夜の学校
家から、僕の通う県立笠浦高校までは自転車で20分ほど。
校門をくぐり、昇降口で上履きに履き替え自分のクラスに向かう。自席につき、特に何をする訳でもなくぼうっとつまらない授業を聞き流し、誰とも話すこと無く家に帰る。
学校は、嫌いだ――
誰とも関わりたいと思わないので、クラスの人の名前など1人も覚えていない。彼らもそれを察しているらしく僕を除け者にする訳でも、いじめる訳でもなく、ただの背景として扱っている。
彼らはそもそも学校という狭いコミュニティに囚われ過ぎているのだ。
と、自分に予防線を張る。言い聞かせる。
そんなことをするのも今日で最後になるのか。ふと、自分を客観的に見つめてみる。
つまらない人生だったなぁ。
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深夜0時、控えめな音に設定しておいた目覚まし時計がなる。その音で目を覚まし、コートを羽織ってそーっと家を出る。
自転車に跨り、25分ほど走ると、目的地の学校が見えてきた。
なぜ、自殺する場所を学校にしたのだろう?
ふと、思い返す。
最後くらい、自分がいたという証をそこに残しておきたいのかもしれない。
笑ってしまった。この世界に絶望しているはずなのに、自己掲示欲の塊みたいな発想がまだ僕の中にあるだなんて。
昼間鍵を開けておいた窓から侵入する。夜の学校が放つ異様なオーラが僕を襲う。確かに。怖い。
しかし引き返そうとは思わなかった。むしろ最後の恐怖を楽しんでいるようにすら思えた。
階段を登り最上階の4階の更に上へ続く階段を進んだ扉を開け、屋上へ出る。
僕はこのとき、この扉に鍵がかかっていなかったことに怖いくらいなにも違和感を感じなかった……。