4.次期勇者との鍛錬
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「それで、その女の子は何なんです?」
「あぁ、紹介するよ。ハリエット、ほら」
「うむ。儂の名はハリエットだ。光栄に思うが良い!」
「いいえ。そういうことではなくて、ですね? どうして、そのハリエットさんが、僕たちの愛の巣――ごほん。家の敷居を跨いでいるのですか?」
家にハリエットを連れていくと、偶然にもエリオと遭遇。
ボクとレミアの後方に立っている彼女の存在に気付くと、明らかに不機嫌な表情を浮かべてそう訊いてきた。その理由は分からないが、とりあえず紹介する。
しかし、そうじゃないんですよ、と言わんばかりに彼はこう言った。
「噂では聞いてましたよ。その人、勇者候補のハリエットさんで――」
「候補ではない! 次期勇者だ! 間違えるな!!」
だが、それを遮るようにハリエットが声を上げる。
少年は疎ましそうに少女の声に眉をひそめ、一つ呼吸を置いてから……。
「……その次期勇者さんが、どうしてこの家にやってきてるんですか? 宿ならギルドからいくらでも提供されるでしょう? なんですか、どこまで優しいんですか? そんなところも大好きですけど、少しは節操というものを考えてください」
「お、おー……」
あまりに、あまりに真っすぐに。
早口で投げられた言葉の数々に、ボクはたじろぐしかなかった。
するとそんな様子を察したらしく、ハリエットがずいっと前に出て答える。
「その方は、名をなんという?」
「エリオですけど」
「そうか、エリオとやら。これは儂からカイル殿にお願いしたのだ」
「……お願い?」
何故か胸を張って、ハリエットはこう宣言した。
「儂を弟子として、短い間だけでも鍛錬つけてくれないか、とな!」――と。
◆◇◆
――そうして、数十分後。
ボクは中庭でハリエットの鍛錬に付き合っていた。
「………………」
「どうしたのですか、先生!」
「……え、いや。どうにも視線が痛くて、ね」
「視線……?」
背中にレミアとエリオ、そして何故かニナの視線を受けながら。
彼らは各々に距離を置いて、しかし明らかに熱のこもった目でこちらを見つめていた。いいや、見つめているなどという生易しいものではない。
それは、間違いなく監視だった。
――いや。二人きりになっても、ボクは何もしないよ?
「まぁ、いいか。それじゃ、とりあえず――本気で打ってきてくれる?」
「え、大丈夫なのですか? 先生に怪我でもさせたら……」
「大丈夫だよ。避けるのは得意だから」
「そう、なのですか」
しかし、気にしていても仕方ない。
ボクは少女に向かって、そう指示を出した。
少しの抵抗はあるらしいが、ハリエットは一つ頷いて剣を構える。
「では――失礼します!」
そして、一つ息を吸ってから――距離を詰めてきた。
眼前に迫りくる彼女の青い髪。風になびいて仄かに香るのは、女の子らしい柔らかなそれ。でもそれに気を取られることはない。
ボクはハリエットの繰り出した刺突を半身になって躱した。
続けて横薙ぎ一閃。
今度は身を屈めて小さくなり避けた。
そして、そのまま前転して距離を取る。
「――――――――!」
こうなるとボクの背中ががら空きだ。
ハリエットも、そのことに気付いたらしい。
後方から一歩――最低限の歩数で距離を縮める相手の様子が分かった。実に無駄のない攻撃動作。十四歳と聞いていたが、その腕はレオ以上。
すなわちAランク以上の腕前を持っていると思われた。
それでも、明らかな欠点がある。
ボクは振り下ろされる剣圧を背中に感じつつ、一歩前に踏み出した。
「う、そ……!」
カン――! 剣が地を叩いた。
確実にボクを捉えたと、そう思っていただろう少女は驚き、目を見張る。
無意識に出てきたのであろう声を聞き逃さない。そのことからボクは、自身の考えが憶測から確信に変化するのを感じ、そして同時に杖を振るった。
本日二度目。
少女の剣はこちらの攻撃で弾き飛ばされた。
「やっぱり、そうか」
「あ、うぅ……」
どうやら、ハリエットもその言葉の意味を理解しているらしい。
少しだけ涙目になりながら、こちらを見た。
「ハリエット、この剣って――」
ボクは立ち上がりながら、確信をもって彼女に訊ねる。
「マジックアイテム――魔導具、だね」
それは、かつてニールさんがボクに授けたようなそれだと。
そう断言した。するとハリエットは――。
「……はい。そうです」
短く、そう頭を垂れてそう口にする。
それを確認して、その日の短い鍛錬は終わりを告げのだった。




