と母は隠れてみたのだ。

泣き出して「とうちゃん〜、かあちゃん〜」と呼ばれることを期待したらしい。(笑)


ところがエッちゃんは父母がいなくなったのをまるで気にせず、やっぱり好き勝手に遊び回って、写真を撮っている人達の中にちゃっかり入って写真を撮ってもらったりした。


いつまで経ってもエッちゃんは好き勝手に遊び回り、結局期待通りにはならず、エッちゃんの父母の方が根負けして出ていったのだ。



思うに、エッちゃんはあまりに他人に預けられてばかりいたので、特定の保護者というものが概念になかったんじゃないかな?


困ったことは近くにいる人に頼めばいいくらいに思ってた子だったんだろう。

あと、地の性格として怖い物知らずだったようだ。




う〜ん、ちょっと長くなったな。今日はこの辺にしておこう。


次回こそはエッちゃんの保育園時代を語りたい。

保育園はエッちゃんの楽園だった。

まさにその後愛の戦士になる基礎を築いた時代であり、語るのが楽しみだ!!




では今日も私は愛のために闘いに行く!!

さらばだっ、とうっ!!




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