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4.クエストにて






 ――第十階層。

 ボクたち三人と一体は、魔物の討伐を行っていた。

 今回のターゲットはアークデイモン。先日レミアと一緒に倒したデイモンの上位種であり、レッドドラゴンに並び、Sランク相当の魔物であった。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 褐色の肌をした人型の魔物。

 筋骨隆々なそいつは、ボクたちを認めるやいなや咆哮を上げた。


「レミア、さっき教えたようにやってみて!」

「ふむ――分かった!」


 ボクは前線でアークデイモンの注意を引き付けつつ、レミアに指示を出す。

 すると彼女は魔法の詠唱を開始した。


「カイルさん、私は右から――!」

「はい、お願いします!」


 それと同じタイミングで、今度はリリスさんがそう言う。

 戦斧を手に駆ける彼女の意図を理解したボクは、大きく左に旋回しながら答えた。二手に分かれることで、アークデイモンは瞬間、行動に隙が出来る。標的をどちらに絞るか迷ったのであろう魔物は、数秒の間を置いてからボクの方へと身体を向けた。


『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』


 そして、その大きな鉤爪のような手から黒い球体を射出する。

 これはアークデイモンの使う魔法の一種。俗に【ショット】と呼ばれているものだった。単純に魔力を塊として放つだけの簡単な攻撃である。

 しかし、だからといって油断は出来ない。直撃すれば身体の一部が持って行かれる。当たりどころが悪ければ、即死もあり得るのだ。


「――――――――っ!」


 その【ショット】をボクは、身を翻して回避する。

 一発、二発、三発――続けて撃ち出されるそれに対応する。その隙を突いて、攻撃を加えたのはリリスさんだった。彼女はアークデイモンの後方から迫ると、


「はあああああああああっ!」


 声を張り上げながら、その背中を斬り付ける。

 ガンっ、という。まるで岩石を打ったかのような音が響いた。

 だがその直後に聞こえてきたのは、アークデイモンの悲鳴。堅い皮膚はリリスさんの一撃により傷付き、紫色の血が噴出した。確実に、ダメージはあった。


「よし――今だよ、レミア!」

「う、うむ……!」


 ボクはそこでレミアに合図を送る。

 すると少女は頷き、傘を前へと突き出した。そして――。


「顕現せよ、死の氷柱よ――【ブライニクル】!」


 ――そう口にした刹那。魔力が爆発的に高まった。

 アークデイモンの頭上に、水色の光を放つ魔方陣が展開される。そこから現れたのは、空気を凍えさせるほどの冷気をもった氷柱であった。

 音もなく降り注ぐそれは、静かに魔物の肉体を侵食する。間もなく褐色の異形は、完全に動きを止めることとなった。


 【ブライニクル】――氷の最上位魔法。

 触れる者を凍えさせるだけでは飽き足らず、心の臓、その鼓動すらも停止させると言われるモノであった。アークデイモンはいま、その餌食となったのである。


「すごい……!」


 ボクは思わず、その光景に息を呑んだ。

 何故ならこの魔法は、文献にのみ書かれているだけのモノ。

 すなわち、詠唱や理論は確立されているにも拘わらず、相応の才能がなければ扱えない魔法なのであった。それをこのレミアという少女は、一発でやってのけた。その凄さは、魔法の才能に恵まれなかった自分だからこそ良く分かる。



 ――――レミア・レッドパールは、魔法の天才だ。



「はああああああああああああっ!!」


 そうやってボクが呆然と立ち尽くしていると、リリスさんが再び戦斧を振るった。それは動きを封じられたアークデイモンを捉え、粉々に打ち砕く。

 すると、ようやく今回の敵は魔素の結晶へと昇華されるのであった。


「カイルさん? どうされたのですか、ボンヤリとして」

「え? あぁ、いや……」


 リリスさんがそう声をかけてくる。

 ボクはそれを聞いてやっと、我に返るのであった。

 これは胸の中にそっと、しまっておこう。レミアに対して、嫉妬に近い憧れを持ってしまっていたなんてことは……。


「……レミア、お疲れ!」

「う、うむ! カイルの教え方が良かったからだぞ!」

「いや。レミアの呑み込みが良かったんだよ。ボクは理論を教えただけだからね」


 レミアに話しかけると、彼女はボクのことを立ててくれる。

 それに思った通りに返すと、どこかムッとした表情になり少女はこう言った。


「何を言っておるか。今までお主は、小さな努力を積み重ねてきたのであろう? それは並大抵のことではない。決して妾の力だけではない。お主がいてこそ、妾の成長があるのだ」――と。


 それは怒っているのか、それとも褒めているのか分からない言葉だった。

 しかし彼女はいたって真面目に言っているようで、腰に手を当てて、口をへの字に曲げている。ボクはそんな姿につい、表情を崩してしまった。


「ははっ!」

「むむぅ!? なんだその笑いは! 妾は真剣にいっているのだぞ!?」

「ごめんごめん! お願いだから、傘で叩いてくるのやめて! はははっ」


 すると、今度は本当に怒られてしまう。

 クエスト中だというのに、朗らかな空気が漂っていた。まぁ、今日はこれで目標達成なので、良しとしよう。あとは帰って、ギルドに報告をして終わり――。


「――――――し、師匠~っ!!」


 その、はずだった。

 次の瞬間に、情けのない少年の声が聞こえたのは。


「おや、アレは昨日の少年ではないですか?」

「え? あ、ホントだ……」


 リリスさんの指差す方を見ると、そこにいたのは昨日の酒場で出会った少年。

 それと、一緒に――。


「――――はい!?」


 ヒュドラにアークデイモン、そしてレッドドラゴン。

 凶悪な魔物の詰め合わせであった。


「た、助けてぇ!?」


 少年はこちらに駆け寄ると、ボクの背後に隠れる。

 そして、結果として先ほど挙げた魔物に取り囲まれるのであった。



「これ、どういう状況なの……!?」






 思わずボクは、そう口に出してしまう。

 そんなこんなで、何故か今日のクエストは延長されるのであった……。




 


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