1.情報
――三日後。
ボクは目を覚まして最初に、エリオの部屋を訪ねた。
ノックをすると中からはどこか覇気のない少年の声がする。少しだけ首を傾げて扉を開くと、そこに広がっていたのは……。
「うわ……。なんだ、この書類の山は……」
「あはは、すみません。報告書とか、メモとか、色々やってたらこんなになっちゃいました。いま片付けますので、少々お待ちください……よいしょ!」
エリオは苦笑いを浮かべながら、手際よく整理していく。
待つこと十分と少し。
「さて、と。あ、カイルさんはそこの椅子に座ってください!」
「え、何この玉座みたいな大きなの……」
「特注品です!」
今度は満開の花を咲かせて、彼はそう言った。
ボクは少しおっかなびっくりしながら、そこに腰かける。
するとエリオは、ボクの前にかしずいて一つの書類を差し出してくる。何とも言えない気持ちでそれを受け取ると、とりあえず目を通した。
すると、そこに書いてあったのはこんなこと。
それを掻い摘んで口にする。
「【昨今、この街の周辺でヴァンパイアと思しき男性が活動しているのが目撃されている。時間帯は決まって深夜。誰かを探している様子で、道行く人に声をかけている模様。そして、その男性の名前は――】」
そこで言葉を切って、ボクは一つ唾を呑み込んだ。
「【――決まって、ヴィトインである】」
そして、その結論を述べる。
あの日に出会った人物がヴァンパイアであるということだった。
書類の内容を読み上げたボクは、エリオに視線を落としてこう訊ねる。
「この情報は、いったいどこから……?」
「単純な聞き込みと、カイルさん、そしてダースさんの証言をまとめました。それと、時間が余ったのでヴィトインさんのいるであろう場所に、だいたいの目星をつけておきました」
「え……。もう、そこまで?」
「はい、カイルさんの頼みなら」
ほんのりと頬を染めているエリオ。
しかし、よく見れば彼の目の下には大きなクマが出来ているのが分かった。どこから調達したのか分からない化粧で、それを隠してはいるものの。バレバレだ。
つまるところ、この少年は三日三晩、この情報のために奔走していたということに他ならない。睡眠時間も、体力も削って。そのことに、素直に感謝を抱いた。
「ありがとう。エリオ……」
「えへへ!」
それを口にすると、少年は頬をほころばせる。
その顔はこの答えだけで、十二分に対価に見合うと語っているようだった。
「それではこれから、その場所へ案内させていただきます」
言って、彼はふらつきながら立ち上がり……。
「……っとと」
「危ない!!」
倒れそうになったところを、ボクは大急ぎで抱きとめた。
完全に力の抜けた少年の重みが、ずっしりと伝わってくる。エリオは少しだけ恥ずかしそうに微笑んで、目を細めるのだった。
「エリオは休みなよ。今はこれで十分だからさ」
「すみません。ありがとうございます」
ボクは少年をベッドまで運び、寝かせる。
布団をかけてあげると、彼はすぐに眠りに落ちていった。
「これは、うん。しっかり応えないとね」
それを見て、ボクは小さく拳を握りしめたのである。




