3.洞窟内の異変
ギルドを訪ねると、難しい顔をしたニールさんがボクたちを出迎えた。
眼鏡の奥にある鋭い視線には、思わずドキリとさせられる。心臓を射抜かれるような、そんな不思議な感覚だった。そんな彼はボクを認めると、ほんの少しだけ相好を崩す。よく来てくれた、と。そう言いたげに、両腕を広げるのだった。
「む。お前はカイルに近づくな」
「おや。ずいぶんと嫌われたモノですね……」
しかし、そんな彼とボクの間に割って入ったのはレミア。
少女は明らかな嫌悪感を声に乗せていた。それをニールさんは少しため息まじりに受け取る。どうやら今回の問題は、さすがの彼でも頭を悩ませているらしい。
普段ならばレミアの発言も軽く受け流すのに、それが出来ていないのだから。
だけど、今はそれどころではないだろう。
早いところその問題とやらを解決して、リリスさんを捜索しなければ――そう思って、ボクはニールさんに事の次第を訊ねることにした。
「それで、どうしてボクたちが呼ばれたのですか?」
「あぁ、それなのだけれどね……」
すると彼は、もう一度ふっと息をついて。
それと同時にいつもの彼らしい表情に戻って、こう告げた。
「洞窟――あぁ、いつものダンジョンのコトだね。そこの様子がおかしいんだ」
「洞窟の様子? いったい、何があったんですか」
首を傾げてしまうボク。
そういえば、ここ数日は洞窟に潜っていなかった。
それはあの日――リリスさんとはぐれて以来。それを考えると、勝手にだが、なにか彼女の手がかりがあるのではないかとさえ、思えてしまった。
しかし、そんな都合の良い話はないだろう。
そう思い直してから、ニールさんの話に耳を傾けた。
「あぁ、なにかあったんだよ。なにもなかったら、あのような事態になるはずがない――第五階層のような場所に、Sランクの魔物が蔓延るなんてね」
「えっ!? 第五階層に、Sランクですって!?」
そして、今度は耳を疑った。
彼の口から出てきたのは、信じられない話。
本来十階層よりも奥にいるはずの凶悪な魔物が、浅い階層に顔を出しているというモノだった。ボクの驚きに、彼は真剣な顔でこう言う。
「Sランクの魔物は、それなりの魔素の濃度がない限り生存が出来ない。それにも関わらず、第五階層付近に現れる、ということは――それ以上の問題が起こっている、ということだ」
「それ以上の問題……?」
「つまりは、魔素の濃度により力が弱まり死ぬことよりも、より死に近い存在がそこにある……ということさ」
ボクの疑問に、ニールさんは的確に答えた。
つまりは、十階層以下にSランクの魔物以上に危険な何かが現れた。それによって、洞窟内の勢力図が変化を起こしている。そういうことだった。
ボクはそれを聞いて、息を呑む。
するとそんなこちらを見て、ニールさんはさらに一つの情報を出した。
「そして、キミたちに頼もうと思ったのは、他にも理由がある。リリス・レスキネンくんのことだ」
「リリスさん……? もしかして、見つかったんですか!?」
それを聞いて、前のめりになってしまう。
しかし、ニールさんは首を左右に振ってこう言った。
「確証はない――だが、最下層にて彼女らしき人影を見たと、報告が上がっているんだ」
ボクたちは全員が息を呑んだ。
そんな危険な場所に、どうしてリリスさんが――と。
疑問が増えていくばかりで、だんだんと頭の中が混乱してきた。しかし、なにか手がかりがあるのならば――潜るしかないだろう。
「分かりました。みんなも、いいよね?」
ボクはニールさんにそう言って、仲間たちに確認を取った。
すると、レミアとエリオの二人は神妙な面持ちで頷く。この時をもって、緊急クエストは承諾となった。そして、ボクたちは洞窟へと向かう。
しかし、そこであのようなモノを見ることになるとは。
この時の覚悟を易々と超えるなど、思ってもみなかった……。




