表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/133

6.賑やかに終わる夜





 …………えっと?


「……………………」

「……………………」

「……………………」


 なんだろうか、この重苦しい空気は。

 ボクとレミア、そしてリリスさんの三人は、綺麗とは言えない板張りの床に座って向かい合っていた。ちなみに二人は正座、ボクはあぐらである。

 レミアとリリスさん。二人の間には、名状しがたい火花が散っているような、そんな気がした。どうしてこうなったのであろうか。


 ボクは改めて、こうなるまでの過程を思い出すのであった……。



◆◇◆



 玄関からオンボロの自宅へ戻ると、出迎えたのは引きつった顔の赤髪少女。

 少女ことレミアは、その大きな目を見開いてリリスさんのことを見つめていた。そして、リリスさんの自己紹介にも、差し出された手にも反応を示さず絶叫。


 うん。やっぱり、ここまでだと何が何だか分からないな。


「ど、どうしたの。レミア……!?」


 その時のボクも何のことやら分からなかったので、そう問いかけた。

 すると返ってきたのは――。


「――今すぐ、元いた場所に返してくるのだ!?」

「え!? そんな、犬かなにかみたいに!?」


 そんな、錯乱しているとしか思えない言葉であった。

 ボクは思わず、そうツッコみを入れてしまう。


「いいから、妾は認めないからな! ふんっ!」


 すると少し頭が冷えたのか、レミアはそう言って部屋の中へと戻ってしまった。

 ボクは呆然。リリスさんの顔を見た。

 その彼女は、というと――。


「――……わいい」

「……へ?」

「む、あぁ。いえ、なんでもありません」


 なにか、呟いたことが分かった。

 だがしかし、そのすべては聞き取れずにはぐらかされてしまう。そしてボクよりも先にリリスさんは入って行ってしまい結果として、何故か家主のボクが取り残される形となった。そうなると、つい首を傾げてしまうのである。


 ――――え、いったいどういうコトですか?




 すると自然に、そんな疑問が浮かび上がるのであった……。



◆◇◆



 ――以上。

 ここまで至る過程であった。

 うん。やっぱり、ちっとも分からない。ボクは見つめ合う二人を交互に見つつ、苦笑いを浮かべるのであった。


「えっと、とりあえず二人とも。そんな怖い顔しないで、ね?」

「いえ、カイルさん。私は生まれつき、こんな顔です」

「あ、ごめん……」


 どうにか仲裁に入ろうとしても、こんな感じ。


「は、はは……」


 ボクの口からはそんな乾いた笑いが出た。

 しかし、いつまでも続くかと思われた沈黙。それを唐突に破ったのは、リリスさんだった。彼女はおもむろに深呼吸をして、こう言う。


「レミアさん。ご趣味は?」――と。


 え、それなんてお見合い?


 内心で思わずそうツッコむボク。

 けれども、唖然とした反応を示すこちらにはお構いなしに――。


「――夜の散歩、だな」


 意外にも、会話は続くのであった。


「では、お好きな食べ物は?」

「血の滴るような生肉だ」

「奇遇ですね。実は私も大好物です」


 さてさて。

 そんな淡々とした言葉の投げ合い。

 それに終止符を打ったのは、リリスさんのこんな質問であった。


「私のことを警戒しているのですね?」

「……………………」


 それは、いったい何を意味するのであろう。

 ボクだけが蚊帳の外で、しかしその緊迫した空気を感じていた。


「……ふむ。そこまで、馬鹿ではないか」

「レミア……?」


 すると、小さく息をついてから。

 レミアがようやく、意思をもったような声を発した。

 そこには何かを諦めた、そんな色が浮かんでいる。まるでこれまでの人生を省みるかのような、懐かしむような、そんな表情だった。


 そして、次に問いを口にしたのは少女。


「いつからだ?」――と。


 レミアは、薄い笑みを浮かべていた。

 リリスさんはそれを優しく受け止めるように、しかし真剣な顔で応じる。


「実は、初めて見た時からです」

「ふっ。ならば、隠れていても無駄、というわけか」


 少女は目を細めて軽くうつむく。

 そして、こう続けた。


「ならば良い。お前の好きにするがいい」


 そう、決意したように。

 彼女の浮かべた笑顔は年不相応に大人びて見え、ボクは思わずドキリとした。でも、それを遮ったのはリリスさん。彼女は少し熱のこもった声で言う。


「では、遠慮なく――!」


 そして凄まじい速度でレミアへと接近し、その細い首に腕を回し――。


「――御免!」

「ふぎゃっ!?」

「リリスさん、レミア!?」


 …………はい?


「ふびゃああ! な、なにをするのだ……!?」

「あぁ、やっぱり! 髪はサラサラで、お肌はすべすべ。初めて見た時から思っていましたが、レミアさんは可愛すぎです! 本当に食べちゃいたいくらい!!」

「な、やめぇ……!?」


 えっと、状況を説明しよう。

 リリスさんが、まるで猫を抱えて撫でるかのようにレミアを扱っていた。全身をまさぐる手つきは嫌らしく、呼吸は荒く、頬は火照って赤くなっている。


 以上が状況説明なのであるが、何のことだか分からない。


「は、離してくれええぇぇぇぇぇええっ!?」


 部屋の中には、少女のそんな悲痛な叫びだけが響き渡るのであった……。



◆◇◆



「いや、すみません。実は私、可愛いものには目がなくて……」

「で、レミアを撫でまわしたと」


 一通り満足したらしいリリスさんは、居住まいを正して座り直していた。

 それに対してレミアはと言えば……。


「ふ、ふにゅ……もう、嫁には行けぬ……」


 ぐったりと、床の上に倒れ伏していた。

 乱れた衣服を整える体力も残っていないらしい。ボクはそんな哀れな少女の姿から目を逸らし、しかしふと考えるのであった。


 ――――レミアのあの、決意したような表情はなんだったのか、と。


「……まぁ、いっか」


 しかし、その答えは出なかった。

 ボクはそう一人で結論付けて、二人を見る。すると――。


「では、これからよろしくお願い致します。カイルさん……それに、レミアさん?」


 ――終盤、熱を帯びたような声色でリリスさんがそう口にした。

 それを聞いたレミアは、というと……。




「い、嫌だああああああああああああああああああああっ!!」




 今日、何度目か分からない絶叫をするのであった。

 それがボクたち三人によるパーティの門出。始まりなのであった……。



 


現在、ランキングで頑張っております。

楽しい、面白いと感じた方は下部より評価をいただけると励みになります。


何卒よろしくお願い致します!


<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2019/3/4一迅社様より書籍版発売です。 ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=408189970&s 「万年2位が無自覚無双に無双するお話」新作です。こちらも、よろしくお願い致します。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ