1.王都について、すぐのこと。
「う、うわ……! なんだ、この人の数は!?」
ボクは王都の門を潜って開口一番、そう言った。
そこにはボクらの街――アルディアナとは比較にならない数の人。文字通りに人の波が出来ており、両隣にいるアビスとエリオを見失わないようにするだけで精いっぱいだった。最初は何かの祭りでも開催されているのか、とも思ったが違うらしい。
世界の情勢について詳しいアビス曰く、これが王都の日常とのことだった。
彼は涼しい顔で、ボクの半歩先を歩いている。
「はぐれないよう、気を付けて下さいね。カイル様」
「あ、うん……」
迷ったら最後、再び出会うのに数日はかかるだろう。
そう思われるために、必死にアビスの後を追いかけるボクとエリオ。しばし無言の時間が流れるが、不意にエリオがこう口を開いた。
それは、ボクにしか届かないような大きさで……。
「今さらなんですけど、信用しても良いんですかね。あの魔族は……」
それは、アビスのことを警戒するものだった。
言われてみれば、当たり前に受け入れたもののパーティーに魔族がいるのは違和感がある。しかしそれでも、彼から敵意は感じられなかった。
それどころかボクのことを敬うような態度すらあり、これまでとの違いが、その辺の事情をうやむやにさせている。
「まぁ、今は何もしてこないし。大丈夫じゃないかな」
「カイルさんがそう仰るなら、僕も否定はしませんけど……」
こちらの言葉に、エリオは少し唇を突出して頬を膨らせた。
そして、ぼそっとした声で……。
「アイツがいなければ、カイルさんとの二人旅なのに」
そんなことを漏らした。
聞こえなかったことにしよう。ボクはそう思った。
「それにしてもアビスは、どこに向かっているの?」
「ふむ……。そういえば、説明を欠いていましたね」
気持ちを切り替えて、目の前のアビスに訊ねる。
土地勘のないボクでも、いま歩いている道が王城へのそれではないのは分かった。だとすると、当然に浮かんでくるのは疑問なわけで。
こちらの問いかけに相手は、小さく笑みを浮かべてこう言った。
「なに、不安に思う必要はありませんよ。カイル様の助けになる場所です」
「ボクの助けに……?」
しかし、その意味が理解できずに首を傾げるしか出来ない。
それを見て、アビスはまた笑った。
「この角を曲がれば、もうすぐですよ」
「え、こんな裏路地に……?」
そして、一つ道――と呼ぶにはあまりに細い場所に入っていく。
まったくと言って良いほど、日差しのないそこ。当たり前だが人が歩いている姿は見られなかった。しかし、例外は常に存在するのだろう。
「お連れしましたよ。姿を現しなさい――アーシア」
「はっ、ここに」
一人の女性が、どこからともなく現われた。
桃色の髪に扇情的な衣服をまとった――。
「……普通の、人間?」
その人――アーシアは、ごく普通の人間であるように思われた。




