2.無自覚な強さ
最後はレミアちゃん視点です!
『俺は剣士やるから、カイルは魔法使いな!』
『う、うん! 分かったよ、レオ』
これは幼少期の記憶。
ボクとレオがパーティーを組む以前――いいや、もっと前。
ただの幼馴染み。そして、冒険者に憧れる子供としての遊びの記憶だった。
『俺さ、いつか最強の剣士になって魔物をたくさん討伐するのが夢なんだ!』
『すごいね、きっとレオなら出来るよ!』
『へへっ、ありがとな』
無邪気に笑い合うボクとレオ。
あぁ、そう言えば。この時に決めたのだっけ……。
『パーティー作ったら、お前も入れてやるよカイル!』
『え、ホントに? じゃあ、ボクも頑張らないと!』
いつか、凄い魔法使いに、と。
剣士を目指すレオに負けないくらい、凄い魔法使いになりたい、と。
そう、考えるようになったのは……。
◆◇◆
デイモンはボクを見ると、即座にその赤い瞳をギラギラと輝かせた。
それはボクのことを敵だと認識した証拠。
「ガアァァァァァァァァァァァァァ――――――――――ッ!!」
三体の魔物は異口同音に、そんな咆哮を上げる。
そして、そのうち最もこちらに近いデイモンがボク目がけて駆け寄ってきた。丸太のように太いその右腕を振り上げて、鋭利なその爪をもってして攻撃してくる。
それを右に転がることによって回避。
大丈夫。やっぱり、この程度の階層だったら魔物の動きも緩慢だった。
ボクはがら空きになったデイモンの懐に飛び込み、特殊加工した杖を叩き込む――!
「――――――――ふっ」
ふっと息をついた。
重い一撃を喰らったデイモンは、悲鳴もなく横倒しになる。もはや抵抗もしてこないだろうと、そう思われた。しかし、トドメは刺さない。
その役割は今回、レミアに渡すからだ。
「ガァァァッァァァァッァッァァァァ!?」
仲間がやられたと認識したのだろうか。
残りの二体は、一斉にボクの方に向かってきた。
そして挟み撃ちをするようにして、攻撃を繰り出す。だけど――。
「――それじゃ、まだ遅いよ」
言ってボクは、前転してデイモン二体の足元に潜り込んだ。
次いで左右にそれぞれある太い脚を蹴り払った。インパクトの瞬間、デイモンの骨がへし折れる感触がよく分かる。叫び声を上げながら倒れる二体を確認してから、ボクはレミアに声をかけることにした。
「レミア、今だよ!」
「あ……っ! あぁ、分かった!」
少しだけ呆気に取られたらしい少女は、数秒の間を置いて詠唱を開始する。
ボクの計算通り、三体のデイモンは半径五メイル以内に集合した。
ともなれば、有効な魔法は――。
「圧し潰せ――【グラビディ】!!」
――そう。範囲魔法だった。
円状に展開された魔方陣の中に、デイモン三体が捕捉される。
すると直後に、轟、という音と共に魔方陣上の空気の質が重くなる。【グラビディ】とは上級範囲魔法の一つであり、重力を操る高度なモノであった。
もしかしたら、とは思っていたけど。
このレミアという少女は、年齢不相応に多彩な魔法を習得している。
それはボクがいくら魔法の知識を得ようとも、鍛錬を積もうとも、習得できなかったモノであった。感心と同時に、嫉妬を覚えるが――いや、考えるのはやめておこう。魔素の結晶へと変換されていくデイモンを見つつ、そう思った。
「お疲れ様、レミア。やっぱりボクが思った通りだったね!」
「……………………………………むぅ」
「ん? どうしたの、レミア?」
気持ちを切り替えてそう、彼女に声をかける。
しかし返ってきたのは、どこか納得していないようなうなり声。
ボクはその意味が分からずに、レミアに真意を問いかける。すると少女から返ってきたのは、こんな小さなモノであった。
「ほとんど、カイルが倒したようなものではないか」
唇を尖らせた赤髪の少女は、そう漏らす。
「いや、でも。トドメを刺したのはレミアでしょ?」
「それはカイルにも出来たこと。妾は、手柄をただ受け取ったに過ぎぬ」
「あー……そっか、ごめんね。余計なことをしたかな」
そこまで言われて、ボクはようやく理解した。
どうやら、この少女は相当にプライドが高い。そのため今の一連の流れで、トドメだけを譲られたということが気に食わないらしかった。
だが、それでもレミアは首を左右に振る。そして、こう言った。
「いいや、構わぬ。むしろ感心していたのだ――見事な手際だった、と」
「え……? そんなことないでしょ。こんなの、普通だと思うよ」
「そんなわけあるか!!」
「ふえっ!?」
ボクの返答に、レミアは八重歯を剥き出しにして反論する。
「この世界のどこに、デイモンと肉弾戦をして圧勝する魔法使いがいるか! 少しは自分が規格外であることを自覚しろと言うのだ!!」
肩で息をしながら、少女はそう叫ぶのだった。
「えぇ……いっぱいいるでしょ? レミアは大げさだなぁ」
「いないったらいない! それにお主、まだ欠片ほども――」
そして、レミアは最後にこう言う。
「――本気を出しておらぬだろう!?」
この時のボクはまったく理解していなかった。
自分のやっていることが、常識の埒外のそれである、という事実に……。
◆◇◆
――あり得ぬ。あり得ぬ、あり得ぬ!!
「…………………むぅ!」
妾はポーチの中に入った魔素の欠片、結晶を見ながらムッとしていた。
その理由は単純明快。いま、隣を歩いているこのカイルという魔法使いである。
この(ある意味)無能魔法使い――まるで、自分のやっていることの凄さを認識していなかった。それどころか、普通だと言いおった。
「ど、どうしたの。レミア……そんな難しい顔して」
「なんでもないわっ! このウスラトンカチ!!」
「ウ、ウスラトンカチ……?」
ほれ。こうやって罵倒されても、意味が分からず目を丸くしておる。
そのことがまた、妾の気を逆撫でするのであった。
「しかし……」
だが、そこで改めて冷静になって考える。
完全にこれは想定外であった。いい人材を拾ったと直感はしていた。直感はしていたが、よもやここまで規格外だとは思わなんだ。
「……くぅ」
「ふぇ? だから、どうしたの」
しかも無自覚ときた! これもまた、予想外だった!!
幼い顔立ち以外には、これといった特徴のない若者。しかしその実は、超一線級の『前衛魔法使い』ときた。そして無自覚! 何度も言うが、自覚ゼロで自己評価が低い!
妾はこの数時間で、完全に混乱しておった。
自らの力を見せつけ、主導権を握る算段が、これでは台無しだ。
「………………………」
しかし、この優良物件を手放すわけにはいかない。
それをしては、また妾の『目的』から遠ざかってしまうのだから。
「…………はて」
だが、そこに至って考える。
カイルの元々所属していたパーティーの者は、いったい何を考えていたのだ、と。主にそのリーダー格とも呼べるであろう人物の無能さを、口には出さぬが、妾は心の中でそっと嘲笑うのであった。
まぁ、今は考えても仕方ない。
山から下りてきて、最初のクエスト。
それを無事にどころか、見事にこなしたことを良しと考えるとしよう。
妾は、隣を歩く大馬鹿者を見上げてそう思うのであった……。
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