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最弱の魔法使い、最強前衛職に覚醒する  作者: あざね
第一部 オープニング
4/133

3.ギルドでの出来事

途中から視点変更ありです。







「ふざけるんじゃねぇ!? 誰のせいだと思ってやがるんだ!!」

「私のせいではない! そもそも、魔法使いにしんがりや陽動を任せるなど!」


 ギルドに戻ると、そんな風に言い争う声が聞こえた。


 声の主は誰か。

 それはすぐに分かった――レオだ。


「はぁ!? じゃあ、他に誰がやるって言うんだよ!!」

「剣士である貴方がやるべきでしょう!? どう考えても役割が逆だ!!」


 口論をしているのは、新しく入った魔法使いであろうか。

 眼鏡をかけ、杖を持つひょろっとした身体つきはいかにも魔法使いらしい。そんな男性とレオは、唾を飛ばし合いながら、罵り合っていた。


 やれ、陽動が上手くいっていない、だの。

 やれ、役割分担が間違っているぞ、だの。


 ボクとレミアは、遠巻きにその様子を眺めていた。


「なんだなんだ? またあのパーティー、仲間割れか?」

「なんでも、新入りの魔法使いに無理難題を押し付けたんだとよ」

「魔法使いにしんがり、陽動を任せるとか正気か? よくAランクまで行けたな」


 野次馬からはそんな声が聞こえてくる。

 ……ん? 魔法使いがしんがりとか、陽動をするのって変なのか?


「レオ……」

「む? あの金髪と知り合いなのか?」

「え、あぁ……うん。幼馴染みなんだ」


 レミアはボクの呟きに、そう訊ねてくる。

 だけど、それにボクは一言そう答えるだけで、受付へ向かうのであった。

 もう決別したのだから、レオとボクは無関係。イリアとクリムの姿は見えなかったけど、それもボクにとっては知らなくてもいいことだった。


「ふむぅ。なにか、釈然とせんのう」

「あはは、レミアが気にすることじゃないよ。ほら、カードを受付に出して?」


 だから、振り払うようにして。

 ボクはレミアに説明するのであった。

 冒険者カードには特別な魔法がかけられており、そこにはその者が討伐した魔物の数、さらにはパーティー全体で倒した魔物の数が更新されていく。その他にも色々な数字が記載されているが、とりあえずはこれを証明にクエストの完了となるのであった。


 さて、それを受け取った受付のおばちゃんは目を丸くする。


「あら、お嬢ちゃん凄いねぇ! Eランクなのにリトルデイモンを十体も倒したのかい? それに、デイモンを三体! ……これは、天才かもねぇ」

「うむ。まぁ、それよりもおかしなことしてたのが、こいつなのだがな」

「え……?」


 レミアはボクを見てそう言った。

 だが、こちらとしてはその意味がまるで分からない。


「そうかいそうかい。ほら、これが報酬金だよ。それで、こっちが魔素の欠片とか、その他諸々のアイテムの代金ね? 金額に納得したら、サインしてね」

「あ、はい。分かりました」

 

 首を傾げながらも、ボクは書類にサインをしてお金を受け取った。

 今まで活躍に応じて受け取っていた報酬金だったが、二人で分けるとなるとこんなにも多くなるのか。一人当たり金貨2枚に、銀貨8枚。金貨1枚さえあれば、3日は食べるのに苦労しない。銀貨は10枚あれば金貨1枚の価値になる。


 今回は二人パーティーということで、おばちゃんが分割しやすいように気をつかってくれたらしい。それに感謝しつつ、ギルドを後にするのであった。


「………………」


 響き渡る、レオの声を背中で聞きながら……。



◆◇◆



 見覚えのある背中が見えた気がした。

 しかし、そんなこと今の俺には関係ないことである。

 とにかく腹が立って仕方なかった。この、目の前の貧弱な魔法使いに。


「私は魔法を詠唱する! 前衛は時間を稼ぐ、そして魔法で怯んだ隙に貴方がトドメを刺すのでしょう!? それなのに敵の注意を一身に受け続けろなど、暴論にも程があるではありませんか!!」

「うるせぇ! 俺の考えに文句があるってのか!!」

「大ありですよ! だから、何度も……!」

「ちっ……!」


 なにかが変だ。

 あのノロマがいなくなって、すべてが解決するはずだったのに。

 代わって入ってきた奴は、そのノロマよりも役立たず。しかも自分を正当化するための講釈まで垂れやがるときた。リーダーである俺に楯突いてまで、だ。


「そうでなければ、生存率は恐ろしく低下する。それをどうして理解できないのですか! 仮にもAランクパーティーのリーダーである貴方が……」

「……仮にも、だと?」

「ひっ……!」


 苛立ち、睨みつける。

 すると怖気づいたのか、新入りは小さな悲鳴を上げて後ずさった。

 その情けなさにまた一つ舌を打って、視線を別の方向に投げる。そこには処置室があった。新入りを無視して、俺はそこへと向かう。


「……入るぞ」


 そして、中に入った。

 するとそこにいるのは、イリアとクリムだ。

 ベッドで眠るイリアはうなされている。クリムが必死に治癒魔法ヒールをかけているが、状況は一向に改善していなかった。


「クリム。イリアの怪我はどうなんだ……?」

「………………」


 俺の問いかけに、クリムは首を左右に振る。


「くそっ……!」


 思わず悪態を吐く。

 壁を殴る。痛みが広がるが、今はそんなことどうでもいい。

 もし、イリアの命になにかがあったら、俺はこの先どうしていけば……。


「イリア……っ!」

「落ち着いてください、レオ。我がパーティーのリーダー」

「クリム……」


 うな垂れる俺の手を、クリムが優しく包んだ。

 潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。そして、こう言うのであった。


「イリアは、私が必ず救ってみせます。だから、どうか安心を……」

「……あぁ。頼んだぞ、クリム」

「もちろんです。……大切な仲間、ですから」


 夜は更けていく。

 俺は思った。今日は、一人でいたくはない。



 それほどまでに、不安な夜だったのだ……。



◆◇◆



 レオが去って私――クリムは、イリアと二人で処置室に残された。

 ベッドの上で眠る桃色の髪をした可憐な少女は、いったいどのような夢を見ているのだろうか。うなされているのだから、悪夢なのだろうか。それとも……。


「……レオは、貴女のことを本当に愛しているのですね」


 私はそう言いながら、ベッドに腰掛けてその綺麗な顔に触れた。

 閉じられたまぶたの奥には、見る者を虜にするほど透き通った金の瞳がある。しかし今は固く閉ざされ、小さく可愛らしい唇からは苦悶の声が漏れていた。

 荒野に咲く一輪の花のような、そんな存在。

 だけど、私にとっては――。



「――本当に、妬ましくて仕方ない!」



 そう。私にとって、このイリアという少女は憎悪の対象でしかなかった。

 私の愛するレオの愛を、一身に受けるこの女のことが。私は心の底から憎くて、憎くて、憎くて仕方がなかったのだ。


「どうして、貴女なのかしらね。私ではなく何故、どうして、貴女が選ばれたのか……!」


 妬ましい。本当に、妬ましい。

 この小柄で愛らしい少女が、妬ましくて仕方ない。


「……あら、危ない。もうすぐで絞め殺してしまうところでした」


 そこまで考えて、私ははたと気付いた。

 憎さのあまり、思わずイリアの細い首に手を伸ばしていたことに。

 本当に危なかった。もしここで殺してしまっては、今までの苦労・・・・・・が水の泡となる。それだけは避けなければならなかった。ここまでの準備で、私はどれだけの苦渋を舐めたのか。どれだけ、苦労してきたのか。


 このために、やっとの思いでカイルを追い出した・・・・・・・・・のだから……。


「彼には悪いことをしました。まさか、パーティーの要である自分が役立たずの烙印を押されて、追い出されることになるとは、思ってもなかったでしょうからね」


 そう。このパーティーの生存率を高めていたのは、他でもない彼だった。

 魔法の能力はからっきし。けれども、戦闘能力と生存能力に優れた魔法使いだった。彼が陽動を行っていることで、私たちのパーティーは成立していたのである。


「私が彼を騙し、失敗を誘い、追放へと追い込んだ……」


 そんな彼がいなくなれば、どうなるだろうか。

 答えは簡単。パーティーのバランスの崩壊は、死へと繋がる。

 その証拠に、我らのパーティーの中で最もひ弱だったイリアはこの通り。今日のヒュドラ戦、その際に受けた毒で生死の境をさまよっていた。


「ふ、ふふふっ……!」


 さぁ、もう少し。

 蛇の毒のようにじわりじわりと、謀殺して差し上げましょう。







 私は笑いを堪え切れなかった。

 何故なら、もう少しであの愛しきレオが、私のモノになるのだから……。





 


ここまでがオープニングですね。

次からは第一章に入ります。


<(_ _)>

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