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【第6回】 始めてのデート?

 ※


 七月最終の火曜日。俺と倉見は、彼女の家から歩いて十五分程の場所にある神社へと向かう。

 この神社の裏手には「広場」とは言えないものの、多少のスペースがあり、神社の縁起を記した石碑や、四体の石仏の他、木製のベンチも設置されていた。

 この神社は丘の一部を削り、造成された場所に建立された為、その裏側には法面のりめんがある。土砂崩れ防止の為、コンクリートで固められていたが、そこに埋め込まれた「水抜き穴」からは少量ながらも常に水が流れ出していた。その上、巨木とも言える四本の木々が枝を張り、葉を茂らせている。これらが要因となって、相当、湿度の高い場所でもあった。この様な状況でもあり、普段、神社の裏手に来る人は皆無と言って構わない。

 取り敢えず、二人はベンチに座ったが、俺としては何をすれば良いのか、皆目見当が付かない状態だったのも確かだ。

 一方、倉見は真剣な表情を浮かべ、黙ったまま、上の方向に視線を向けている。

 ここ数日という範囲なのだろうが、しっかりと睡眠は出来ているらしい。目の下にあった隈は消え、血色も良かった。その様な彼女を見ながら、(意識体と何だかの会話をしているのか?)と俺は考え、敢えて声を掛けていない。

 しばらくして、倉見の口が動いた。

「意識体は、『身体からだを接触させろ』と、繰り返しているんだけど、色々と条件を付けている様なの……。だけど、その条件に関しては理解不能な言葉しか並べないし……」

 視線を移し、俺の顔を凝視している彼女には困惑の表情が浮かんでいた。

「倉見さんが嫌でなければ、手を握ってみようか」という提案に対して、彼女は、「そうしようか……」と呟き、俺の左側に座った倉見が、その右手を俺の方へと差し出す。俺も左手を動かし、彼女の手を握った。

 だが、何も起きない。

「恋人握りにする?」と言ったのは、倉見である。俺は無言で自分の指を動かす。彼女も、それに倣い、お互いの指と指とを絡ませた。

 それでも、何も起きない。

 倉見が呟く。

「やはり、抱き合わないと、駄目なのかなぁ……」

(おっと、過激な発言が飛び出したぞ!)と、考えながらも、その言葉に俺は何故か、興奮を覚えない。

 彼女の言葉が続いている。だが、それは完全な独り言であった。

「好きでもない男と抱き合うのは抵抗があるけど、別に裸じゃないんだから、仕方ないか……」

(はっきりと自分の意見を口にしたな!)と、思いつつも、その内容には少し驚く。

 更に、彼女が俺と抱き合うという行為に対して、「仕方ないか……」と言った途端、彼女の手を通して、〈何か〉が俺の中へと〈送り込まれ〉始めたのだ。それと呼応し、倉見を抱くという行為に対して、かなりの強い抵抗感を覚え始める。

(何だ、この感覚は……)

 敢えて表現するのなら、「本能的な恐怖」に近いかも知れない。「その一線を超えると、大変な事になる!」と、心が警鐘を鳴らしている様にも感じられたのだ。

 そう思った瞬間だった。

「手、離してね」と、倉見は告げ、矢継ぎ早に、「その場に立ってから、そのまま動かないで!」と命じる。

 俺は、それに従い、まず手を離し、立ち上がった。同時に彼女もベンチから腰を上げ、俺の前に移動すると、そのまま、俺に抱き付く。その行動は俺の想像を超えた素早いものであった。

「えっ!」と、その行為に対する驚きの声を上げた瞬間、俺の脳内で「自分のものでない声」が響く。

「『ほうよう』をしろ、禁止は『せっぷん』!」

(『ほうよう』とは、『抱擁』……、つまり、『抱け』?『せっぷん』、……『接吻』って、『キス』の事か?)

 その様に考えつつ、まだ脳内で響き続ける声の内容を理解しようとしたが、それは叶わぬ努力に終わる。

 一方、倉見が俺に語った「意識体の話し方」を思い出す。

(日本語を使うにも関わらず、理解出来ない単語を使い、文法も無茶苦茶……)

 今、俺の脳内で響いた声の内容が正に、それであった。

(と、すると、あれは倉見に憑依している意識体の声?)

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