【第7回】 検証作業、そして……。
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神社の裏手で倉見が俺に抱き付いた後、俺も彼女の背中に腕を回し、抱き合う。
その間、倉見に憑依している意識体は、俺の脳内に言葉を送り込み続けたが、ほぼ、理解不能であった。
俺は倉見に対して、「少し考える時間が欲しい」と告げ、初めてのデート……、これが、そう呼べるものでない事は充分に解っているが、デートに終止符を打つ。
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自宅のマンションに戻った俺は、倉見との初デートに関する検証作業を始めた。
まず、このデートを行う要因は意識体が発した、『入谷啓吾と一緒なら、儂の話が解るかも知れない』という言葉である。そして、彼女の中にいる意識体は「倉見を介せば」という条件が付くものの、俺との接触が可能な事を確認する。この件に関しては「大きな収穫」とも言えよう。
次に、これは確定ではないが、俺と倉見とが触れ合う……、しかも、その面積が大きい程、意識体は俺に、より多くの情報を流し込めるのは確かな様だ。それを実行する為に意識体が「『ほうよう』をしろ」と言ったのが、その証拠だろう。
半面、「抱き合った程度」で意識体が話そうとしている内容の理解は、出来ないとの確証も得ているが……。
また、「禁止は『せっぷん』!」という言葉には、意識体が俺を利用する際、倉見と抱き合う……、しかも、相当、濃密な抱き合い方が必要な一方、「キスまでは求めない」という意味だと解釈する。
(それにしても、『せっぷん』……、『接吻』って、いつの言葉だ?)と、現在では、ほとんど使わない単語を意識体が用いた事に俺は少し驚く。
意識体を「人」と表現するのは変だが、(もしかしたら、かなり〈古い人〉かも知れない。自分を示す言葉として『儂』とも言ったし……)と考えていた。
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翌日の水曜日。俺は倉見からメールを貰う。それは午前十一時頃であった。
「今日の午後、もう一度、会えない?」
その誘いを俺は承諾する。
午後二時半。俺と倉見は例の神社裏のベンチに座っていた。相変らず、ここには人気がない。
先に口を開いたのは倉見である。
「私、昨日、ここでの出来事を検証してみたの。その結果、入谷君と抱き合う事で意識体の言葉が、あなたに伝わる事実だけは理解したわ。その内容は理解出来なくても……」
(倉見も俺と同じ様な〈作業〉をしていたんだ……)
彼女と別れる際、俺の立場として、この場で「何が起きたのか」を全て話している。それを加味した上で倉見も検証作業を行っていたらしい。
彼女の言葉が続いている。
「でも、昨日の状況では〈中途半端〉だった。結局、入谷君は意識体の話を、ほぼ理解出来なかったんだから……。そこで、更なる状態……、はっきり言えば、『裸で抱き合ったら、どうなるんだろう?』と考え始めたんだ」
(!)
その言葉に俺は絶句する。まさか、倉見の口から、「裸で抱き合ったら」という声が発せられるとは想像もしなかった半面、俺も、それは考えていた。
(服を着ないで抱き合ったら、どうなるんだろう?)と……。
「そこで、入谷君に、お願いがあるんだ。私、もう、決心が付いているから、はっきり言うけど、あなたと裸で抱き合ってみたい……、いや、その結果を知りたいの! でも、意識体が言った様にキス……、いや、それ以上の事も出来ないけど……」
自分でも不思議な程、倉見の話を冷静に俺は聞いていた。