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3.約束 Ⅰ

視点変更あります。





 ボクは昔、泣き虫だった。

 いいや。もしかしたら今だって、勇気のない意気地なしなのかもしれない。

 それでも、そんなボクでも――たった一つの理想があるとすれば、あの日の彼の背中だった。弱きを助けるボクのヒーロー。彼との約束を思い出すのだった。



◆◇◆



『やーい、カイルの泣き虫! 意気地なし!』

『や、やめてよぉ。どうして、ボクのことをいじめるんだよ……』

『あ? いじめてるだって? 一緒に遊んでやってるの間違いだろうが!』

『――――いたいっ! や、やめてって、言ってるのにぃ……』


 ボクは毎日のようにいじめられていた。

 元々、気が弱く孤児であったために貧しかったボクは、街の子供たちの良い標的になっていたのである。だけど院長に相談したら、迷惑をかけるかもしれなかった。それだからボクはただ、いじめを耐えるだけの日々を送っていたのである。


『う、うぅ……!』

『うわ、また泣きやがったよ! 男のクセに情けねぇっ! きゃはは!』


 しかしそれにも限界があった。

 ボクは、とうとう涙を流してしまう。

 そうすると、その反応を面白がっていじめっ子たちは笑うのだ。そして、さらに殴る蹴るの暴行を加えてくる。でも、ボクには耐える他に選択肢はなかった。


 そう、思っていた――その時。


『おい、お前ら。男らしくないのは、どっちだ?』


 ボクたちに、そう声をかけてくる少年があったのは。

 短く刈り上げた金の髪に、鋭い青の瞳。年の頃はボクと同じくらいか。短いパンツを履いて、むき出しの膝小僧には生傷があった。手には木の棒を持って、ジッといじめっ子を睨みつける。


 その少年は一歩、また一歩とこちらへと歩み寄ってきた。


『一人に何人もよってたかって、情けないのはそっちじゃないか』

『んだと、お前! 文句あんのか、この野郎!!』

『俺はお前、なんて名前じゃねぇよ――』


 そして、こう言って複数人相手にこう啖呵を切る。


『――俺の名前は、レオだ! 憶えておきやがれッ!』


 少年――レオは、幼さに見合わない鬼の形相でいじめっ子たちに躍りかかる。

 そう。それが、ボクとレオの出会いだった……。



◆◇◆



 それから、数十分の時が流れて。

 最後に立っていたのは、レオだけになっていた。


『へっ……口ほどにも、ねぇぜ……』


 レオは大きく肩で呼吸して、口元を拭う。

 ボクはその小さくも大きな背中をみて、ただ呆然としていた。


『おい、お前――あぁ、名前は?』

『え、あ……カイル』

『そっか。じゃあ、カイル? 怪我はないかよ』


 そんなこちらに、彼はそっと手を差し出す。

 ボクはそれを取って、一つ息をつきながら答えた。


『あり、がとう。大丈夫、怪我はないよ……』

『そうか? 結構、ボコボコに殴られてたみたいだったけど?』

『あぁ、うん。こう見えて、身体は頑丈なんだ。だから、大丈夫』


 ボクは泥だらけになった服を、申し訳程度に払いながらそう笑う。

 すると、ムッとした表情になったのはレオだった。


『馬鹿か、カイル。一方的にやられたままで、笑ってんじゃねぇよ』

『え、あ……うん。その、ごめんなさい』

『……そんな、しょんぼりすんなって』


 ――調子狂うなぁ、と。

 そう言いながらレオは頭を掻くのであった。

 しかし、すぐに少年は笑顔になり、こんな思いもよらぬ提案をしてくるのだ。


『そうだ! 俺が、お前を強くしてやるよ!』――と。



◆◇◆



「あぁ、夢だったのか。すげぇ懐かしいのを見たな……」


 俺――レオは、痛みに顔をしかめながら身を起こす。

 夢に見ていたのは、あのノロマとの出会い。ホントに気まぐれに、ムカついたから助けに入った。そして、何となく気が向いたから鍛えると言ったのである。


 どうして、今になってそれを思い出したのか。

 もしかしたら、それが俺にとって一番大切な記憶だから、なのかもしれない。


「へっ、走馬灯にしては――随分とむさ苦しいじゃねぇかよ」


 俺は剣を支えに立ち上がった。

 そうだった。身体は今の状況をハッキリ覚えてる。

 俺の見ていた夢は、短い気絶の最中に垣間見た、そんなものに過ぎなかった。つまり、俺の目の前には危機が迫っている。そう、つまり――。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 ――第十一階層の主こと、レッドドラゴン。

 ここまで突っ走ってきたけれど、どうやらこいつらからは逃げられないらしい。敵の数は五体――完全に囲まれてしまっていた。

 すぐに喰いかかってこないあたりを見ると、遊ばれている、というところか。


「はぁ、さすがに……」


 血迷っちまった、かな。

 俺はそう思って血の混じった唾を吐き捨てた。

 そして、剣を構える。もうこれだって、何度目かは分からない。


「でも、これもイリアのためだ。どうやってでも最下層に……!」


 それでも、俺は諦めるわけにはいかなかった。

 今も苦しんでいるイリアのために、ヴァンパイアの協力を得なければいけないのだ。そのために、俺はこのドラゴンたちを退けて――。


「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

「なっ!?」


 ――そう、思った時だった。

 レッドドラゴンが、大きな腕で圧し潰しにきたのは。

 完全な不意打ち。いや、あるいはただの戯れ、それの終わりなのかもしれなかった。だとすれば、俺にはもう回避することも出来なくて。ゆっくりと、目を閉じた。


「――――レオ!」


 幻聴、だろうか。

 尻餅をつく俺の前に、誰かが立っているような気がした。

 それは、やはり懐かしい響きであり、俺の冒険者としての原点に迫るもの。


「…………カイ、ル?」


 俺は、ゆっくりと目を開けて。

 そこに立っていた幼馴染みの名を呼んだ。

 すると彼は、カイルは、こちらを振り返って微笑んだ。


 そして、こう言ったのだ。



「あの日の約束、果たしにきたよ」――と。






 真っ二つにへし折れた杖を手に。

 俺の幼馴染み――ノロマのカイルは、あの時の俺のように笑ったのだ……。





 


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