2.四魔神の動向
「カイル様、大変ご迷惑をおかけしました」
「ココさん。ずいぶんと長い間休んでたけど、体調はもういいの?」
「はい。自分でもここまで長引くとは思ってもみませんでした。それでも、もう体調は万全です。ただ――」
「ただ……?」
「いえ。寝込んでいる間に、変な夢を見まして」
「変な夢……。それって、どんな?」
復帰したココさんと話していると、そんな言葉が出てきた。
こちらが首を傾げると、彼女もまた顎に手を当てて考え込むのだが……。
「……いいえ。すみません、大したものではありません。大丈夫です」
一言、そう口にして去ってしまった。
遠くなっていくココさんの後ろ姿を見ながら、ボクはもう一つ首を傾げる。なにか引っ掛かる部分はあるのだが、特に気にするものではないかもしれない。
そう考え直して、ボクは次に昨日のことを思い出すのだった。
「四魔神――宵闇のレーナ、か」
それは、あまりに突然な宣告。
数日前に忠告を受けてから、あまりに早いそれだった。
ハリエットがこの街にいたから、また彼女がボクたちのパーティーいたから。それらの理由があったから告げられたものだが、どうすればいいのか分からなかった。とりわけ、一般人であるボクなんかにとっては……。
「おはようございます! 先生!!」
「ん、あぁ。おはよう、ハリエット」
そんな風に思っていると、この問題の中心にいるであろう人物が話しかけてきた。その少女――ハリエットは、まだピンクの寝巻きを身にまとっている。
元気な挨拶とは裏腹に、小さな欠伸をして目をこすっていた。
「いよいよ、四魔神との戦いが始まりますね!」
だが、気持ちはすでに前を向いているらしい。
一つ息をつくと、彼女は両手拳をぐっと握ってみせた。
「まだ、調査してほしい――ってだけだよ。焦らないようにね?」
「あ、はい! すみません、先生!!」
ハリエットの言葉に指摘を入れると、彼女は背筋をピンと伸ばした。
その様子に思わず苦笑いをしていると、今度は正反対な少女がやってくる。
「うむ。やはり、お主は朝が早いのだな――カイルよ」
「おはよう、レミア。そっちも今朝は早いね」
「あぁ、おはよう。いいや、少しだけ考え事をしていてな。そのせいもあってか、ほとんど眠れなかったのだ」
「考え事……?」
「なに、お主が気にすることではない。だが、それとして――」
訊き返すと、真っ赤な少女――レミアは首を左右に振った。
そして、ちらりとハリエットを見て……。
「どうして、その小娘は常にカイルに引っ付いているのだ」
そう、棘のある口調でそう言った。
「小娘、って――ハリエットのこと?」
「うむ。どうにも気になってな」
ボクが訊ねるとそう頷くレミア。
それを受けて、視線をハリエットに移した。すると――。
「ふ……素直になれない自分が憎いのか? この年増」
「なっ……!? とし――」
そのタイミングで、青髪の少女が爆弾発言を口にした。
こちらも驚く。だが、誰よりも面食らったのはレミアだろう。
彼女は目を見開き、口角を吊り上げて、こめかみをピクピクと動かしていた。驚愕から憤怒へと、その感情が推移していく様がよく分かる。
そうやって、本日もまた二人の間にはバチバチと――。
「カイルさん! おはようございます!」
「げ……このタイミングで」
その時、やってきてしまった。
ボクの中で、こういう時に最も面倒な存在が。
その人物――エリオの方へと振り返った。しかし、その時にいつもとは違う、真剣な面持ちの少年の様子に気付く。手には書類の束。
彼は少しだけ疲れた表情を見せながらも、ボクのもとへやってきてそれを手渡してきた。見出しは『四魔神――宵闇のレーナの動向について』というもの。
「エリオ、これってまさか……」
「僕の情報網を最大限に使って、昨日の話から推測できること――そこからレーナが何をしようとしているのか。それらについて、纏めてみました」
しれっと、口にしたエリオ。
なんでもないこと、と言わんばかりである。
そんな自身の異常性なんて置いておいて、少年はこう続けた。
「他のお二方も、覚悟して聞いて下さいね?」――と。
その言葉に、少女二人もさすがに矛を収めた。
そして、エリオの言葉を待つ。ボクは一つ唾を呑み込んだ。
少年はボクたちに目配せをしてから、調べ上げた情報から結論を導き出した。
それというのは、まさしく風雲急を告げるもの。
「四魔神の一人、宵闇のレーナは――」
一度、そこで言葉を切り。
「間違いなく。この街に、向かっています」――と。
そう断言した。




