1.どこにでもあるような花
――「ねぇ、どうして殺したいの?」と、声は問いかける。
――「だって、それは不平等でしょ」と、声は返答した。
それは、闇の中で繰り返された問答。
一人の少女の中で繰り広げられた、数十年に渡る根本の疑問だった。
彼女の心は求めている。彼女の心は乾いている。彼女の心は――壊れている。
宵の闇がその身を包み込む度に、少女の心はそれよりも遥かに深い闇によって包み込まれた。そして、日によって新たな自分が新しく問いかけてくるのだ。
『なぜ、殺したいのか』――と。
『なぜ、憎みたいのか』――と。
その都度、少女は無垢な気持ちで応えた。
「だって、それは不平等でしょ」――と。
それは紛うことなき真実だ。
偽りのない彼女の心情の発露であり、カタチだった。
ならそれを誰が否定できようか。然り――誰にも、否定できない。
「オレは、殺したいの。なにがなんでも殺したい。そのために、強くなったの」
夢か現か。
あまりに半端な状態で口にした。
どうやら、今宵も問答の結論は同じだったらしい。清々しい気持ちで、緑の髪をした少女は大きく欠伸をするのだ。ネグリジェを着崩したあられもない姿。
それでも、そんな少女のことを咎める者は周囲にいなかった。それこそが彼女の力の証明であり、同時に悲願達成への道しるべ。
「んーっ! 良い朝――って、オレが言うのは変なのかなぁ」
小柄な体躯に、似つかわしくない豊満な身体つき。
あまりに無邪気な子供。そんな印象を抱かせる口調や仕草に、その顔立ち。
笑顔で窓の外を見るその眼差しの先には、枯れた木々があった。少女のいるこの場所では、命が生まれ落ちてはすぐに潰える。真に強き者のみ生き残る。
その中において、彼女の存在は改めて異様だと、そう云えた。
「これでもヴァンパイアの端くれだから、日差しは身体の毒のはずなんだけど――そんなに嫌いにならないんだよね。むしろ気持ちいいし、うん」
はだけた鎖骨から胸のラインをなぞりながら、そう独りごちる少女。
寝癖のような髪をいじり、一つ気合を入れるのだった。
「まぁ、いっか。こんな強い身体に産んでくれたママに感謝、ってことで!」
――ぴょん、と。
ベッドから飛び降りた。
そして、鼻歌まじりに洋服を物色する。
今日はどんな衣装にしようかしら。
あぁ、これでもない。昨日も同じようなものだったから。
そんな声が聞こえそうな、そんな陽気なメロディが刻まれていた。
「よ――いしょ! 決めた! これで、偉い方にお見せしても恥ずかしくない!」
そう言って、少女が取りだしたのはフリルがふんだんに使用されたワンピースドレス。真っ黒な色合いから、ゴシックロリータと、そう表現もできるかもしれなかった。せかせかと着替えつつ、彼女は独り言を口にする。
「アビスの奴が言ってた話が本当か、まだ分からないけど――もしかしたら王様になるかもしれない、そんな方に無礼な姿は見せられないもんね!」――と。
そして、くるりと回って不備がないかを確かめた。
おまけに、ドレスの端を摘まんで軽くポーズを決めてみる。その時だった。
「おはようございます。今朝は、ずいぶんとご機嫌なようで」
配下の者だろう。
深々と、恭しく礼をしたその者は彼女の名前を口にした。
「レーナ様」――と。
少女――レーナは、その声の方を見て微笑む。
「えへへっ!」
その笑顔は、人間の中でもよく見かけるそれだった。




