プロローグ
「ふざけんじゃねぇぞ、カイル! 幼馴染みとはいえ、今回ばかりはハッキリ言うぜ!?」
「ぐっ――!?」
剣士であり、パーティーのリーダーを務めるレオがボクの胸倉を掴んだ。
場所は夜の酒場。人の多いそんなところで、ボクは吊し上げられるようになる。周囲の目はボクへと向かって伸びてきた。
「いい加減、そのよわっちい魔法は止めろって言ってるだろ!!」
「で、でも……! ボクにはあれが限界で!」
「そんな言い訳、聞いてねぇんだよ!」
「あがっ!」
レオは言って、ボクのことを放り投げた。
無抵抗なボクはそのまま床に転がる。酒場はどよめきによって満たされ、野次馬がボクたちパーティーを取り囲んだ。痛くはなかったが、それでも視線は痛かった。
見上げると、そこにはレオの見下す蒼い目。
そして、他二人の仲間の、どこか納得したようなあきれ顔だった。
「ごめん……。次は、ちゃんとやるから」
ボクは起き上がろうと片膝をついて、彼にそう言う。
たしかに、今回のクエストの失敗の原因はボクにあった。魔法の発動を失敗して、なおかつ狙いは外し、敵の注意を引くことさえできなかったのだから。
それでも、まだ次はあるはずだ、と。そう考えていた。
しかし次の瞬間に言い渡された宣告は、あまりにも残酷なものだった。
「いや、お前。もういらねぇから」
「え……?」
そう、それは戦力外の宣告。
「もう、新しい奴には声かけてあるから。明日から来なくていい」
「そ、そんな!? なんで、一言もなく……!?」
「うるせぇな! お前、やっぱり分かってねぇ!」
「ひっ……!?」
ボクはレオの言葉に、たじろいで情けない声を発してしまった。
そんなこちらに彼はさらに続けて言う。
「今回のクエスト。お前のせいで、イリアが怪我したのが分かってねぇのか? 今回だけじゃない。今までだって、何度もお前の弱い魔法のせいで失敗しかけてきたんだ。なぁ、そうだろクリム」
「えぇ、そう言わざるを得ないわ」
「ク、クリムまで……!?」
怪我をしていない、紫の長い髪に魅惑的な唇をした女性――治癒師のクリムはそう同意した。ボクと同じく後衛の彼女は、いつもボクのことを庇ってくれていたのに……。
「今まで黙ってきたけど、ね。カイル……貴方の魔法は弱い。弱すぎるの」
「そんなっ……!」
そんな彼女が口にしたのは、やはり残酷な現実だった。
「どうにかして使えるのは、初歩魔法である【ファイア】だけ。それも、威力は並以下のもの。申し訳ないけれどね私もこれ以上、貴方をかばってレオに嫌われるの、いやだから」
「………………っ!?」
そして、次に出たのはそんな発言。
そうだった。クリムはレオのことが好きなんだ。
でも、レオはイリアと付き合ってて、今までそれを表立って言わなかったのに。それを思わず言ってしまうほどに、彼女は呆れてしまっていたのか……。
「………………くっ」
ぐっと、溢れ出しそうな感情を抑え込む。
たしかにボクは、並以下の魔法使いだ。
普通に魔法で戦うのが難しいから、陽動からの近接戦、しんがりも務めてきた。そう。ボクはボクなりに、このパーティーの力になろうと頑張ってきたのである。そのためにも、考えうる鍛錬はすべて積んできたつもりだった。
それでも、結局のところ魔法使いとしてはあまりにも役立たず。辛うじて使えるのは初歩の初歩、子供でも扱えるハズレ魔法【ファイア】だけ。
今までレオと幼馴染みだという理由だけで置いてもらっていたけど、それももう限界なのかもしれなかった。
「…………分かったよ」
だとしたら、ボクは……。
「ボクは、このパーティーを抜けるよ……」
もう、抜けるしかない。
慣れ親しんだ仲間とはもう、歩めなかった。
いいや。正確に言うならば、歩ませてもらえないのだった。
「けっ、陽動さえまともに出来ない雑魚がいなくなって、せいせいするぜ」
「まったくね。彼がいなければ、今ごろパーティーランクだってSになってたはずよ? それだと言うのに……」
ボクはふらつく足でその場を離れる。
そんな時に背後から聞こえてきたのは、仲間だった彼らのそんな言葉だった。
◆◇◆
「はぁ……。これから、どうしようかな……」
ボクは行き場をなくして、街の広場で真っ暗な空を見上げていた。
厚い雲がかかって星がまったく見えないそれはまるで、ボクの今の気持ちを示しているかのようで。とにかく、気持ちが沈むことこの上なかった。
「どこかのパーティーに入れてもらうにも、なぁ……」
噴水の前に置かれている長椅子に腰かけ、ボクは呟く。
この前歴は、きっと拒否される原因となる。将来有望と言われていたパーティーを追放された最弱の魔法使い――そんな曰く付きを仲間に入れてくれるなんて……。
「そんな都合の良いパーティー、あるわけ――」
「――ちょっと、そこの若いの。少しだけ時間いいかの?」
「……え?」
ボクがもう何度目か分からないため息をつこうとした。
その時だ。声をかけてくる人物があったのは。
それは、幼い少女のそれで……。
「見てくれはどうやら、魔法使いのようじゃな?」
「キ、キミは……?」
面を上げるとそこにあったのは、美しい顔だった。
背丈はボクの半分ほどしかなかったけど、どこか威風堂々としたたたずまい。閉じた傘を手にした赤髪に赤き瞳をした少女は、にっと八重歯を露わにして言った。
「お主、名は?」
「え、カイル・ディアノス……だけど」
「ふむ。カイル・ディアノスか、ならばカイルでよいな」
少女は笑う。
そして、続けてこう言うのであった。
「妾はレミア・レッドパール。カイルよ、お主はこれから……」
それは、ボクの運命を大きく動かすもので。
「……妾の創設するパーティーの一員となるがよい!」
ボクの運命を、大きく変えるものなのであった……。
初めましての方は初めまして。
鮮波永遠と申します。
第一話は9~10時頃に投稿します!
よろしくお願い致します!!
<(_ _)>