【第8回】 倉見の決断
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七月の最終金曜日。午後一時。
倉見は俺が住むマンションの一室……、俺の部屋にいる。結局、俺は倉見の、「あなたと裸で抱き合ってみたい……」という申し出に応じたのだ。
その際、俺は、〈ある確認〉を行っている。それは、「何故、そこまでする気になった?」という当然の疑問に対する返答を求めたのだ。
一方、自分でも理解出来なかった程、彼女の提案に対して俺は〈興奮〉を覚えなかった。
確かに俺は倉見に対して、恋愛感情を持っていない。だが、女子から、「裸で抱き合ってみたい……」と言われ、興奮しない男子は稀だろう。その様な男には「男性が関係する別の意図」がある筈だ。しかし、俺には〈それ〉がない。普通の健全な男子なのだ。
しかし!
興奮を覚えない。
(何故だ?)という疑問のみが俺の脳内を支配する。その所為もあり、俺は倉見の返答を冷静に聞く事が出来た。
それを要約すると、こうなる。
倉見が〈意識体〉の存在を意識し始めたのは、中学校に入学して直ぐだという。その後、紆余曲折を経る事になるが、彼女は、その存在を認めた。この経緯に関して倉見は、「面白くない話を延々と聞かせるわよ!」と言って、適当に切り上げたが、相当、悩んだのは事実の様だ。
結局、意識体の存在は認めたものの、その「存在理由」までは理解出来なかった……、意識体としては説明を重ねたのだが、「意味不明の日本語」を使った為、理解出来ないまま、今日を迎える。
その一方、意識体が「死後の世界」と密接な関係にある事だけは理解出来たという。彼女は、この「死後の世界」に喰い付いてしまったのだ。そして、「その内容を知りたい!」と切望するが、相変らず、意識体が発する言葉の大半が意味不明の状態だった。
そこに俺が〈登場〉したという訳だ。しかも、意識体に、『入谷啓吾と一緒なら、儂の話が解るかも知れない』と言わせた俺が……。
倉見の認識として、「死後の世界を知る」のと、「好きでもない男と裸で抱き合う」のとでは、前者の方が勝っていたのである。その為、俺は彼女から強く告げられた。
「私の裸を見ても構わない。だから、しっかりと抱きしめて欲しいの。でも、それ以上の事は絶対にしないで!」と。
俺自身、「死後の世界」に対して強烈な興味は持っていなかったが、祖父の死に関する「不思議な現象」を知っているが故、倉見に対して関心を持ち、しかも、彼女に憑依している意識体が「『死後の世界』と関係がある」と言われれば、着目してしまうのは当然だろう。
俺は倉見の申し出を全て受け入れる事にした。
そして、共働きの両親と大学生の姉がアルバイトに行き、誰もいない時間帯を狙い、俺が住むマンションへ彼女を招き入れたのだ。
とは、言っても、俺は健全な男子。いざ、倉見と二人きり……、しかも、それが俺の部屋となれば、少なからぬ動揺を覚えた。
(これから、裸で抱き合うんだ……)
そう思った瞬間、これまで冷静だった俺の心が一気に興奮し始める。
彼女を、この部屋へ呼ぶ際、窓にある雨戸は全て閉じた。もちろん、外部から部屋の様子が見えない様にする為である。
「服……、脱ぐ時……、電気……、消そうか?」
俺は、やっとの思いで、そう言葉を発しながら、倉見を見た。彼女の顔は真っ赤になっている。それも当然だろう。
しかし、彼女は気丈とも言える、しっかりとした声を発した。
その話に俺は絶句する。