3.ハリエットと、世界の変化
書籍版は3/4に発売。web版よりもパワーアップした物語をお楽しみください!
――さて。
そんなわけで、模擬戦が終了したわけなのだけど。
ハリエットはへたり込んだまま、その場を動こうとしなかった。
「あ、れ……? ハリエット?」
「………………」
こちらの問いかけにも、無言。
少女はうつむいて、沈黙を貫いていた。
もしかして、どこか怪我をさせてしまったのだろうか。そうならないように、最小限の力で杖を振るったつもり――だったのだけど。
観衆もなにがあったのかと、そんな風に少女を見つめていた。
しかし、彼女は動かない。
いよいよおかしいと、そう思ったボクはその細い肩に手を置い――。
「あの、さ。どうしたの? ハリエッ――」
「うそだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
「うわぁっ!?」
――た、その瞬間だ。
ハリエットは突然に両腕を振り上げて、絶叫した。
「儂が負けるわけなああああああああああああああああああああああああああい! これは、なにかの間違い! 間違いだあああああああああ!!」
仰向けに転がって、両手両足をバタバタと。
一人称とは裏腹、年相応な子供――と比べても子供っぽいけど――のように、泣きじゃくっていた。観衆は先ほどまでのハリエットと同一人物なのかと、そう疑うような視線を向けている。そんな中で、レミアがどこか誇らしげに胸を張っていた。
「ふはははは! どうだ、キャラ被りの小娘! これが妾のパーティーの力だ!」
そして、青髪少女を指差して嗤い――もとい。笑いながら、そんなことを言っていた。レミアさん、何もやっていない気がするのですが……。
どうにも、自分と口調や態度が似通っているこの子の存在を気にしていたらしい。キャラ被りの意味は分からないけれど、つまりはそういうことで。
「いや、まぁ……これは模擬戦だし?」
ボクは苦笑いをしながら、駄々をこねる少女に手を伸ばした。
するとハリエットは突然正気に返り、
「くっ! それが、勝者の余裕といういうものか!? 貴様もどうせ、儂のことを小馬鹿にするのであろう!! これが――」
バババっ、と立ち上がりこう言うのだ。
「次期勇者の実力なのか、とな!!」――と。
ボクとレミアはそれを聞いて、目を合わせた。
そして、異口同音にこう漏らす。
「次期……勇者?」
あまりに幼い、一人の子供を見つめながら……。
◆◇◆
この世界には、あるシステムのようなものがある。
通常の冒険者とは異なり、神々に選ばれし者がパーティーを組み、旅をする。その筆頭を勇者と呼び、魔族や強力な魔物を殲滅するのだった。
とはいえ、これは世界に大きな危機が迫っている場合に限られる。それでも念のために、開花はしないものの、その力を秘めた者は生まれてくるのだ。
「それがハリエット、というわけですか?」
「あぁ、そうなんだ。彼女はいま単身で武者修行をしていてね? この街にやってきたのは、EXランクを与えられた冒険者がいると聞いたかららしい」
「……なるほど」
ボクの問いかけに、ニールさんがそう説明してくれた。
つまるところハリエットの目的は、最初からボクだったというわけだ。
そんな彼女はいま、レミアと睨み合っており、その間には稲妻が走っている。少なくともボクの目には、そのような光景が見て取れた。
「でも、ニールさん。いまって魔王不在、なんですよね……?」
「そうだね。魔王の死が世界中に伝わって、かれこれ二十数年かな」
ついつい苦笑いしながら、ボクはさらにニールさんに問いを投げる。
すると彼は一つ頷いてからそう肯定した。
「そうなると、ハリエットは――」
それを確認してから、口を噤む。
彼女のやっていることに、果たして意味はあるのか、と。
そう口にしかけてから、その問い自体があの少女の存在意義を疑問視している、ということに気付いたのだ。それは、とても失礼な発言だろう。
少なくともハリエットは、世界のためを思って行動している。
それを外野のボクがとやかく言うのは、おかしな話だ。
「いいや。カイルくんが疑問に思うのは、不思議ではないよ」
「ニールさん……?」
しかし、その気持ちを察して口を開くニールさん。
目を細めて、こう続けるのだった。
「いずれカイルくんにとっても、無関係な話、というわけではなくなるかもしれないからね。この情報は本来部外秘だが、キミの耳には入れておくべきだろう」
「え……。それって、いったい――」
「四天王と聞いて、なんのことかは分かるかな?」
「――――――!」
そして彼の言葉に、ボクは身を強張らせる。
ニールさんの口から出てきた名称は、もしかしたら人類にとって、いま最も警戒するべき対象かもしれなかったからだ。
四天王――またの名を、四魔神。
魔族の中でもより強く、特別な力を秘めた存在だった。
魔王には劣るものの、その一人一人の持つ魔力や戦闘能力は、魔族が束になっても敵わない。だから間違いなく、現存する人類の敵の中で最も強力な者たち。
そんな名前が出てきたことに、心臓の鼓動が早まるのは仕方なかった。
「魔王の死後、なりを潜めていた彼らの動きなのだが――ここ数か月の間に、僅かだが観測されるようになってきているんだ」
「もしかして、魔王の復活……?」
「いいや、それはない。あの者ほどの存在が動けば、世界に何らかの影響があってもおかしくはないはずだ。今回はそれを鑑みても、微弱な変動にすぎない」
「なる、ほど……」
ボクは顎に手を当てて考え込む。
そんなこちらの様子を見て、ニールさんはこう告げた。
「カイルくん。キミには大きな力がある。だから――」
真剣な声色で。
「いつか、ハリエットさんの力になってあげて欲しい」――と。
活動報告にて、ちょいちょいキャララフ公開していってます!!




