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【第5回】 初デートの約束

 ※


 そうこうしている内に夏休みへと突入する。

 同時に倉見が動いた。夏休みが始まった翌々日、俺は倉見に呼び出され、高校に近い市民公園へと向かう。

 そこで見た倉見の姿に俺は絶句した。目の下には〈隈〉が、はっきりと現れ、顔も蒼白い。

(まともに寝ていないな……)と直感した。それを口にしようとした瞬間、先に倉見が声を発する。

「最近、私に憑依している〈意識体〉が頻繁に話し掛けて来るのよ。さすがに、授業中や、家で勉強している時は避けてくれたものの、寝ようとすると〈マシンガントーク〉が始まるんだ。それでも私、睡魔に勝てず、寝てしまうと、今度は夢の中にまで出て来て、そのマシンガントークを続けるの。お陰で完全な寝不足。それでも、学校がある時は寝かせて貰えたんだけど、夏休みに入ってからは一睡も出来ない状態に……。困ったわ……」

(それは困るだろうな……)と、他人事の様に感じつつも、以前から気になっていた点を質問してみた。

「倉見さんに憑依している意識体とは、コミュニケーションが上手く成立しているとは思えないのだが……」

「実は、それが最大の問題なの!」と言って、彼女は話を始めた。

「その意識体なんだけど、一応、日本語で話し掛けて来るんだ。ところが、私が知らない単語を多用するのよ。一種の専門用語なんだろうけど……。その上、文法が滅茶苦茶。助詞の使い方は変だし、主格となる言葉と述語の整合性が取れていない場合も多い。端的に言ってしまえば、『日本語を聞いている』のは確かでも、その意味は不明。時折、『そういう事が言いたいのね』と、解る場合もあるんだけど、結局、私が理解している話って、その部分だけ……」

(うわー、これも疲れそうだ……)と、これまた他人事と割り切りながらも、(意識体は倉見に対して、『何かを伝えたい』という強力な欲求がある様だな)と、こちらは冷静に判断する。

 彼女の話が続いていた。

「二年生になってからだけど、意識体が発する〈声〉の中に、『イリヤケイゴ』が出始めたんだ。これって、入谷君の名前……、入谷啓吾いりや・けいごだとは直ぐに理解したんだけど、その前後の文脈が滅茶苦茶だから、何が言いたいのか全く不明だったの。ところが、夏休みに入ってから、『入谷啓吾と一緒なら、わしの話が解るかも知れない』と、頻繁に言い始めたんだ。でも、理解出来たのは、そこまで。私自身、極度の寝不足だったし、その時は、それ以上、考え様ともしなかった。その一方、入谷君には悪いとは思ったけど、一度、二人っきりで会ってみた方が良いんじゃないかと考え、今日、呼び出したんだ……」

 そう言った途端、彼女は大きな欠伸あくびをする。しかも、豪快な!

(それ、女子が男子の前でする欠伸じゃないぞ!)と思いつつも、(彼女自身も困惑しているな)と直感した。


 ※


 倉見には一つの特徴がある。普段、彼女に話し掛けるクラスメイトが俺と香川だけという事情に加え、俺から「倉見に近付いた」という側面もあるのだろう。俺に対しては割と〈フランク〉な言葉遣いをする。俺自身も、それを不快だとは思っていない。

 クラスメイトから、「入谷は倉見の事が好きなのか?」という旨の質問を受ける一端が、ここにあると解釈している……、正確に言えば、倉見は俺に対してのみ、「素の自分」を出してしまうのだ。

 更に加えるのなら、彼女自身、それに気付いていないと考えている。それ程、ナチュラルな反応を俺に対してのみ、行うのだ。しかも、倉見の「俺に対する特別な言動」を認識しているクラスメイト達もいるだろう。ただ、倉見自体が〈特殊な存在〉であるがゆえに、それを口にする……、「倉見さんは入谷の事が好きなのか?」と、彼女に尋ねる者はいないが……。


 ※


 俺は彼女の話を聞きながら、(一度、デートをしてみるか……)と考え始めていた。

 もし、倉見に憑依している意識体が何だかの理由で俺の存在を〈気にしている〉のなら、学校内という制約が多い場所ではなく、ある程度かも知れないが、自由度が高くなる「デート」という環境で彼女と接しても、(構わない)と思ったのだ。

「もし、倉見さんの中にいる意識体が俺の事を気にしているなら、一度、デートをしてみないか?」と、彼女を誘ってみる。

 その返答は、「いいよ」だった。

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