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1.酒場での夕食

ラストはレミア視点です!





 酒場は今日も盛況。

 多くの冒険者パーティーが酒を酌み交わしては、馬鹿騒ぎをしていた。


「……レミアの食べてるお肉。ほとんど生じゃない?」

「む、妾はこれで良いのだ。火の通った血肉の風味のない肉など、不味い」

「へ、へぇ。珍しいね……」


 さてさて。一方ボクたちは、であった。

 そんな会話をしながら慎ましやかに、いつもより少し贅沢な料理を楽しむ。

 今日はレミアの、クエスト初達成のささやかなお祝い兼ねていた。なのだけど、生のお肉を頬張る少女の様子はきわめてシュール。

 ボクは苦笑いを浮かべつつ、平然と語るレミアを見つめた。


「そういえば、レミアって山の方からやってきたんだよね。山って言っても、どの辺りに住んでたの? それに、なんで冒険者になろうと思ったの?」

「む、それを訊くのか。まぁ、教えてやらんこともないがな」


 その時である。

 ボクは不意に思い出して、少女にそう訊ねた。

 するとレミアはフォークを置いて、ボクを見つめ返す。そして一つ息をついて、なにか遠い記憶を探るようにして話し始めた。


「まぁ、一つずつ説明するとしよう。まずは、妾の住んでた場所だが――」

「頼もう! この中に、ヴァンパイアはいないか!!」

「――山奥にある洋館でな……む?」

「ん? なんだろう。あの人」


 が、それを遮る珍客が現れる。

 酒場は一瞬にして静まり返った。そして、全員が出入口に目を向ける。

 そこに立っていたのは、威風堂々という言葉が服を着て歩いているような、そんな女性だった。露出の多い装備に、豊かな身体のライン。背負うのはその身の丈ほどありそうな戦斧だった。その出で立ちからして、クラスは戦士であろうか。


「この中に、ヴァンパイアはいないか!!」


 ……二回目。

 同じ言葉を繰り返して、女性は酒場の中を見回した。

 あまりに異様な存在感に、酒場の空気は冷め切ったままである。


「……ヴァンパイア、ってあの?」


 ボクはその間に耐え切れず、レミアにのみ聞こえるボリュームでそう言った。


 簡単に説明しておこう。

 ヴァンパイアとは、伝説に語られる魔物であった。

 魔物とはいってもそこらにいる魔物とは異なり、人と同じ姿をしているという。なんでも人の血を吸って仲間を増やし、生活するとか。しかし、語られるのはそのような断片的な情報ばかりで、実際に目にした者はいなかった。


「そうだな。あのヴァンパイア以外に、何もあるまい」

「だよね……」


 ボクの言葉に淡々と答えるレミア。

 彼女はそういった伝説に興味がないのか、食事を再開していた。


「ふむ。ここもハズレか――いや、済まない! 宴を楽しんでくれ!」


 さてさて。そうしていると、だ。

 先ほどの女性は勝手に納得したのか、そんなことを言う。すると冒険者のみなさんは、首を傾げながらも各々の酒盛りに戻っていった。

 その女戦士さんも、空いている席がないかを探し始めた様子。


「……何だったんだろうね?」

「知らぬ。妾はまったく興味ないな」


 それから視線を戻しつつ、ボクはレミアに話しかけた。

 すると返ってきたのは、どこか不機嫌そうな少女の声。そのことにも、首を傾げてしまうボクなのであった。――と、その時である。


「済まない。この席に座らせてもらっても構わないだろうか?」

「……ん?」


 そう、ボクたちに声をかけてくる人がいたのは。

 声には聞き覚えがあった。見なくても分かる、先ほどの女性だ。

 毛先の部分が白くなった黒髪。左右で色の違う瞳。片方は黒く、もう片方は赤だ。どこか独特な雰囲気をもった彼女は、その鋭い眼差しでボクのことを見ていた。


「ここしか、空いていないようでな。邪魔なら構わないが……」

「いや、いいですよ。どうぞ」


 元より三人がけのテーブルであった。

 なのでボクは、快く女性に座ってもらうこととしたのである。


「ありがとう。私の名は、リリス・レスキネンという。キミの名は?」


 戦斧をゆっくりと下ろしながら腰かけつつ、彼女――リリスは名乗った。


「ボクの名前はカイル。そして、こっちの女の子がレミア」

「カイル殿にレミア嬢か。分かった、よろしく」

「………………」


 名乗り返して、何故か黙ったままなレミアのことも紹介すると、リリスさんは深々と頭を下げる。そして面を上げると、店員を呼び何かを注文するのであった。

 ボクは少し先ほどの話に興味があったので、訊いてみることにする。


「そういえば、リリスさん。さっきヴァンパイアがどう、って……」

「アレか。いや実は、私はヴァンパイアハンターなんだ」

「ヴァンパイアハンター……って、あの?」

「あぁ、そうだ」


 ボクの言葉に、リリスさんは頷いた。

 さらに説明を加えると、ヴァンパイアハンターというのは、その名の通りヴァンパイアを狩ることを目的とする冒険者のことである。しかし、その実在性からして眉唾な話であるヴァンパイアを、本気で追いかけている人がいるなんて、ボクは思いもしなかった。


「へぇ、すごいですね……」


 だから、そんな反応しか出来ない。

 それでもそれをどう受け取ったのか、リリスさんは豪快に笑った。


「はっはっは! なに、大したことはない。目的はヴァンパイアで間違いないが、冒険者の方が本業だと言えるからな」

「そうなんですか。じゃあ、この街にきたのはヴァンパイアを探して?」

「ああ、その通り」


 リリスさんは大きく頷く。


「これは本当は極秘の情報なんだけどな、この近辺にヴァンパイアが生息しているらしいんだ。私はそれを聞きつけて、この街へやってきた」

「……で、さっきの発言に繋がるわけですか」


 ……いや。アレで名乗り出たら驚きだよ?

 ボクはそんなツッコみを心のうちで留めて、そう返すのであった。

 どうやらこのリリスさんという女性、なかなかに――その、とにかく大物であるらしい。ボクは苦笑いしつつ、ぐっと酒を喉に流し込んだ。


「お、どうやら私の食事が出来たらしいな」

「そうみたいですね――って……」


 その時だった。

 リリスさんの注文していた料理が運ばれてきた。

 だが、それを見てボクはまたもや言葉を失うこととなる。


「それでは、いただきます」

「………………」


 何故なら、リリスさんの前に置かれたのは――レミア同様のほぼほぼ生肉だったのだから。これはもう、固まるしかなかった。


 ……え? なんなの?

 もしかして、女性の間で生肉を食べることが流行ってるの?


「うむ! やはり肉はレアに限るな」

「いや、それはレアとかそういうレベルではないと思います」


 豪快に頬張るリリスさんに、ボクはとうとうツッコみを入れてしまった。

 だが、彼女は気にしない、といった風に食事をすすめる。


「……うん。まぁ、いいか」


 テーブルに並ぶ二つのほぼほぼ生肉を見ながら、ボクはそう呟くのであった。

 考えても、この疑問の答えは出ないような気がしたからだ。しかし、そちらに気を配ったからだろうか。ボクはあることに気が付くのであった。


「あれ、レミアどうしたの? さっきから黙ってるけど」


 そう。目の前の赤髪の少女の様子がおかしいことに、である。

 レミアはぐっと押し黙り、何かを考えているように見えた。黙々とすすめていた食事も手を止めて、どこか難しい顔をしている。

 それでも、彼女はボクの問いかけにこう答えた。


「いや、なんでもない」――と。


 ただ、その一言だけ。

 そして、思い出したように食事を再開するのであった。


「…………?」


 ボクは首を傾げる。

 でもまぁ、考えても仕方がない。

 そう思い直して、ボクは『ちゃんと焼けたお肉』に手を伸ばすのであった……。



◆◇◆



 不味いな。いや、肉はなかなかに上等なものだが……。


「………………」


 妾が不味いと言ったのは他でもない。

 ふらりとやってきた、このリリスとかいう女のことだ。

 こやつ、自身のことをヴァンパイアハンターなどと紹介しよった。そのことが、妾にとっては物凄く都合が悪い。どうするべきか、考えるのだレミアよ……。


「あれ、レミアどうしたの? さっきから黙ってるけど」


 妾の異変に感付いたらしい、カイルがそう訊いてきた。

 しかし、このことはこの大馬鹿魔法使いにも知られてはならない。


「いや、なんでもない」


 なので、ここはそうはぐらかすことにした。

 カイルは首を傾げたが、それ以上は追及してこない。この場において、それだけが唯一の救いであるように思われるのであった。


 しかし、問題はちっとも解決していない。

 リリスの言葉から察するに、どうやら彼女はしばらく街に滞在するらしい。


「……それならば」


 しばらく、大人しくしていた方がいいか。

 再びナイフとフォークを手に取り、妾はそんな結論に至るのであった。



 しかし思ってもみなかった。

 まさか、ここでの判断が致命的なモノになろうとは……。



 


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