3.魔族としてのレーナ
――燃え上がる世界の中で、ボクたちは舞う。
そこに意義があるのか、意味はあるのか、大義はあるのか。
きっと何もない。何の意味もない。大義なんて、最も遠い概念だった。
「あはははははははははは! 愉しいね、楽しいね、悦しいね!!」
「レーナ……っ!」
洗練さなどない、力任せのレーナの攻撃を払いながらボクは唇を噛んだ。
じわりと鉄の味が口内に広がった。どうして、こんなになるまで彼女は一人で抱え込んでしまったのだろう、と。――かつての仲間の散り際を思い出した。
可哀想と思うのは、きっとボクの最低な部分。同情なんて、してはいけなかった。それでも考えずにはいられない。この子は、なにも悪くないのに、と。
「だけど今は、考えない……!」
思わず泣き出しそうになる気持ちを奮い立たせて、ボクは剣を振るった。
もう袂は別ってしまったのだから。ボクは院長の味方であると、そう決めたんだ。その思いを確かめるようにして、レーナの大鎌にハリエットの剣を叩き込む。
「ちぃっ!?」
すると、彼女の得物は遠くまで弾け飛んで行った。
ガシャン――と、無機質な音をたてて転がったそれを目で追うレーナ。
その隙を逃すことはない。
ボクはもう一歩を踏み込み、そして鋭くトドメを――。
「――な!?」
「ふふふふ、カイル兄さん? どうしてオレが『宵闇のレーナ』って呼ばれてるか、知りたくはなかった? もしかしたら、殺しちゃうかもしれないけど――」
刺そうとした、瞬間だった。
レーナが不敵に笑い、素手で剣を受け止めて云うのだ。
「カイル兄さんになら、見せてあげる」――と。
直後に、寒気がした。
熱気の立ち込めるこの空間において、異常ともいえる寒気が。
そして、気付くのだ。ボクは空を見上げて、一つの事柄について呟く。
「――『夜』、だ」
いつの間にか、日はすっかりと落ちていた。
そこに至って思い出す。アビスが話していたことを。
レーナは魔族と、ヴァンパイアの混血である、ということを……!
「この姿になるのは、他の四魔神と戦う時以来かな……? カイル兄さん――お願いだから、簡単に死ぬようなことだけはしないでね」
直後に、爆発的な魔力の高まり。
それが通り過ぎると、視線の先に現われたのは――。
「これが、レーナの魔族としての……?」
――銀の髪に、赤き瞳。
そして顔の半分が溶けだすようになり、骸が剥き出しになっている少女。大鎌を担ぎ上げる姿はまさしく死神と呼ぶに相応しく、湛える微笑みには不気味さしかない。身体を包み込む瘴気のような黒い煙は、それぞれがまるで手のような形をしていた。
「オレには魔族の中でも、アンデッドに近い分類の血が入ってるらしくてね。ちょっとばかり見てくれは悪いけど、その辺は勘弁してね?」
異形と化した少女が、ボクにそう語りかけた。
這いずり回るような声に自然、恐怖心を抱いてしまう。
だけども、そう思うことすら彼女に失礼なのかもしれない。そう考え直して、首を左右に振った。そして剣を構えて真っすぐにレーナを見る。
すると、どこか嬉しそうに少女は笑うのだった。
「嬉しいよ。他の四魔神さえ、この姿を気味悪がるのにね――ありがとう」
それは、ほんの微かに残った女の子としての感性か。
ボクは不意打ちのようなそれに、胸が熱くなるのを感じた。しかし、いつまでもそんな感傷に浸っている場合ではない。決着はもうすぐそこまで――。
「さぁ、終わりにしよう! カイル兄さん!」
「レーナ……!」
互いに姿勢を低くした。
そして、放たれた矢の如く飛び出すのだ。
死力を尽くして、この悲しみの連鎖を断ち切るために――。
新作書きました。
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(最弱魔族は、書き貯めが飛びました(-"-)
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