僕の17年間と"それ"
屋上は冷たい風が吹き抜け、張り詰めたような空気をさらに痛いものにしていた。
この学校の屋上にはフェンスがない。落ちたい放題だ。
縁にある段差に片足を掛け、目を瞑る。17年の色褪せた人生を振り返ってみる。
物心つく頃には、僕が自分が何故ここにいるのかが分からなかった。
幼稚園では、こいつらはなんでこんな馬鹿みたいにはしゃいでるんだ?と不思議でならなかった。それは、小、中学生になっても変わらなかった。
家に帰ると僕は2階の部屋に籠る。1階のリビングから怒声が響く。いつものことだ。父と母は毎日のように喧嘩をしていた。成績が上がらない僕のこと。父の浮気がバレたこと。1年365日飽きることなく怒声は続き、彼らは中2の秋に、離婚した。
母親方について行った僕は、働いて生活できてはいたものの、毎日酒を飲み、以前とは性格も随分と変わってしまった母を見て、いないところでため息をつくしかできなかった。
この17年間。振り返っても、それくらいだ。
僕は、何も持っていない。
僕が死んだところで母は重荷が軽くなった程度にしか思わないだろう。
不思議と怖くはなかった。
やっと蹴りをつけられる。
結局僕の目には最後までこの世界は白黒のように映っていた。
よし。行こう。
目を開けた。
気付かぬうちに、雪が降っていた。
僕の命日にはもったいないなと思った。
段差にもう片方の足を乗せようとしたそのとき
僕はずっと隣にいた"それ"に声をかけられた。
「藤村、祐希くん…ですよね、?」
透き通った、綺麗な声だった。