5.『みぃつけた』
拠点に戻ると、ココとニナが笑顔でボクたちを出迎えてくれた。
「なにか、良い情報は得られましたか? カイル様」
「あぁ、うん。もしかしたら、って可能性だけどね」
「もしかしたらでも、今は必要な情報ですね。お疲れ様です」
ニナが駆け寄ってきて、ココがボクの荷物を受け取る。
エルフの彼女はレミアからも傘を預かり、奥の方へと消えていく。玄関に残ったのは、ボクとレミア、そしてニナの三人だ。ヴァーナの少女は、ピョンピョンと飛び跳ねながらこう言った。
「それにしても、もう一人のヴァンパイアがいるなんて思いもしませんでしたね! これならリリス様もすぐに助けることが出来るかもしれませんっ!」
「そうだね。あと、ボクもヴィトインって人には心当たりがあって……」
「心、当たり……だと?」
それに対する返事に、反応したのは赤髪の少女。
レミアは綺麗な眉をピクリと弾ませると、ボクの顔を見上げてきた。
「それは、本当なのか。カイル」
「え、あぁ、うん。もしかしたら、同じ名前ってだけかもしれないけど」
やや潤んだ瞳をした彼女はこちらに詰め寄る。
どうしたのかと思いながら、確実性の有無について述べた。そうすると失いかけた我に返ったのか、レミアは弱々しく、息をつく。
無意識であろう。胸に手を当てながら、目を伏せた。
「そう、だな。うむ……そんな都合の良い話があるわけがない」
そして、小さくそう口にする。
彼女の様子に首を傾げて、でもそれ以上追及するのはやめておいた。
パーティーを組んで結構経つし、なんだったら困難を乗り越えた仲間である。それでも触れてはいけない部分はあるだろう。ボクはそう考えた。
「そういえば、エリオはどこにいるのかな? 今日は留守番を頼んでたけど」
なので、話題を変えることにする。
孤児院に同行しなかったシーフの少年に、相談したいことがあった。そう思い、ボクがその名前を口にした瞬間である。
「――お呼びですか?」
「ひぃっ!?」
背後から、彼の声が聞こえたのは。
振り返ると手を後ろで組んで、上目遣いにこちらを見るエリオが。その少女のような顔を仄かに朱に染めて笑っていた。
「いつも思うけど、エリオは神出鬼没だよね……」
「えへへ。でも、お心は常にカイルさんと共にありますよっ!」
「ははは……そ、それはどうも……」
――苦笑いしか出来ないんですけど!?
そう内心では思ったが、口には出さない。とりあえず話を前に進めよう。
「探して欲しい人がいるんだけど、いいかな?」
「えっと、どなたですかね。お名前を聞かせていただけると」
「ヴィトイン、って方。外見は――」
そして、簡潔に以前遭遇した男性の情報を提供した。
「――ふむふむ。分かりました、三日ください」
「うん。分かったよ、よろしくね」
それを聞くと、少年はそう頷く。
ボクは感謝を伝えて、ふっと息をついた。すると、
「カイル様! お食事ができてるのですっ!」
「あぁ、そうなんだ。じゃあ、いただこうかな」
ニナが、そう言う。
それならひとまず、しっかり食事を摂ることにしよう。
寝食についてはどんな場合でも、おろそかにしてはいけない。
「レミア、エリオ。それじゃ、行こうか」
「うむ。そうだな……」
ボクは元気のない少女と、少年に声をかけた。
だが、そこで――。
「――あ、僕はあとでいただきますね! 今のうちに、情報を整理しておかないといけないので!!」
エリオは、珍しくそう答えた。
まぁ、それもそうか。彼には彼のやり方でやってもらうのが一番だ。
「そっか。それなら、よろしくね」
「はい! ごゆっくり、です!!」
そんな会話を最後に交わして、ボクはレミアと一緒に食事へと向かった。
◆◇◆
二人がリビングへと向かった少し後、玄関にはエリオとニナが残された。
獣人の少女は、カイルの後を追おうとする。しかし――。
「――ちょっと待って、ニナちゃん」
「え、どうしたです? エリオさ……」
そんな彼女を少年が呼びとめた。
ニナが振り返ると、そこにあったのは――。
「――『みぃつけた』、ってどういう意味?」
相手を射殺すような、幼い顔立ちに似合わぬ鋭い眼差しだった。
「あ………………」
その威圧感に、ニナは思わず震えた声を漏らす。
瞬間的な恐怖からか、耳が下がっていた。瞳は潤み、足はすくむ。
「もし、キミとココさんがカイルさんに害を為すなら――」
ニナに歩み寄り、その耳元でエリオはこう囁いた。
「――僕は、キミたちを殺すよ?」
それは、冗談でもなんでもない。
本気だと、そう分かる声色であった。




